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Paper Mill:学術出版に新たな論文不正

Paper Millという言葉を耳にしたことはありますか?ここで話題にするのは、製紙工場ではなく、もっとタチの悪いものです。学術出版におけるさまざまな不正行為が摘発されていますが、「論文工場」とも揶揄される「論文代筆業者(Paper Mill)」による論文の量産に対する疑惑が浮上しています。

学術研究の出版履歴は、研究者としてのキャリアアップ、テニュア(終身雇用資格)獲得、さらに将来の研究プロジェクトへの資金調達にも多大な影響を及ぼします。少しでも多くの論文を出版しなければとのプレッシャーが、研究者を架空の研究論文を購入して出版するといった不正な行動に追い込んでしまうことがあります。データの改ざん、画像操作、査読のでっち上げなどが学術的な不正行為と見なされていますが、このような不正行為の数は増加する一方で、学術出版における大きな問題となっています。研究コミュニティは研究の公正さを維持するべく対策や警戒を強化していますが、研究不正や学術的な不正行為は止まらず、Nature Publishingグループ、Wiley、Taylor & Francisなどの大手出版社で受理された論文からも不正が発覚している状況です。そして、盗用、研究倫理問題、オーサーシップ(著者)に関する問題などに加わったのが、論文代筆業者による組織的な論文の量産という新たな不正です。学術コミュニティは既に対策に乗り出しています。

論文代筆業者とは?

論文代筆と言っても、問題なのは単なる論文の代筆・ゴーストライティングのレベルではなく、依頼に応じて科学論文を作成・販売する違法組織のことです。キャリアアップのため、あるいは昇進の条件を満たすために論文の出版数を必要とする研究者が、このような業者の作成した論文を購入しているようです。このサービスは純粋な商業目的ですので、研究者はすぐに投稿できる状態に仕上がった論文のオーサーシップを手に入れるのに高額なお金を支払います。他にも、実際に研究を行わず、苦労することなく国際的な学術雑誌(ジャーナル)に論文を発表したいと考える研究者もこのサービスの利用者となり得ます。これではもはや「研究」論文ではないのでは……と思ったら、中には実在の研究室を持ち、実際に実験を行い、データを取り、画像を撮影することまでやっている論文代筆業者までいるそうです。となると、「論文工場」という呼び方が的を射ていると言えます。しかも、これらの業者が生成したデータを購入して、他の実験に利用している著者もいるということです。まるで、工場から部品を購入するようなものです。

代筆業者が作成した論文の特徴

代筆業者が作成した論文には、仮説、実験戦略、本文および構成における類似、さらに画像の複製・重複利用、あるいは不正利用といった点で特有の特徴があります。ひとつひとつ見てみましょう。

1.代筆業者が作成した論文は、形式に準じて書かれているため、あまり他では見られない文章の類似性があります。また、ほとんど同じ表現が使われていたり、洗練されているとは言い難い使われ方をしていたりすることもあります。これらを念頭に、次の2つの例文を見比べてみてください。

A. This study allowed us to have a better and in-depth understanding of the association between mutations in gene X and colon cancer risk. (仮訳:本研究により、遺伝子Xの変異と結腸がんのリスクとの関係生をより深く理解することができた。)
B. This study assisted in having an in-depth and better understanding of the association between gene Y and cervical cancer risk. (仮訳:本研究は、遺伝子Yと子宮頸がんのリスクの関係性のより深い理解に役立った。)

この2つの文章はさほど違いがありません。これらの言葉の並べ方から、単純に遺伝子と疾患の名前を所定の位置に入れ込んでいるだけであると察せられます。

2.画像が本物の細胞や組織、ゲル(培地)、フローサイメトリー(細胞解析技術のひとつ)の分析結果写真だったとしても、実験要件に合わせて捏造されたものである可能性は捨てきれません。

例えば、FEBS(Federation of the European Biochemical Societies)Letterに投稿された論文「Systematic fabrication of scientific images revealed」は、複数の論文に掲載されたウエスタンブロッティング(Western Blotting: WB)画像の背景パターンがどういうわけかそっくりで、さらに背景にうっすらと入り込んでいる帯模様も奇妙なほど似ていると指摘しています。出版された複数の論文の画像の背景が類似していたことは、これらの画像がコンピューターで合成されたか、他の論文やデータ画像からコピーしてきて貼り付けものであることを示唆しています。他には、ゲル画像ではありがちな染みや点、汚れなどがない画像も疑って見るべきでしょう。

