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【東京工業大学 生命理工学院】小林 雄一 教授(前編)

研究者の方たちの英語力向上法などについてお伺いするインタビューシリーズ23回目。

生命理工学とは、医学や薬学などのライフサイエンスとテクノロジー(工学)が関係する幅広い題材を研究される分野だそうですが、小林教授の研究室では生理活性化合物の合成を研究されています。前編では、最先端の研究を発表される際のご苦労についてお伺いしました。


■ 先生のご専門と研究について、わかりやすく教えていただけますか。

大くくりでは化け学(化学)ですが、その中でも有機化学が専門です。僕がやっているのは医薬品を目指した基礎研究ですので、薬になるかならないかといった具体的な話は次世代への課題になります。なかなか手に入らないような化合物を合成するわけですが、生化学の研究者と共同で論文を書ければいいなと考えながらやっています。例えば、先日ノーベル賞を賞与された免疫に働く細胞のようなもののように、分子レベルで細胞の働きをコントロールするものがあります。最近話題のEPA(エイコサペンタエン酸)とかDHA(ドコサヘキサエン酸)といった化合物も、そういった働きをする分子で、それらが体内に取り込まれて代謝されると、免疫あるいはインフラメーション(炎症)をつかさどる細胞を活性化したり抑制したりします。人間の体の中から取れる化合物はわずかですが、僕らは有機合成して作り出すので、生化学者が驚くほどの量を供給できるんです。そのための新しい合成法を開発しようとしているわけです。例を挙げれば、先ほど言ったような、EPAとか、DHAの誘導体などを合成しています。

■ 先生方の研究された化合物を、企業、例えば製薬会社が使ってさらなる研究や開発を進めるということでしょうか。

はい、そういうことです。ただ、我々がやっているのは基礎研究なので、お付き合いしているのは製薬会社より国内外の大学の先生が多いですね。

■ 国内外の研究者と共同研究されたり、または学会で発表をされたりする際に、ご苦労された経験はありますか。

やはり語彙の少なさでしょうか。語彙が少ないために微妙な表現ができないのです。日本語なら細かいところも伝えられるのに、英語となると簡単にはいかない。本当は、こんなことを言いたいのに……というのがなかなか伝えられなくて(笑)。研究に頻出する物質の名前や専門用語よりも、それらをつなぎ合わせて文章にするための動詞や名詞など、そういうところでいつも苦労しています。そして、発表終了後に「ああ言えばよかった」「こうすればよかった」と悔いが残るんです(笑)。

■ 発表の前にはどんな準備をされますか。

準備はたくさんするんですけどね。やはり発表は中身が勝負なので、まず中身を考えます。発表にはプロジェクターを利用するので、スライドを見せれば大体の結果はわかるように示せます。なので、結果については最低限わかりやすいスライドを作る努力をします。それでも足りないところは、口頭の説明で補う。これを英語でやる際に、なかなかとっさに英語が出てこないので、最初は紙に書いておいて、自分でしゃべってみて、何かおかしいなと思ったら、すぐ直してというのをやっておきます。僕は、発表の直前までこの準備をやっています(笑)。

自分で原稿を用意して、読む練習をして、スライドを見ながらの説明をやってみてというのを繰り返しておきます。僕の立場になってしまうと、誰かと発表し合うということはありません。学生が発表するときには、練習やろうと声をかけて練習に付き合うのですが、僕個人の発表練習は、誰も付き合ってくれません(笑)。だから毎回、自分で練習して、本番で足りなかった部分などは次回に生かしていくようにしています。

■ 発表は年に何回ぐらい?

年に数回のときもあれば、1回行けばいいかというときもあり、意外とバラバラです。
発表の内容が違えば、される質問も違うわけですが、何と言っても自分がこういう研究をやりましたというプレゼンテーションをしなければならないわけです。それが、上手くいかない。本当はこう言いたいのにとか、ここは苦労したところだから強調したいんだけど――というところが何とかしてうまく伝えられないかと思いますね。

■ 英語での発表は海外の方が多いですか?

英語を使う国際会議は海外がメインです。時々、日本でも国際会議と称して東京都内や、京都、大阪でやることがあって、一応国際会議なので発表は英語になるのですけど、日本開催のときには、オーディエンスの大部分が日本人なので、発表の中にちょこっと日本語を入れたりして、あんまり苦にならないです。やはり、緊張するのは海外に行ったときで、特に神経を使います(笑)。

行くのはアメリカが多いですね。国際会議には、英語圏からも、それ以外からも世界中から研究者が集まってきて議論をすることになりますが、質問に対して回答するための練習方法などはありません。そこは、ぶっつけ本番です。どんな質問が来るか分からないので、英語がいい加減であっても答えるようにしています。後で話そうと言ってその場での話しを終わりされる研究者も時々いらっしゃいますが、僕はそれが嫌なので、何が何でも最後まで回答するように努力します。それがいいのか悪いのか分かりませんが。

■ 研究室の学生さんや一緒に研究されている方も国際会議で同じようなご苦労をしているのでしょうか?

学生はそんなに国際会議でしゃべることはないので、それほど苦労することはないと思いますが、2年ほど前に台湾に学生を台湾に引率して連れて行ったときは、学生たちはすごく緊張していました。行く前からだいぶ練習していて、かなりつき合わされました(笑)。学生が書いた原稿を元にスライドを作るので、それらを添削したりしました。日本語で発表資料を作るときも同じですが、原稿を書いて、それに応じたスライドを作って説明しようと思っても、うまく話せないことがあります。スライドが悪い場合には、スライドを直していいと指導しますし、話し方についても、学生との練習で「よし」としたことでも、発表者がしゃべりにくいなら自分で勝手に変えなさいと。原稿を読まないでできるようにするところを目標にさせているので、自由度を持たせているんです。ある程度のところまでは指導しますが、それ以上のことは自分自身がやりやすいように、臨機応変な対応ができるようにやりなさいというようにしています。


後編では、論文執筆についてご自身がご苦労されたことと、学生への指導についてお話いただきます。

 

【プロフィール】
小林 雄一 (こばやし ゆういち)先生
東京工業大学 生命理工学院 教授・工学博士
1981 – 1982年 米国コロンビア大学博士研究員
1982年 東京工業大学助手
1991年 同大学助教授
2010年 同大学教授
受賞
1988年 日本化学会進歩賞
1991年 有機合成化学協会・研究企画賞
2011年 東工大教育賞2010年竹田国際貢献賞

 

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