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「掲載後査読」はアリ? 専門家たちの見解は……

科学の世界では「掲載後査読(post-publication peer review)」が話題になっています。日本では、小保方晴子・理化学研究所ユニットリーダーが「STAP細胞」の作成成功を『ネイチャー』で報告したのですが、ご存知の通り、残念ながらこの研究は現在、不正(捏造・改竄・盗用)を疑われています。その発端となったのは「PubPeer」という研究者どうしが情報交換するオンラインコミュニティへの匿名希望者からのある投稿でした。このPubPeerを含む「掲載後査読」という新しいシステムについて、エナゴブログ編集部が専門家3人の見解を聞きました。(エナゴブログ日本版編集部)

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 伝統的な査読プロセスは、科学出版における重要な手続きです。しかし、それはもはや不完全であることも知られています。そのため科学者も出版社も、査読のもつ意義を最大限に引き出し、その本当の目的に見合うものとするために、新しいモデルを検討しています。
新しいモデルのうち1つは、科学論文が出版された後にもそれを批評することです。「掲載後査読」を、科学論文の質を向上させる絶好のチャンスととらえる科学者が増えています。科学ジャーナルのオンライン出版によって、科学者たちは、発表された論文についての見解を「コメント」や「レビュー(査読・再評価)」というかたちで共有し、オンラインで議論できるようになっています。しかし、発表された論文にコメントするためのプラットフォームがいくつもあることによって、研究者たちが特定の論文や記事についてのコメントすべてを一カ所にまとめることが難しくなっているという問題もあります。
医学文献検索システムとして知られる「PubMed」は、読者からの膨大なリクエストに応じ、そうしたコメントを一カ所にまとめるシステムへ向けたステップとして、「PubMed Commons」というフォーラムを開設しました。
PubMed Commonsによって、PubMedに登録されている論文すべてについて、コメントを投稿できます。登録したユーザーは、その論文にアクセスする誰もが閲覧できるコメントを加えることができます。「PubMed Commonsは、科学的な話題について、オープンで建設的な批評と議論を行うためのフォーラムです。科学コミュニティによるレベルの高い交流によって、PubMed Commonsはさらに成長するでしょう」。より詳しくは、PubMed Commonsを参照してください。
発表された論文へのコメントを集める取り組みとして、もう1つ挙げられるのは「PubPeer」というオンラインコミュニティです。
PubMed CommonsやPubPeerのような投稿コメントを集めるオンラインコミュニティは、学術的な科学コミュニケーションにポジティブなインパクトを与え、科学をめぐる対話への参加を促すものなのでしょうか? 学術誌にある「編集者への手紙(Letters to the Editor)」欄への信頼を失わせてしまったりしないでしょうか? 現行の出版前査読の欠陥を克服するものなのでしょうか? そうしたコメントは、研究の質を計る指標として一役を担うものになるのでしょうか?
この問題について、科学出版業界の専門家たちの見解を聞いてみましょう。
「掲載後査読」をめぐる専門家たちの意見
1. 掲載後査読で従来の査読システムの信頼回復は可能

査読というプロセスは、理想とはほど遠いものです。ほとんどすべての研究者は、査読のプロセスで、複数のジャーナルに投稿してからも満足のいくかたちで論文を出版できなかった、あるいは、その研究が受理されて出版されるとは信じられなかった、という経験をしていると思います。その理由は残念なことに、しばしば同じです。つまり、専門分野内で客観的な査読をできる者が不足していることです。ならば自問してみましょう。ベストな方法は何でしょうか? 最近、オープン・アクセスのジャーナルが爆発的に増えています。科学出版の世界に革命を起こすオープンな査読プロセス、と謳われています。しかし残念なことに、そのシステムは、非常に低い編集者意識やお粗末な査読システムしかない強欲な企業(たとえば法外なジャーナル投稿手数料を求めてきたりします)によって支えられていることがわかってきました。こんなことによって、発表される研究の質は確実に下がっているのです! そこでPubMed Commonsなどのソーシャルメディアを通じて掲載後査読システムを導入することにより、このような状況を改善し、従来の査読プロセスに信頼を取り戻すことができるのでしょうか? たぶんできると私は思います。次世代の科学者、つまり多くの時間を研究室で過ごしている学部生や大学院生たちは、かなりの時間をソーシャルメディアの中で過ごしてもいます。ソーシャルメディアで読むものすべてを信じることができるでしょうか? もちろん、できません。しかし同時に、集団での作業は、欠点を暴露するだけでなく、光り輝く才能を見いだすこともできるのです。1つ確実にいえることがあります。ソーシャルメディアの出現により、次世代の科学者たちが匿名でありつつ、主体的であり続けることが難しくなるであろうということです。

PhD(神経科学)
オーストラリアでの研究・編集歴18年以上


2. 資金集めのシステムにも同様の見直しを

現在の査読のプロセスでは、専門がきわめて近くても、見解や動機が著者の考えと反する研究者が査読者に選ばれることは避けられません。そのように選ばれた査読者の下では、権威主義的な科学に沿うような科学的な解釈、さらには実験データまでが最優先になってしまい、出版の基準となってしまうことがしばしばです。だからこそ、新しい科学のプロセスとして、従来の掲載前査読に代えて掲載後査読というシステムを導入すれば、研究は質・量ともに向上し、新しい科学的な発見も迅速に広まるはずです。そうした動きによって旧来の出版物の権威が落ち不利益を被る人がいる一方、総体的に見れば科学全体にとってはプラスとなります。多角的な意見が多く寄せられることにより、PubMed Commonsなどソーシャルメディア上での議論も活性化します。
しかしそうした場で意見を述べるさい、匿名性が認められなければ、若手科学者たちは先輩科学者たちへ批判的なコメントをすることに尻込みしてしまい、この「変革」も頓挫してしまいます。しかし、匿名性を求めれば現在の査読システムで見られるように、選ばれたオピニオンリーダーたちが自分たちの利益に固執するあまり有望な科学者たちの意見を排除してしまうという問題にたどり着き、ひいては彼らの権威に依存する資金集めシステムという問題に突き当たります。したがって、オピニオンリーダーたちによるバイアスを回避するために、資金集めのシステムに関しても、掲載後査読システムに求められるものと同様の見直しが必要となってくるのです。

PhD(腫瘍学)
オーストラリアでの研究・メディカルライティング歴12年以上


3. オープンな発言と議論で科学を強化・促進

査読というシステムは、論文をはじめとする科学関係の文書を裏づけるデータを精査し、最終的にそれを科学界の基準に適合するようにするだけでなく、科学に関する議論を円滑に行う方法として生まれました。しかし出版前の段階では、そうした議論に少数の査読者以外の者が関わることはまずありません。ところが掲載後査読によって、より幅広いコミュニティが実現すれば、さらに深く論文を精査することが可能となり、査読の理想形である「オープンフォーラム」が形成されます。ただしこの理想的な「フォーラム」も、ジャーナル編集者による介入やコントロールによる利益相反(conflicts of interest)を免れ得るものではありません。
現行の査読システムでは、「競合する」主流理論に対抗する主流理論を主張することが許されないことがしばしばあります(たとえ片方の理論がもう片方を必ずしも無効化しない場合であっても)。また、理論科学者が経験的なデータを評価・議論する機会があまりなく、逆に経験科学者は理論に触れる機会が少ないことがしばしばです。だからこそ建設的なかたちで科学的課題についてオープンに発言し、議論することによって、科学の発展を強化・促進させる必要があるのです。

PhD(生物学)
イギリスでの研究・編集歴12年以上

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