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米の科学工学分野における女性・マイノリティ・障害者

日本にいると、女性・マイノリティ・障害者が、自分たちの能力を活かして活躍できる社会について深く考える機会は少ないかもしれません。最近では職場でのセクハラやパワハラ問題を以前より訴えやすくなっているようですが、安倍政権が成長戦略の柱のひとつに「女性の活躍推進」を掲げる一方で、女性に対する政治家のとんでもない失言がまかり通っています。最近では、6月に根本匠厚生労働大臣による「パンプス強制の容認」、その前は5月末の桜田義孝議員による「子どもを最低3人産むようにお願いしてもらいたい」発言――働く女性は、セクハラや育児・子育て、別姓使用のトラブルなどさまざまな課題に対応していかなければなりません。本当に女性の働きやすい環境が整うまでには、まだ時間がかかりそうです。そして障害者については、7月の参議院選挙で「れいわ新選組」から立候補した重度障害者の2人が当選し、議員となって初登院したことが大きな話題となりました。彼らが日本の障害者雇用に風穴を開けてくれるかもしれません。

では、女性や障害者、マイノリティの職業参画に対する他の国の状況はどのようになっているのでしょうか。今回は、米国における女性・マイノリティ・障害者の科学工学教育機関(大学/大学院)の在籍状況および雇用状況などを分析した報告書を紹介します。

科学工学分野の女性・マイノリティ・障害者報告書

3月28日、米国科学財団(NSF)傘下の米国科学工学統計センター (NCSES)は、女性・マイノリティ・ 障害者による科学工学教育及び職業への参加に関する調査結果をまとめた 報告書「2019年科学工学分野における女性・マイノリティ・障害者(原題:2019 Women, Minorities, and Persons with Disabilities in Science and Engineering (WMPD))」を発表しました。この報告書は、大学で科学工学分野を専攻している、または同分野で雇用された女性・マイノリティ・障害者に関するもので、米国連邦議会がScience and Engineering Equal Opportunities Actの元、NSFに隔年での作成を義務付けているものです。女性、マイノリティ、障害者の科学工学分野への進出について包括的な見解のまとめとして、在籍者数(Enrollment)、学位取得分野(Field of degree)、雇用(Employment)、職業(Occupation)のデータ分析結果を図表で分かりやすく表示しています。また、マイノリティについては、とくに、ヒスパニック/ラテン系、黒人/アフリカ系アメリカ人、アメリカ先住民/アラスカ先住民の3グループに重点をおいています。日本ではあまりなじみのない「マイノリティ」ですが、多様な人種が混在する米国においては無視できない存在です。

報告書からは、米国においても科学工学分野の教育機関および職業に進出している女性、マイノリティ、障害者に属する人たちの割合が増えてはいるものの、依然として低い状況であることが見えてきます。いくつかの分析結果を記します。

  • 米国の大学および大学院への進学者は多様化している。大学の学生数に占める白人が減少しているのに対し、ヒスパニック系は増加している。
  • 私立営利大学在籍者の割合が高いのは、黒人/アフリカ系アメリカ人、ハワイ原住民/太平洋諸島出身者、複数以上の人種が混じった人たちなど。公立大学在籍者の割合が高いのは、アジア系、ヒスパニック/ラテン系、アメリカ先住民/アラスカ先住民など。また、私立非営利大学在籍者の割合が高いのは、白人及び複数以上の人種が混じった人たちとなっていた。
  • 2016年に学士取得者の半数、修士の44%、博士の41%が女性であった。女性の割合が最も多かったのは心理学と生物科学(バイオサイエンス)、最も少なかったのはコンピュータ・サイエンスとエンジニアリングだった。コンピュータ・サイエンスで学位を取得した女子学生数は過去20年間で増加しているが、学位取得学生数全体に女性が占める割合は、他の科学工学(S&E)分野に比べて低いままとなっている。
  • 2016年には、心理学(75%)及び生物科学(約50%)分野において、女子学生が全てのレベルで学位取得者の過半数を占めている。
  • 博士課程における女性の割合、さらにマイノリティの占める割合は増加しているが、全体に占める割合はまだ少ない。
  • 数学・統計学分野で学士号を取得した女子学生数は、過去20年間で減少している。
  • 過去20年間で、心理学・社会科学・生物科学分野において学士号を取得した黒人/アフリカ系アメリカ人学生の割合は増加したが、数学・統計学分野では減少している。
  • 2017年に科学工学分野でフルタイムの職についたのは、男性1280万人に対して、女性1010万人と、男性が上回っていた。パートタイム職についた人数では逆転し、女性が男子の倍近く多くなる。同分野でフルタイム職に就いた人数の約70%は白人だった。
  • 科学工学分野で雇用される就労者の約10%が障害者で、聴覚・視覚・認知能力・歩行・ セルフケア・自立生活などに障害を持っている。
  • 科学工学分野の学士号を持つ就労者は、他の分野の学士号取得者よりも給与が高い傾向にあるが、ほとんどの職種で女性の給与は男性を下回っている。
  • 科学者やエンジニアの給与は、人種や民族、職種で差がある。科学工学系の給与中央値の比較でも、アジア系が10万ドルと最高であり、白人が9万ドル、マイノリティが7万8,000ドルと人種による差が見られた。

前回の2017年の調査結果と比べても、それほど大きな変化はないようです。例えば2017年の報告書には、「1990年代後半から科学工学分野の学士号を取得する女性が全体の約半数を占めるようになったとはいえ、専攻分野にはばらつきがあり、心理学では70%が女性である一方で、コンピュータ・サイエンスでは18%となっていた」と記されているように、同様の傾向が見て取れます。それでも、このような統計データが蓄積していくことは、推移がわかるので大変有意義です。

NSFのニュースリリースには、本報告書の概要がまとまっており、さらにNCSESのサイトでフルレポートを閲覧することも可能です。米国でも女性・マイノリティ・障害者は厳しい立場に置かれているようですが、少なくとも定期的にこのような分析が行われていることは、女性・マイノリティ・障害者の状況を改善するための取り組みを後押しする力となっていることでしょう。


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