スペインのバルセロナにある生物医学研究機関Center for Genomic Regulationの生物学者、Guillaume Filionは、ブログ「The Grand Locus」の中で、怪しい科学論文を発見した方法と、その真相を突き止めた様子を紹介しています。彼は、論文データベースの検索数のメタ分析で奇妙なパターンを見つけ、論文をダウンロードして比較したところ、論文の構成、数字の並び、図などに極めて高い類似が見られたのです。しかも比較した論文の最後の図がファンネルプロットであったことも同じでした。ブログには、テキストの一部が盗用されていることも容易に確認できたと記されています。しかも、それらの研究論文の著者はすべて中国人だったということです。ゴーストライターの存在は学術界でも知られていますが、論文の代筆を行う会社組織の存在は、良質な科学の実践に多くの疑問を提起するものであると言及しています。

3. 代筆業者による論文には、組織に所属していない著者の名前や個人的な連絡先(eメールアドレス)が書かれていることがよくあります。

4. 代筆業者が作成した論文の、方法や使用した分析方法に関する説明はとても表面的です。

代筆業者が作成した論文を見分けるにあたっての留意事項

  1. 疑わしい論文を見つけ出すことは容易ではありません。今日では、iThenticateやPlagScanといった盗用・剽窃検出ツールを使って、盗用されたテキストを探し出すことは可能ですが、不正に使われたデータや誤ったデータを抽出できるツールはまだまだ一般的ではありません。怪しい論文は一見まともに見えるので、唯一気がつくとすれば、編集者がまったく関連のない別々の著者によって書かれたはずの複数の論文に共通するパターンや、画像の共有・複製利用などが見つかったときでしょう
  2. ジャーナルの編集者が論文に何らかの不審点を見い出した場合には、著者に生データの提出を依頼するかもしれませんが、データの信憑性をチェックすることは困難です。特に、データの分析に特殊なソフトが必要な場合には一層難しくなってしまいます。確認のプロセスには時間も手間もかかりますし、費用も必要です。さらに、その分野の専門家でもない限り意図的に生成されたデータを見極めることは難しいでしょう。例えば、フローサイメトリーが適正に作成されたものかどうかを判断するには、その分野の専門知識が必要です。
  3. メールなどで確認作業を行うとしても、編集者が問い合わせているのが、投稿論文の「本来の」著者なのか、代筆業者なのか分からないことが問題となります。

不自然な論文を見つけ出すには

編集者や査読者は、代筆業者によって量産される論文に慎重になっています。王立化学会が発行する化学系オープンアクセスジャーナルRSC Advancesの掲載記事には、調査の結果、同誌に掲載された論文の中から68本の論文が捏造を理由に掲載取り下げとなったと記されています。以下は、不正が行われないようにするための出版プロセスにおける対策です。

  1. 編集者は、論文の結果と画像に関連する生データの提出を著者に依頼する
  2. 査読者は、化学品と試薬の登録情報の検証を行い、場合によっては全ての開示情報を確認する
  3. 査読者は、研究の仮説が妥当であるか、実験計画が仮説に準じて作成されているかを確認する

では、研究者が論文を提出するときに、ジャーナルの信頼を裏切らないためにすべきことは何でしょうか。

  1. 研究者は、実験を外部に委託している場合、委託先から提供された全ての研究結果につき完全に言明する
  2. 研究で使用するすべての原材料、化学品、試薬の登録情報を完全に開示する
  3. 付随するオリジナルソースファイル(生データ、個別データポイント)を読み取り可能な形式で提供する
  4. 著者は、「著者の貢献(Author’s Contributions)」のセクションに、あらゆるデータが自分の研究室で訂正な方法によって生成され、代筆業者が関与していなかったことを明記する

研究者として、論文の信頼性を秤にかけてまで自分の論文の発表数を増やしたいと思いますか?不正に作成された論文を引用することは、他の研究者に誤った結果を提供し、結果として科学における学術的論法の育成を阻むものとなってしまうのではないでしょうか?

このような不正行為は、研究結果の再現性と科学の信頼性をおとしめることにつながってしまう恐れがあるので、研究者のモラルが問われそうです。


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