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査読は無償でなくなる時代が来る?

ジャーナル(学術雑誌)の編集部は、論文を発表したい著者から原稿を受け取ると、掲載の可否を判断できそうな研究者、すなわち査読者(reviewer)に送ります。査読者はその原稿を読み、可否を判断したり、必要な修正を指示したりします。この過程を査読(Peer Review)といいます。
著者は「投稿料(subscription fee)」や「論文掲載料(APC: article processing charge)」と呼ばれる費用を負担する必要があります。APCには幅がありますが、たとえば大手ジャーナル出版社であるエルゼビア社は500〜5000ドルを設定しています。それに対して査読は一般的に無償でなされ、査読者はボランティアで取り組むことが求められます。「査読は無償」という原則はこれまで常識でした。ところが最近、査読者に報酬を払うべきではないか、という意見が出てきています。学問が細分化し、ジャーナルも論文も増えるにつれて、査読や査読者の必要性も大きくなってきています。そういった傾向を受け、高等教育についての専門ニュースサイト『タイムス・ハイアー・エデュケーション』の記事では、「無償のシステムという倫理に疑問を持つ者もいれば、査読には支払いをする時代になったと考えるジャーナルも出てきた」と伝えています。
この記事によれば、イギリスの出版社ヴァーリュスクプト(Veruscript)社は今年6月に創刊する、新しい学術雑誌4誌(うち2誌は自然科学分野、2誌は人文科学分野)にて、次のようなシステムを検討しています。査読者は、APCの一部を受け取る権利を得たうえで、(1)報酬を受け取る、(2)将来の自分の掲載費として預ける、(3)APCを負担できない研究者に寄附する、という3つのオプションから1つを選ぶ、というものです。いまのところ同社は査読者に払うつもりの金額を明らかにしていませんが、「査読にかかる時間を考えれば十分なものではない」と同社の編集長は記事の中で述べています。同社はこのアイディアの長所や短所を調べるために、ケンブリッジ大学でフォーカスグループ調査を行ない、アメリカでアンケート調査を行ないました。その結果、アメリカの研究者たちは査読に報酬がつくことを支持する傾向がある一方で、イギリスの研究者たちは「もっと保守的」だとわかりました。とりわけ哲学者は否定的だったそうです。その結果を受けても、『タイムス~』誌は「変化はやってくる。というのは、現行の無償システムは崩壊しかけていると考える者もいるからだ」と言及しています。


また、同誌は

オープンアクセス出版を擁護する者たちの間でよくある不満は、巨大な営利出版社は出版のプロセスにおいてわずかしか貢献していないのに、無償労働から莫大なカネを稼いでいる、というものだ。

と、無償でなされる仕事の不当性を理由に、査読者への支払いを主張する者もいると伝えています。
なお、カリフォルニア大学出版が最近創刊したオープンアクセス・ジャーナル『コラブラ(Collabra)』は、ヴァーリュスクプト社と似たような方針での運営をすでに開始しています。ヴァーリュスクプト社は、査読者全員のうち3分の1ぐらいが報酬を受け取るだろう、と推測しています。しかし『コラブラ』では、いまのところ報酬を受け取った査読者は1人もおらず、全員がほかの研究者のために寄附したとのことです。
今年2月16日にロンドンで開催された、ジャーナルの編集者や研究者たちがオープンアクセスやジャーナルの利益幅について議論する「研究者から読者へ」という会議でも、この件が話題になりました。会議にて、ジャーナルの編集業務の補助を業務とする「エディトリアル・オフィス」社ディレクターのアリス・エリンガム氏は、著者から投稿された論文1本の査読手続きにかかる時間は40〜50分であることを明らかにしたと『タイムス誌~』の記事で報じられています。エディトリアル・オフィス社では、85誌ものジャーナルから外注された査読行程を運営しています。エリンガム氏は匿名の3誌のデータを示し、40〜50分という時間は投稿された論文原稿を選り分けたり、メールを送ったり、文章を編集したりするためのものであり、査読そのものにかかる時間は含まれていない、と説明しました。査読には「隠れたコスト」がある、ということです。当然ながら、査読者に金銭を支払うことによって、査読の内容に影響が出るという懸念もあります。しかし、経済学者を対象に2014年に行なわれた研究(The London School of Economics and Political Scienceのブログ記事より)によれば、有償で査読を行なった査読者では、返信が早くなった一方で、査読そのものの質には影響がなかったといいます。
投稿から掲載までにかかる時間が長過ぎる、という不満がよく聞かれます。少しでもその時間を短くすることができるならば、査読の有償化も検討されていいかもしれません。その代わりにすでに高い購読料やAPCがさらに上がるかもしれませんが……。


ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

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