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STEM分野の女性差別改善に男性ができること

学会で出会った女性科学者2名が、昼食時に学術界の女性差別の話題になりました。

A博士:科学界で女性が出世するのは難しいわ。2019年に米国でSTEM(科学・技術・工学・数学)分野でフルタイムの仕事に就いている人のうち、女性はたった24%だって知ってた?
B博士:ジェンダー格差がいまだにそんなにひどいなんて信じられないわ。これは世界的な問題だけど、ジェンダー格差に関する認識は世界中に広がってきているのでしょう。最近は、不公平な状況を変えて、女性の活躍を後押しする男性も出てきているようよ。

はたして、STEM分野でのジェンダー格差とは、どのような状況なのでしょう。そして、この状況を改善するために男性研究者ができることはあるのでしょうか。

学術界のジェンダー格差

学術界におけるジェンダー格差は、確かに世界的な問題であり、特にSTEM分野では歴然としています。まず、STEM分野での女性研究者数自体が少ないので、論文執筆および査読における女性研究者の割合も男性より少なくなっています。例えば、オープンアクセスのFrontier Seriesの学術誌を対象にした2017年調査によると、女性執筆者は全体の37%、同様に査読者は28%でした。研究組織のトップの女性比率も低く、研究費の獲得金額にも差があります。プライベートにおいても女性の方が子育てによって大きな影響を受けやすく、理系のフルタイムの研究者や専門家が子供を持った場合、43%の女性が専門分野を変更する、非常勤になる、あるいは退職する、との調査結果があります。男性ではこの比率は23%であり、差は顕著です。

このような格差が存在することは広く認識されてきており、改善の取組みも議論されていますが、「女性がどう対処するか」の議論がほとんどです。ここでは、「男性は改善のため何ができるか」について、実際の取り組み例を紹介してみます。

改善に向けて男性ができること

世界の科学研究における女性の参加割合は30%に満たないとも言われています。特に、STEM分野でジェンダー格差が根強いのには、非常に多くの要因が関係しています。それらの中には、男性の行動で変わりうるものもあるのです。

無意識のジェンダーバイアスを認識する

まず、「無意識のバイアス」を認識することです。女性には子供のときからSTEM分野に進む気持ちをそぐような文化的風潮が働きやすく、意欲をくじかれかねません。学校でも職場でもSTEM分野は男性の数が多く、そこに女性が入っていくには勇気と努力が必要です。STEM教育におけるジェンダー格差についてUNESCOが2017年に発表した調査レポートによると、世界の高等教育においてSTEM分野を選択している女性の割合は35%であり、研究者では28%に留まります。教育課程が進むにつれて、女性が理系に興味を抱かなくなる傾向があり、中等教育過程で男女格差が顕著になります。「女性は理系に向かない」という思い込みや、教育現場や家庭環境に内在するさまざまな要因が女性をSTEM分野から遠ざけています。男性が、女子学生や職場の同僚の女性を勇気付け、または自分の娘のSTEM分野への興味を育むなど、わずかに後押しするだけでも違いが出てくるでしょう。

変だと感じたら声を上げる

小さなことでも格差や偏りに気がついたときに声を上げることも大切です。例えば、会議で女性の発言がさえぎられたり、なんらかの役職への候補者が男性だけで占められていたりしたときに、変だと感じて声を上げることが、ジャンダー格差改善の一歩です。そしてさらに進めて、実際に女性差別的な発言や行動を見たら、その場で注意喚起することが望まれます。そうした指摘がスムーズにできるように、同僚同士で注意の仕方を学びあう試みをしている研究者もいます。そうした人たちは、女性に障害を克服するよう励ますのではなく、障害を取り除くように男性も積極的にかかわるべきだと考えているのです。

男女平等(ジェンダーバランス)への配慮を求める

学会の発表者やパネルディスカッションの参加者(パネラー)が男性だけということも珍しくありません。このような事態を積極的に改善しようとする動きもあります。ニュージーランド・オークランド大学の物理学研究者は、学会などでの男女平等参画を求めて行動しています。発表者やパネラーとして参加を求められたとき、参加者に女性が含まれていないような場合には参加を断っているのです。こうした取組みを3年以上続けており、賛同する研究者も何人か出てきています。主催者に対して事前に男女の割合を問い合わせることで、バランスの悪い男女比の再考を主催者に促す機会となることも増えているそうです。

部門の責任者としての取組み

英国・ヨーク大学のP.Walton教授は、化学学部長であったときに男女平等へ向けた取組みを行いました。まず、無意識のジェンダーバイアスを見つけて改善するため、学部としてさまざまな会議などをチェックするための組織を立ち上げました。一例として、ある役職につける候補者を絞る選定会議の議論を、チェック組織が同席して状況確認を行ったのです。チェック組織メンバーは、選定委員の発言頻度が男性候補者と女性候補者で差がないかなどの客観的な観察を基に、選定委員の各人がバイアスを持っていないかを監視します。この制度を導入した当初は、バイアスが見られることも多かったものの、次第に改善に向かいました。また、研究者・教員の給与の平均や中央値、分布などを男女に分けて毎年公表しました。不自然あるいは不合理な格差がないか、当事者の全員が見て考えることができるようにしたのです。組織の長が、男女の公正な処遇に向けて指導力を大いに発揮した事例です。

ジェンダー格差、不公正は厳然として存在し、多くの改善努力が進められてきたにもかかわらず、根深いものがあります。今後とも多面的な取組みが必要です。ジェンダー格差を生む大きな原因となっている「男性社会」を作っている男性が、積極的に改善に取り組むことが大変重要でしょう。上に挙げた事例が、改善への一歩を踏み出すためのヒントになれば喜ばしいことです。


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