研究成果の「誇張」は、プレスリリースにもある

研究成果の「誇張」は、プレスリリースにもある研究 成果において、科学や医療に少し詳しい人であれば、新聞やテレビ、ネットメディアのニュースが正確ではなく、しばしば結果を「誇張」していることに気づいていら立ったという経験があるでしょう。その責任は誰にあるのでしょうか? 記者でしょうか? それとも科学者でしょうか?

カーディフ大学の心理学者ペトロク・スンナーらは、2011年にイギリスの主要な大学20校が出した、生物医学や健康に関係する科学研究についてのプレスリリース462本と、そのもとになった査読付き研究 論文、そして全国紙の記事668件を分析しました。スンナーらは、「誇張」には3つのタイプがあることに注目しました。第1に、読者に対して行動を変えるよう助言(アドバイス)するもの、第2に、相関が見られるだけのデータにもとづいて因果関係があると主張するもの、第3に、動物実験での知見を人間についても推測するもの、です。

彼らがプレスリリースを査読付きジャーナルに掲載された研究論文と比較したところ、そのプレスリリースの40%には、誇張された「助言」が含まれていることがわかりました。また33%には誇張された「因果関係」が書かれていました。36%には「動物実験からの推測」が含まれていました。

そしてプレスリリースに誇張が含まれている場合には、ニュース記事にも誇張が含まれるという傾向があることもわかりました。プレスリリースに助言が含まれている場合、ニュース記事の58%に誇張が含まれていました。因果関係が含まれている場合には81%、動物実験からの推測が含まれている場合には86%の記事に誇張が含まれていました。一方、プレスリリースに誇張が含まれていない場合、記事に誇張が含まれているのは、助言については17%、因果関係については18%、動物実験からの推測については10%にとどまりました。

一方で、プレスリリースにおける誇張がニュースの理解を後押ししているという証拠はほとんどなかったといいます。また、プレスリリースにおける誇張と記事における誇張との間に「因果関係」が見出されたわけではない、ともいいます。彼らは調査結果をまとめ、2014年12月、『BMJ(英国医学ジャーナル)』に掲載された論文で下記のように指摘しています。

ニュースが誇張されていたり、センセーショナルだったり、警告的だったりすることで、メディアやジャーナリストを非難することがよくあるが、われわれの知見の核心は、調査で見つかった誇張のほとんどは最初からメディアで生じたわけではなく、研究者や彼らが所属する研究機関が作成したプレスリリースの文章にすでに存在していた、ということである。

有名な医師・研究者・コラムニストであり、『悪の製薬』(青土社)など邦訳された著書もあるベン・ゴールドベイカーは、同じ号の『BMJ』に寄せた論説で「プレスリリースは科学出版の一部である」と主張します。

ジャーナルはプレスリリースに対応しなければならないし、プレスリリース中の虚偽については、コメンタリーやレターを出す必要がある。学術論文に対するコメンタリーやレターと同じように。

薬や治療法へと発展する可能性のある研究は、報道のされ方次第では、人々の行動に影響をおよぼすことがあります。研究者はその責任をメディアに押し付けるのではなく、科学コミュニティの問題としてとらえる必要がある、ということでしょう。


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ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

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