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複数筆者の中で偉いのは?

学術論文には、通常複数名の著者がいます。近年、専門分野の境界線や国境を越えて新しい共同研究が行われ、複数の著者による共著の論文数が増加してきました。これにより、共同研究者の役割を適切に記載することが大きな課題となっています。
学術出版物において研究者が担う役割には、実験の設計・実施から、データの分析や論文の執筆まで、多岐にわたります。論文作成にあたり「最も貢献度の高い研究者」が筆頭著者となり、「最も高く評価される」というのが伝統的なあり方ですが、第二筆者以降の役割はあまり定義されていません。多くの研究分野では、最後に記載されている著者が、その研究の実施を管轄した人だと見なされ、筆頭著者と同程度に評価されています。しかし、これはあくまで非公式の慣習であり、最後に記載されている著者がその研究を「実現させた」人だという想定が常に正しいわけではありません。
実際、論文に記載する著者名の順序は、貢献度、アルファベット順、職位順など、状況に応じて様々な方法で決めることができます。このため、実際の貢献度を検討する際や、業績評価委員会による今後の評価の際に、部外者が論文に記載された著者一覧を適切に解釈することが難しくなっています。
そこで、研究者、編集者、研究機関、そして資金提供団体は、研究プロジェクトに対する個人の貢献について、より詳しい情報を知りたいと思うようになっています。2名の著者による論文の第一著者と第二著者であればわかりやすいのですが、著者の数が増えていくと、複雑になっていきます。この問題に対して、どのような解決策が図られているのでしょうか?
学術校正・翻訳業界の専門家の意見を紹介します。


「CRediTとOpenRIFは、著者の貢献度を判断する際の2つの解決策です。」

通常、私たちは、ある研究の筆頭著者が最も評価されると考えますが、いつもそうだとは限りません。その研究の中の特定の部分については他の著者が大きく貢献したのかもしれません。しかし、著者リストに関する現在の規定では、他の著者の貢献度を測ることができません。学術誌が著者をアルファベット順に並べた場合、著者一覧を見ても、誰が何を担当したのかを見分ける方法はありません。
ほとんどの読者にとっては、どの研究者が何を担当しているかは問題にならないかもしれません。しかし、研究者の評価を仕事にしている人にとっては、どの著者がどのような貢献をしたかを正確に判断できないことが問題になることもあります。ある論文に対する各著者の具体的な貢献を区別することが重要な場合も多いのです。ある著者が、研究費や奨学金を申請する際や、大学院に出願する際には、研究に貢献したその他の著者の中で、特に自分の仕事を目立たせたいと思うことでしょう。
また、論文に実質的な貢献をしなかった人の名前が著者として記載される場合もあり、さらなる混乱が生じる原因にもなりかねません。こういった「名前だけの著者」が、論文に信頼性をもたらす場合もありますが、本来の著者がどのような貢献をしたかはさらに不明瞭になってしまいます。
これらの問題に対応するため、著者の貢献度を明瞭にするプログラムが開発されました。CRediT(Contributor Roles Taxonomy)OpenRIF(Open Research Information Framework)は、著者の貢献度を判断する際の2つの解決策として活用できます。CRediTは、貢献者に関する説明を学術誌に提示し、著者として公式に記載されている、いないに関わらず、研究に参加した貢献者を識別することができます。また、OpenRIFは、研究に対する具体的な貢献に関する情報を分類することで、著者についての透明性を高めています。
CRediTやOpenRIFといったツールによって、研究者が自らの貢献度を評価される可能性は高まりつつあります。

博士(認知科学)
米国にて7年以上の学術論文校正経験


「論文の著者になることはたいへん重要であり、複数の著者による論文が増加するにつれて著者になる機会が増える半面、著者としての立場を獲得することは難しくなっています。」

