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研究不正は筆頭著者の責任か?

研究不正は、学術界でよく議論される問題です。学術出版の不正がよく取り上げられますが、盗用・剽窃、ゴーストライターによる執筆、査読プロセスにおける問題など、不正の原因は多種多様です。しかし、すべてが研究倫理と研究不正がせめぎあっている状況を照らし出しています。研究不正は研究論文の撤回につながり、ひいては科学研究への信頼を損なうものです。

ある研究には、大規模な臨床試験ではゴーストライターが当たり前になってきていると示唆されていました。ゴーストライターとは、研究に参加していても論文著者として名前が記されないまま研究・論文執筆を行う人です。他に、実際には研究にまったく関与していないにも関わらず名前が記載される偽の共著者(fake co-author)も問題となっています。名前が通った研究機関の研究者や、優れた出版実績を持つ研究者の名前を、共同研究者として加えているのではないでしょうか。

このようにオーサーシップ自体に関する不正問題が指摘される中、論文に不正ありとなった場合、誰が内容に責任を持つのでしょうか?名前が載った全員でしょうか?研究を行った研究チームの研究責任者でしょうか?あるいは、出版者?いろいろ考えられますが、筆頭著者に論文全体の責任があるとする研究が示されましたので紹介します。

筆頭著者の責任

オープン・アクセス(OA)の学術雑誌(ジャーナル)PLOS ONEに、2019年5月付けで掲載された論文は、筆頭著者に責任があるとの立場を示しています。この研究を行ったのはルクセンブルグ大学のKatrin Hussingerとルーヴァン・カトリック大学のMaikel Pellens。彼らが筆頭著者に論文全体の責任があるとした理由は何でしょうか?それは、US Office of Research Integrity(米国研究校正局)が不正調査を実施した80の事例を調べ、筆頭著者が不正の原因であるケースが最も多い傾向にあるとの結果を踏まえたものです。

筆頭著者と、最終著者(ラストオーサー)以外の著者(ここでは「中間著者」とします)を比べた結果、筆頭著者が不正の責任を有するとしたケースが38%多いことが見出されたのです。論文の問合せ先となる責任著者(コレスポンディング・オーサー)に不正の責任があるとするケースは、中間著者より14%多くなっていました。筆頭著者が責任著者となることは多々ありますが、上席著者(シニアオーサー)や他の研究者が責任著者となることもあります。興味深いことに、上席著者は他の著者に比べて不正を犯すことが少ないことも示されていました。

筆頭著者の役割

筆頭著者は多くの場合(常にではありませんが)、研究を主導した研究者です。当該の研究を考案し、研究に関わる実務の大部分を実施した人であることが大半です。時には、比較的経験の浅い研究者が筆頭著者になることもあります。その場合は、より経験豊富な研究者の指導を受けながら研究を進めていきます。

著者として最後に名前が載る研究者は、最終著者・最後著者(ラストオーサー)と呼ばれ、通常は上位の研究者や研究責任者がこの役割を担います。筆頭著者の研究チームのリーダーにあたる研究者です。当該論文の研究におけるラストオーサーの役割は、場合により異なりますが、大きな役割を担うことや、大局的な指導を行うこともあります。

中間著者については、特に統一された規定はありませんが、普通は論文に対する貢献が大きい順に名前が載っています。中間著者の役割は、筆頭著者より小さく、特定の分野の専門的知識や能力で寄与したり、データなどの論文の材料を提供したりします。

筆頭著者は、研究開始から完了までを通して最大の役割を担っていることが普通です。そのため、研究不正があった場合、それに何らかの形で関与している可能性が一番高くなるいのです。

筆頭著者は研究の保証人(Guarantor)になるべきか?

上述のPLOS ONEの調査論文は、筆頭著者が研究不正に関与している可能性が高いのだから、論文全体の説明責任を負うべきだと主張しています。ある意味で論文の「保証人(Guarantor)」であるべきというのです。筆頭著者は、研究論文に関わる全員の貢献を確認することが推奨され、研究不正が発覚した場合は、筆頭著者が責任を負うことになります。こうすることで、不正の責任を負うべき著者を見逃す可能性を最小限に抑えることができます。

しかし、これに反対している研究者もいます。筆頭著者にとって、共著者が研究不正をしているか否かを見つけるのは、とても難しいと言います。例えば、共著者から提供されたデータを、筆頭著者がチェックするのはほぼ不可能でしょう。共著者を信じるしかないのです。そのため、論文に不正の徴候が見られた場合、研究チーム全員を調査することが必須なのです。

社会科学に特化した大学であるロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのDaniel Fanelli博士の考え方は、さらに一歩踏み込んだものです。筆頭著者に共著者の行為の責任を負わせるのは、倫理的にも法的にも正しくないとしています。博士は「自覚的に虚偽、欺瞞や盗用・剽窃をおこなったものだけが罰せられるべきだ」と述べています。

一方、エディンバラ大学のMalcom MacLeod教授は、別な意見を持っています。上位著者、あるいは研究室の主宰者(PI)が不正の責任を負うべきと主張しています。その理由として、経験の浅い研究者が筆頭著者になることが多いことを挙げ、筆頭著者が不正行為を行っているとしたら、上位著者はそれに気づく(だろう)と考えるのが合理的――と述べています。

なぜ筆頭著者に研究不正が多いのか?

PLOS ONEの論文で、筆頭著者が不正に関与するのが多い理由として指摘されているのは、論文を発表することで最も大きな影響を受けるのは筆頭著者であるという点です。このため、筆頭著者は論文を学術雑誌(ジャーナル)に掲載させようとして、研究不正に手を染める動機が他の人たちより強いというのです。同じことは責任著者にも言えますが、既に研究者としてのキャリアを確立させている上位著者は不正をする動機が弱いのです。また、中間著者への影響力はあまり大きくありません。にもかかわらず、現行のガイドラインの下では、研究不正に対して中間著者も筆頭著者と同罪をうける可能性があるため、中間著者が研究不正に手を染める可能性は非常に低くなるのです。

研究不正の追及

研究不正の調査を行う際、少なくとも手始めとして筆頭著者に注目すれば、調査のコストを抑えることができるでしょう。しかし、研究者の大部分は徹底的な調査に賛成すると思われます。不正に気が付きながら、何らの対処もしなかった著者も特定すべきです。

PLOS ONEに論文を発表したHussingerとPellensは、罪のない研究者が他者の行いで罰せられるのは不公正だ、という点を強調しています。不正に関与したとなれば、研究者としての経歴や評判に傷がつくかもしれません。この点も、調査結果が示すように研究不正に関与している可能性がより高い筆頭著者に焦点をあてるべきと、Hussingerらが主張する理由のひとつです。

しかし、筆頭著者に責任を負わせたところで研究不正が減るでしょうか。若手の研究者が筆頭著者になる意欲を削ぐことになりはしないでしょうか?

研究不正とオーサーシップの問題は複雑で、万能薬のような解決策が容易に見つかるとは言えません。オーサーシップにおける不正の責任の度合いは、ガイドラインによっても異なっているようです。ある組織のガイドラインは、各著者は自分の関与した部分にだけ責任があるとし、別組織のガイドラインでは著者全員の連帯責任としています。これでは研究者にも、研究不正の監視に従事している人たちにも混乱が生じてしまいます。しかし、研究論文に対する信頼を維持・向上していくことは関係者全員の強い思いであるはずです。真摯な議論を積み上げ、研究不正への対策が一歩ずつでも進むことが望まれます。


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