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ポスドクからのキャリアチェンジを考える

せっかく苦学を経て博士課程を修了しても、そのまま研究者となれるか、あるいは学術研究に携わることのできる人はわずか。ポスドクのキャリアパスが不透明になっている時代、幅広いキャリア選択を視野に入れることが必要となっています。

■ 学術研究が選択肢のひとつになる時代

研究職を続けたいと願うポスドクの前に、厳しい現実が立ちはだかります。削減される研究費予算、限られた助成金、先の見えない微妙な立場……ポスドクは研究者としての地位を築くための通過点ですが、教授クラスに到達できるのはほんの一握り。欧米では、ポスドクは正規の研究職に就く前のトレーニング期間として認識されていますが、日本では、ポスドクのキャリアパスが整っているとはいえない状況です。研究職のポストは限られており、研究職につけたとしても採用は任期付きであることが多く、高齢ポスドク(一般的に35歳以上とされる)の就職難などの問題につながっています。この状況を打破すべく、民間企業への就職も含めたキャリアパスを検討することになるわけですが、研究を継続することがひとつの選択肢と考えざるを得ないご時世なのです。文部科学省は「大学院修了者のキャリアパスの確保と可視化の推進」を含む「第3次大学院教育振興施策」を2016年に策定し(平成28年度からの5年間)、取り組みを進めていますが、研究者自身にも多様なキャリアパスの可能性を探る努力が求められています。

少し古いものですが科学技術・学術政策研究所が2014年に発表した研究によると、正規雇用の仕事(常勤・任期なし)に移ったポスドクの割合は、男女平均わずか6.3%と、正規雇用への移行率が極めて低いことが見て取れます。確かに、すべての民間企業がポスドクの採用に積極的とは言えませんが、一部の分野や業界ではポスドクのニーズが高まりつつあり、国や大学・大学院、さらには民間の採用支援企業などもポスドクの就職支援に乗り出しています。

■ プロダクトマネジメントという選択

民間企業で働くことを考えたとき、どのような職種がポスドクに向いているのか、どのような職種が選ばれているのか気になるところです。Springer Nature社が運営する科学技術関連の求人情報やイベントなどを提供するサイト「NatureJobs」に紹介された記事に、PhDやポスドクの経験が役立つ職としてプロダクトマネジメンへの転職が紹介されています。

プロダクトマネジメントという職種は、アメリカの求人検索情報サイトを運営するグラスドア社が選んだ「人気職業トップ50」の9位にランクインする職です。業務内容としては、「製品、製品ライン、あるいは製品ポートフォリオのレベルでのビジネスマネジメント」であるとされ、生産プロセスに関わる一連のフローを組立てていく仕事だと言えます。コスト、生産体制、フローなどにつき最善の方法を提案・確認しつつ仕事を進める――と言われれば、研究課題を考え、研究予算の枠内で実験を計画し、成果としての論文作成を進めるのと似ているような気がしませんか。

一般的に、企業が顧客に提供する「プロダクト」には有形無形のものが含まれており、日本語の「製品」よりも広い意味でとらえるようです。そして、プロダクトマネジメントで重要視されるのが、ビジネスマネジメント。製品品質よりも広い範囲をカバーすることになるので、顧客または市場のニーズや課題を捉え、革新的な商品やサービスを作り出すことに携ることになります。つまり、プロダクトマネジメントとは、企業が生産し、販売するプロダクト開発の上流から下流まで体系的に整理し、責任を持つことと言えるのです。

■ プロダクトマネージャーに求められるスキル

プロダクトマネジメントには、新しいこと(機能)を考え出し、実現するための手段を考えつつ、コストにも注意しながら成果を出すためのスキルが求められます。PhDやポスドクは、これらのスキルを日々の学研生活で培っているはずです。チームで研究を進めた経験を有する研究者であれば、それまでの経験をプロダクトマネジメントの仕事に生かすことができるでしょう。さらに、課題に取り組む根気強さや、限られた予算や時間でプロジェクトを進めてきた経験も役に立つはずです。プロダクトマネジメントの仕事は、財務、運営、法務、品質管理、プロジェクト管理などさまざまな職務にわたります。そのため、プロダクトマネージャーには、考察力、論理的に物事を進める力、判断力、コミュニケーション力などのスキルが求められるのです。

しかし、いくら要求されるスキルを有していても、専門的な研究から企業での業務への移行は簡単ではありません。何より、ほとんどの研究職における成功は論理的かつ客観的なものですが、プロダクトマネジメントの成功は、多様な顧客の満足度と業績によって評価されるもので、評価基準が全く異なるのです。それでも博士課程で効率的な課題解決に向けて取り組んできた経験は、プロダクトマネジメントの業務でも生かされることでしょう。

■ キャリアチェンジを成功させるための準備

専門的な知識、長年積み上げて来た経験を有する優秀な人材を目当てに、ポスドクの採用を検討する企業が増えてきているとはいえ、キャリアチェンジがチャレンジであることは確かです。プロダクトマネジメントをひとつの選択肢として就職活動を行う際、留意しておくポイントを紹介しておきます。

1 マーケティングの基礎と財務の原則を学んでおく
UdemyCoursera、無料のYou Tube講義、micro MBAUniversity-based certificationなどのオンラインプラットフォームから情報収集したり、就職支援サイトの提供する情報などを活用したりしましょう。また、新卒採用が一般的な日本では、ポスドクは中途採用での選考になることが多いので、社会人として必要な一般知識程度はカバーしておくことをお勧めします。

2 問題解決スキルを磨く
博士課程で培った問題解決力を磨き、その能力があることを上手にアピールできるようにしておきましょう。

3 応募するポジションは幅広く考える
職種によってはPhDの学位が実際の職務に不釣合い(オーバースペック)であると思われ、キャリアチェンジの妨げになることもあります。しかし、PhD取得に費やした年数は無駄ではありません。企業によって差はあるものの、中小の企業の管理職の役割に該当するタスクをこなしていたかもしれないことを鑑み、未経験者から経験者の募集まで幅広いポジションを応募対象と考えましょう。

4 自分をPRできる「プロダクト」を作ってみる
ブログのような簡単なものや、博士課程あるいはポスドク時代に行った研究以外の活動など、自分の「プロダクト」を示すことは、プロダクトマネジメントに必要な物事を考え出す能力があることをアピールするのに役立ちます。

終身雇用の研究者になれる可能性は少なく、研究者であり続けることすら将来が見通せないことを踏まえれば、民間企業に就職することはひとつの選択です。企業に就職したとしても、ここで紹介したプロダクトマネジメントのように、研究生活で培った経験を生かしつつ、新たな技術を習得してキャリアアップを目指すことができる職もあります。

自分の適正・能力に合う仕事を見つけ、キャリアチェンジするには努力を要しますが、それを凌ぐ可能性に賭けてみるのもよいのではないでしょうか。

 


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