著者になることは、研究者にとって重要ですが、不正にさらされることもあります。経験ある研究者が肩書きだけの著者として記載されるにせよ、大きな貢献をした人が記載されないにせよ、論文の冒頭に書かれる筆者一覧から誰が何をしたかについて詳細を把握することはできません。この点について、各著者の貢献を記した部分がより明確な情報を与えてくれる場合もありますが、最終的には、筆頭著者と、最後に名前の書かれた著者が、その研究の主たる責任者として最も高い評価を受けると推定されます。
科学とは、情報交換や各種学会を通してすばらしいアイディアが生み出される「共同的な実践活動」だと考えれば、研究費を確保するために本当に重要なのは、著者として認められることだけです。そのために、この10年間、研究者の業績を定量化する指標として、「H指数」というものが導入されてきました。
この指数は、ある研究者が、筆者リストにおける名前の配置に関わらず、公刊した論文が何回引用されたかを算出したものです。H指数の数だけ引用された論文が少なくともH本以上あることを意味しています(H指数が10の場合、10回以上引用された論文を少なくとも10本以上公刊しているということです)。この指標により、公刊論文の数と引用された数(被引用数)との均衡が図られています。あまり論文を公刊していない若手研究者が影響力の大きな論文を1本発表すると、その若手研究者は研究者の間で一目おかれますが、著者としてのH指数がすぐに上がるわけではありません。一方、公刊論文数の多い、経験ある研究者が影響力の小さな論文を発表してもH指数には反映されません。ただし、研究者が被引用数よりもはるかに多くの論文を公刊している場合は、被引用数が時間の経過とともに積み重なることでH指数が上昇するかもしれません。
いずれにせよ、著者になることはたいへん重要ですが、複数の著者による論文が増加していることで、著者となる機会は増えています。著者としての立場を獲得することが難しくなってきているものの、研究の質あるいは量に関する基本は変わりません。著者として記載する際の基準の透明性を改善すれば、合議で決められていた論文における位置づけを利己的に利用するのを防ぐのに役立つかもしれませんが、この基準はかなり柔軟なものであり続けるでしょう。

修士(癌研究)
豪州にて12年以上の科学・医療文献執筆経験


「複数の著者による出版物は、筆者の名前の並べ方の他にも2つの大きな問題に直面しています。それは“幽霊著者(ゴーストライター)”と“名前だけの著者(ゲストライター)”という問題です。」

「著者として名前が出るか出ないか?」これは、現在科学者たちが直面している問題です。最近、複数の著者による出版物は、益々一般的なものになりつつあります。同じ分野の科学者たちによる共同研究から多くの論文が生まれているだけでなく、世界各地から様々な分野の科学者が集まってひとつの論文を作成することも増えてきました。
科学者たちがまず注目すべきは、「誰が何をやったか」です。実験に貢献するには多くの方法がありますが、典型的な場合、実験の責任者か、最も大きな貢献をした人が、論文の筆頭著者として論文に名を連ねます。しかし、筆頭著者以降の筆者の位置づけは曖昧であり、研究者の名前の並べ方には様々な方法があります。いくつか例をあげれば、貢献度順、アルファベット順、職位順といった方法が考えられます。貢献した人の数が増えるほど、著者順の決定はより難しくなります。
複数の著者による出版物は、名前の並べ方の他にも2つの大きな問題に直面しています。それは「幽霊著者(ゴーストライター)」と「名前だけの著者(ゲストライター)」という問題です。「幽霊著者」というのは、その出版に貢献したものの、何らかの理由で著者として記載されない人のことです。このことは、利益相反の可能性や、その他多くの理由から起こり得ます。「名前だけの著者」というのは、ほとんど正反対の問題であり、その出版に貢献しなかった人が貢献者として記載されることを指します。若手の研究者の論文に多く見受けられますが、その理由としては、より経験のある研究者を著者として記載することで、主要学術誌にその論文が掲載される可能性が高まると考えるためです。
このことは、出版物に関する大きな問題ですが、この問題の解決に向けた取り組みも進みつつあります。OpenRIF、ORCID(Open Researcher and Contributor ID)SHARE(SHared Access Research Ecosystem)などの団体が、論文において認められるべき貢献度をわかりやすくするしくみを創り出そうとしており、はるかに効率的で整理された過程を実現しようと試みています。

博士(情報技術)
日本にて11年以上の英日翻訳経験

 

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