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Nature誌の一部論文 全文公開の試行プログラム

研究者向けのSNSであるResearchGateと学術出版社は、論文の著作権をめぐり対決してきましたが、その関係に動きが出始めています。

2019年3月1日、Springer Nature社が、2017年11月以降にNature誌に掲載された論文の中から一部を抜粋し、その全文をResearchGateに公開する試行プログラムを開始しました。研究者個人のプロフィールをResearchGateに公開するとともに、論文の閲覧・ダウンロードを可能にすることで、学術成果を露出させ、論文が読まれる確率を高めようとの試みでした。当初は3月7日までの期間限定でしたが、良好な結果を受け、7月11日にこの試行プログラムの延長を発表しました。延長期間となる第2フェーズでは、公開対象が広がり、ResearchGateで公開される記事の数が第1フェーズと比較して4倍となっています。より多くのResearchGateを利用する研究者がSpringer Natureのコンテンツにアクセスできるようになるだけでなく、著者にとっても自署の論文へのアクセスおよびダウンロードが増えるチャンスとなります。

ResearchGateと出版社の関係

ResearchGateは、原著論文の共有や質問・回答、協力者の募集などを可能にする学術研究者のネットワーク・プラットフォームです。2017年には国際STM出版社協会から著作権侵害の申し立てをされたこともあり、オープンアクセス化が進む中での動向が注視されてきました。通常、論文の著作権は出版社に帰属するため、著者が自分の研究成果であっても出版した論文をResearchGateのような研究者向けプラットフォームで共有することは許されていません。2017年10月には、米国化学会(ACS)とエルゼビアが、ResearchGateの法的責任を問うためにドイツの裁判所への訴訟を起こし、翌年4月18日には裁判が始まったと報じられています。さらに10月2日にはアメリカでも同様の提訴を行っています。このような動きがある中で、Springer NatureがResearchGateと協力して論文公開に取り組んでいることは、異例のアプローチとも言えます。状況に関するデータ収集の結果を踏まえて期間が延長されたことで、この試験的なプログラムが今後どのような影響をもたらすかが注目されています。

ResearchGateでの論文公開 試行プログラムが目指すもの

Springer NatureとResearchGateは、学術研究成果を閲覧する際の障害を取り除き、アクセスを向上させることを目標に掲げており、この連携を「研究コミュニティをこれまで以上に支援していくための重要なステップ」と位置付けているようです。研究者にとっては、研究者間のネットワーク上に論文へのスムーズなアクセスが確保されることは大きなメリットであり、自身の論文の認知度が高まり、ダウンロード数が増えることは歓迎されるものでしょう。

第1フェーズの結果調査からは、両者の協力が研究者に好意的に受け入れられたこと、Nature誌の記事全文がResearchGateに追加されたことに満足と答えた利用者が90%を超えたことなど、非常に肯定的な結果が得られました。ResearchGateにとっては、プラットフォームに掲載される論文が増えたことで、学術成果へのアクセスを向上させるとの目標達成への一歩となり、利用者の満足も得られるものでした。Springer Natureにとっては、購読料の収集を逃しているとはいえ、研究者のプラットフォームにおける存在感を高めることには成功しています。発表した研究論文の発見しやすさを向上させ、学術研究を一層発展させる上で役立つ新たな方法を探求する出版社にとっては、研究者のプラットフォームとの論文共有は一つの回答になると考えられます。学術研究にとってよりよい環境を構築したいとする両者の思惑が、試行プログラムにうまく反映されていると言えそうです。

プログラム延長 第2フェーズ

試行プログラムの第2フェーズでは、共有するコンテンツを4倍に増やしつつ、アクセスの改善に向けたソリューションの検討を行うと記されています。また、科学研究や論文へのアクセス提供者としての図書館員が果たす役割を実証することにも焦点を当てるとしています。図書館や研究機関が購読契約していることで、研究者が論文や記事にアクセスできる場合には、そのことをResearchGate上で研究者に対して通知するという、積極的なアプローチの追加も予定されており、研究者にとっての利便性はますます向上しそうです。

オープンアクセスが加速する流れの中、出版社はどう新しビジネスモデルを構築していくのか、一方の研究者はどう対応していくのか、また両者はどのように折り合っていくのか――Springer NatureとResearchGateの連携の第2フェーズの結果にも期待です。

【参考】

ResearchGate and Springer Nature embark on pilot to deliver seamless discovery and an enhanced reading experience(ResearchGate,2019/3/1
ResearchGate and Springer Nature embark on pilot to deliver seamless discovery and an enhanced the reading experience(Springer Nature,2019/3/1

Springer Nature and ResearchGate extend content sharing pilot following positive feedback(Springer Nature,2019/7/11
Springer Nature and ResearchGate extend content sharing pilot following positive feedback(ResearchGate,2019/7/11


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