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2021年 日本の科学技術の発展をかけて声を挙げよう

日本が「科学技術立国」と言われていたのはいつの日か――近年は、論文発表数では中国に遅れをとり、世界大学ランキングでは日本の大学の存在感が薄れていると指摘されるなど、日本の基礎研究力の低下が問題視されています。管総理は、社会のデジタル化(デジタルトランスフォーメーション)を政権の最重要課題としていますが、その基礎となるのは科学技術力です。2021年、日本の科学技術はどうなっていくのでしょうか。

日本の科学技術の現状

日本は世界トップクラスの科学技術力を誇ってきました。2000年以降、17年間で17人のノーベル賞受賞者を輩出してきた実績もあります。しかし、2000年代に入ると国の研究開発力を示す指標の一つとされる論文発表数は減少に転じ、論文数およびトップ10%補正論文数(被引用数が上位10%に入る論文の抽出後、実数で論文数の10分の1となるように補正を加えた論文の数)の世界ランクもほとんどの分野において低下傾向を示すに至っています。文部科学省科学技術・学術政策研究所がまとめた「科学技術指標2020」には、自然科学分野の論文本数(2016~18年の年平均)で中国が米国を抜き、初の首位となったことが記されています。日本は前回(2010年)調査から順位を下げて4位となっています。2018年のworldbank.org調査データに基づく分析よると、科学技術論文誌に掲載された日本の論文数は、98,793本。このときの世界順位は、中国、アメリカ、インド、ドイツに次ぐ5位。日本の論文発表数が横ばいなのに対し、中国、インドといった国の発表数が相対的に増加していることで順位を下げた結果となっています。
2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大で、働き方および医療管理の両面で社会のIT化の必要性が急拡大しました。この傾向は2021年も継続し、loTやAIの発展にともなう大きな変革が進むと考えられます。また、地球規模の温暖化対策として、エネルギーおよび産業構造における新しいイノベーションも不可欠と言われています。社会に役立つ科学、社会のための科学の発展への期待が高まっている裏で、先述の論文数の順位の低下だけでなく、科学技術研究に従事する研究者や学生の数の減少が懸念されています。日本の科学技術研究は、厳しい状況に置かれているのです。

日本が直面している問題

日本の科学界が直面している問題を3つあげてみます。

若手研究者の研究環境整備と人材の育成:

世界的なパンデミックのように一国だけでは解決できない問題が起こる時代、各国が科学技術研究で鎬(しのぎ)を削るのではなく「競争から共生へ」の移行が必要とされています。科学技術やイノベーションを発展させるには新たな価値を生み出す人材の育成が必須です。これは世界的な共通課題でもあり、アメリカをはじめとした海外でも博士課程に進む人口が減少している上、コロナによる渡航禁止処置が取られていることで研究者の国際的流動が制限されています。日本では、急速な高齢化の進行により大学・大学院に進む人口が減少していることに加え、修士から博士課程に進学して博士号を取得する割合が少ないこと、先進国と比べて少ない博士号取得者がその技能を活かせる職に就きにくいことなどが問題視されています。大学でも人件費の圧迫により、雇用機会獲得の競争が激しくなっているだけでなく、安定雇用される常勤の教職員枠が減少し、任期付きで雇用される不安定な若手研究者が増加しています。さらに昨年からのCOVID-19の影響で修学に支障をきたすおそれのある学生も増えているので、経済的理由で修学・進学を断念することのないように支援することも必要です。研究者の雇用を守り、研究に従事できる環境を整えていくことが不可欠です。

研究論文数の低下:

科学技術白書にも、論文数をはじめとしたいくつかの指標において日本の科学技術の力が相対的に低下していることが示されています。論文の数、質の両観点から国際的な地位の低下、国際共著論文数の伸び悩み等において、諸外国に比べ相対的に低下していることが課題となっています。特に、注目度の高い論文の発表数において順位の低さが顕著であること、国際的に注目を集める研究領域への日本の参画状況が低下傾向にあることが指摘されています。実際、世界でパテントファミリー(2か国以上への特許出願)における国際協力関係が強まっている中、日本は国際共同しているパテントファミリーの割合が他の主要国と比較して最も低い状況です。このことは国際共著の数が他国と比べると低いことにも表れています。「科学技術指標2020」によれば、2018年の日本の国際共著論文数は29,047本(国内論文数は53,680本)ですが、アメリカは174,288本(国内209,218本)、中国は106,985本(国内290,580本)と圧倒的な数の差が出ています。国外の研究者あるいは研究機関とも協業できるクリエイティブな人材を増やしていくことが重要という点では先の人材育成の必要性にもつながっています。

また、近年にはヨーロッパを中心に研究成果を広く利用可能にしようとするオープンサイエンスに向けた動きが加速しています。この流れを受け、日本でも内閣府がオープンサイエンスに関する検討を行い、公的研究資金による研究成果のうち、論文と研究データは原則公開とすべきとの方針が示されました。しかし、2020年5月に公開された「研究データ公開と論⽂のオープンアクセスに関する実態調査2018」によると、調査時点では研究者のデータ公開に対する懸念は依然として高く、データを公開するための資源の不足感も強いことが浮き彫りになっています。

研究資金の分配:

総務省の科学技術研究調査によると2019年度の科学技術研究費の総額は、19兆5757億円と過去最高となっていました。しかし、ここでもアメリカと中国の研究費とは圧倒的な差があり、中国の半分にも満たない状況です。しかも、この研究費の内容を見ると競争的資金(プロジェクト型予算)の比重が増えている一方で、運営費交付金という研究環境を支える資金が減少していることが、研究環境に悪影響を及ぼしているとされています。政府が拠出する研究費は増えていても研究者の自由な研究を支える研究費が減少しているという状況となっているのです。

今後の課題と科学技術基本計画

論文発表数は、研究費つまり投資額と比例すると言われるほど、科学技術やイノベーションを発展させるためには安定した研究投資が必要です。高齢化にともなう社会保障費やコロナ対策費などの増加により研究資金の確保が難しくなることは予想されますが、世界に競合できる技術を開発し、社会に役立つ科学を発展させるためには財源の見直しも必要となるでしょう。科学技術白書には「研究成果を効率的に最⼤化する仕組みを検討することが望まれる。また、⽇本の研究者によるオープンサイエンスの実施と認識が今後どのように変化していくのかを継続的に調査する(概要より抜粋)」と書かれています。

実質的には、2020年8月後半には内閣府の総合科学技術・イノベーション会議基本計画専門調査会において「科学技術・イノベーション基本計画の検討の方向性(案)」がまとめられ、これをもとに今年度から始まる「第6期科学技術・イノベーション基本計画」の策定に向けた検討が進められています。「ウィズ・コロナ」の世界でどのように日本の科学技術力を高めていくか。科学技術研究の推進、新たなイノベーションの創出に向け、制度の見直しや問題の解決、産学連携強化など、山積する課題への対策が急がれます。

なお、科学技術・イノベーション基本法に基づく政策を総合的かつ計画的に推進するための「第6期科学技術・イノベーション基本計画」答申素案についての意見募集が行われています。令和3年度からの基本計画の取りまとめに意見できる機会です。答申は3月の予定、意見提出は1月20日から2月10日までとなっていますので日本の科学技術の発展をかけて声を挙げてみませんか。詳細はこちら <https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20210120.html>


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