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質的研究の長所と短所

質的研究とは、端的に言えば、研究対象を測定して質的データを採取し、それを用いて、言語的・概念的な分析を行い、結論を得る研究―となりますが、全てのデータに意義があるわけでもなければ、データに意義があっても分析方法が適切でなければ意義のある結論は得られません。質的データには、観察記録やインタビューなどの言語データなどが含まれ、こうしたデータから社会的・文化的な意味を汲み取っていく研究が「質的研究」または「定性的研究」と呼ばれます。数値による記述が多くなるか、言語による記述が多くなるかなどは扱うデータの性質によって異なりますが、収集されたデータを分析し、客観的に説明し、傾向を理解すること、そこから導き出される新しい理論を構築することを目指す点では、どのようなデータ、分野にも概ね共通していると言えます。質的研究がよく使われている分野としては、臨床心理学、看護学、社会学といった人文社会科学系の研究が挙げられます。

質的研究が重視するもの

人間とは、常に研究対象でありながら、把握が困難な存在です。事象が生じる頻度をとらえ、どうすれば他の研究者が実験を再現することで同じ結果を得ることができるかを重視する自然科学系の研究では数量的な手法(量的研究/定量的研究)が好まれるのとは異なり、人文社会系の研究では再現性を求めず、客観的な観察と文書化を重視する質的な手法(質的研究/定性的研究)が多用されます。

演繹法でなく帰納法によるアプローチ

飛躍や矛盾なく情報を整理して筋道を考える論理的思考には、複数の事実を足し合わせて結論を導き出す「演繹法」と、物事や事例などの現象に共通する情報やパターンを抽出し、共通項を踏まえて結論を推論する「帰納法」がありますが、質的研究は帰納法によるアプローチです。

質的研究(定性的研究)が最適なのに使われていない場合、質的アプローチを試みることによって、変数を操作してコントロール(対照群)と比較し、再現可能な解答を得るために、複数のシナリオで分析してみなければ―といった量的アプローチに必要な作業は不要になります。

帰納法では、前提となる現象や事例の質や量が大切なので、共通項を見つけ出す際のデータに誤りや偏りがあると、正しい結論を導き出すことができません。また、前提とするデータの数が多いほど精度の高い推論を導き出すことが可能になります。こうした特徴は、後述する「質的研究における限界」にも関連してきます。

説明して理解することを目的に観察を重視することは、意見、感情、経験(従来の定量的研究だと混乱を生じさせる変数)に関する研究を促進させます。さらに、調査環境を操作しないように、インタビューあるいはグループディスカッション過程で動的な性質を保つことができます。研究者は、事前に承認された質問に縛られることなく、リアルタイムでさらなる質問をすることで、当初予定していた質問への回答よりも踏み込んだ調査を行うことができます。また、研究者が直接立ち会うことで (観察者が隠れていることも場合も、フォーカスグループの司会者として参加する場合も考えられます)、非言語的なコミュニケーションも観察できます。

質的研究の手法(アプローチ)

質的研究とは、現象に関する質的データを用いて帰納的に探求する研究であるとされ、幾つかの手法(アプローチ)があります。代表的なものを以下に示します。

  • 現象学的アプローチ : いろいろな学問分野で用いられているアプローチ。特定の出来事を経験した人や、特定の期間を生きた人といった研究協力者から話を聞き取り、語られる「生きられた経験(lived experience)」を分析し、解釈していく記述的研究手法。現象学的アプローチには、マニュアルや決まった手順がない。
  • エスノグラフィー( Ethnography):一般的には、民族学や文化人類学的などで使われ、「民族誌」「民族誌学」と訳されることもある。ある文化における行動観察を行い、記述を残したり直接的な面接調査などを行ったりすることで「人々の肖像」を描き出す。エスノグラフィーのデータ分析では、人々の行動、相互作用、パターンを見つけることに重点を置く。
  • グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Grounded Theory Approach ; GTA): 1967年にグレイザーとストラウスによって提唱された社会調査のためのひとつの手法。特徴的な概念カテゴリーを作成するために、手順に従ってデータの収集と分析を行う。この手法を質的研究に分類すべきかについては議論が続いている。グラウンデッド・セオリーは帰納的だから質的研究の手法であると主張する研究者もいれば、グラウンデッド・セオリーによる分析手法が社会現象を説明するための分析や理論の構築を目指すものであることから、質的研究ではなく一般的な研究手法と考えるべきだと主張する研究者もいる。

質的研究における限界

質的研究では、さまざまなアプローチで得られたデータを分析し、文書化しますが、データを収集する際、必ずしも有用あるいは正確な情報が得られているとは言い切れません。質的研究には2つの大きな限界があります。

1つ目の限界は、データの量(サンプルサイズ)です。質的研究における一般的なデータ収集は、直接の観察や面接調査(フォーカスグループも含む)によって行われるので、大量のデータを収集することが困難であり、労力を要する割には成果が出せないことがあります。質的研究ではある程度の数のデータを確保する必要があり、十分な数のサンプルサイズが得られなければ、収集されたデータが不十分となり、結果が適正であるかを保証できないとなりかねません。

2つ目の限界は、一般化が難しいことです。データの収集が、特定の集団を個々の研究者が実際に観察することや面接調査によって行われることから、質的データから得られた結果を一般化することは量的データよりも困難です。質的データは、記述的なものなので、パターンや傾向がつかみにくいとも言えます。貧弱な質問、質問者の聞き方(質問)によっても左右されかねません。回答者に偏りがある場合(潜在的なバイアスがあるような場合)などもデータに影響が出る可能性があるので、データの種類や状況によっては質的研究から量的研究に変更する検討も必要です。

 

質的研究の強みは、インタビューや行動観察を通して社会現象を理解することができる点です。言語だけでなく、調査対象の行動や表情などあらゆることをデータとして扱うことで現象を多面的に捉えることができます。とはいえ、少人数にアプローチする質的研究よりも、大多数の意見を集める量的調査の方が適している場合もあります。どの研究方法が最適かは、研究分野、調査対象などによって異なるので、質的研究と量的研究のどちらが有効か、いずれにも強みと制限があることを踏まえ、混合手法を採用することも含めて検討してみてください。


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