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医学研究報告の透明性確保ガイドライン6選

2020年6月、医学雑誌に掲載された新型コロナウイルス感染症に関する論文の撤回が注目されました。その主たる理由は、データの信憑性に疑問が持たれたこと。この論文は、査読を経て発表されましたが、公開後に研究者から公開質問状が提出されて撤回に至り、世界中が新型コロナウイルス感染症の治療薬やワクチンを一刻も早く市場に出そうと研究を進める中で衝撃的なニュースとなりました。しかし、論文が撤回されても、一度公開されてしまった論文の内容がメディアなどを通じて拡散され、予期せぬ影響を及ぼす危険性は残ります。データの透明性確保は国際医学雑誌編集者委員会(ICMJE)のデータ共有ポリシーにも明記されていますし、人の命に影響することであるため、データを含む研究の透明性を確保し、関連情報の公開を徹底することが必要不可欠です。

EQUATOR Networkが主導する取り組み

医学研究の報告における説明やデータが不十分であると、研究自体への信頼性に疑問が持たれるだけでなく、再現性においても問題となります。そこで、EQUATOR Network(Enhancing the Quality and Transparency Of Health Research:健康研究の品質と透明性を強化するネットワーク)が主導して、診断、疫学研究、ランダム化比較試験、観察研究などにおける研究デザインや報告に関する多様なガイドラインの作成が推進されてきました。研究報告の透明性と正確性を高めることを目的としたそれらのガイドラインはネットワークを通して研究者に提供されています。

医学研究論文で広く使われているガイドライン

医学研究の報告に役立つガイドラインの中から、広く受け入れられている6つ(PRISMA, CONSORT, STROBE, MOOSE, STARD, SPIRIT)を紹介します。生物医学・生命科学のオンライン論文アーカイブであるPMCに掲載された論文には、ガイドラインに準拠した研究を実施することが、医学研究論文の質の改善につながると述べられています。

1) PRISMA (Preferred Reporting items for Systematic Reviews and Meta-Analyses)

システマティックレビューおよびメタ分析において報告すべき項目が、27項目のチェックリストおよび4段階のフローチャートで示されている。2009年公表。

2) CONSORT (Consolidated Standards of Reporting Trials)

臨床試験報告に関する統合基準が記されており、ランダム化比較試験の報告を改善するために広く用いられている。必ず報告すべき点が、25項目のチェックリストとフローチャートで網羅的にカバーされている。1996年に作成されて以降、改訂を重ね、現在利用されているのは2010年に改訂されたCONSORT 2010。CONSORTのホームページからCONSORT 2010のダウンロードが可能。

3) STROBE (Strengthening the Reporting of Observational studies in Epidemiology)

観察的疫学研究の報告の質を改善することを目的とした観察研究を報告するためのガイドライン。22項目のチェックリストで構成されている。コホート研究、症例対照(ケースコントロール)研究、横断研究などの研究デザインを推奨している。2007年に第4版が公開された。

4) MOOSE (Meta-analysis Of Observational Studies in Epidemiology)

疫学における観察研究のメタ分析報告を行うためのガイドライン。1997年4月に観察研究におけるメタ分析の有用性を向上させるためのガイドラインを設計することを目的にワークショップが開催され、背景、研究戦略、方法、結果、考察、結論の見出しの下に計35項目のチェックリストが作成された。

5) STARD (Standards for the reporting of Diagnostic accuracy studies)

生物医学研究における診断精度の報告の質を向上させるための報告基準。2015年の改訂で、研究の登録番号と登録名、プロトコールの入手可能性、資金源などの記載項目が追加となり、30の書くべき項目がリストされている。

6) SPIRIT (Standard Protocol Items: Recommendations for Interventional Trials)

標準的なプロトコール:介入試験のための推奨。無作為化試験プロトコールの報告を明確にするための最小限の内容をまとめたガイドライン。SPIRIT2013は33項目のチェックリストで構成されている。

これらの主なガイドラインについては包括的なレビューも行われているので参考にしてみるとよいでしょう。ガイドラインによっては日本語版もあります。

ガイドラインにより研究の透明性と正確性は確保されたか

医学研究の透明性を確保するのに重要なのは研究情報と証拠(データ)の提示です。研究がどのように実施され、どのような結果が得られたかを正確に把握し、その研究結果が実際の医療に与える影響を評価するためにも正確な報告が求められます。ガイドラインの導入により、医学研究の報告の正確性と透明性の確保に多大な影響を与えたのは確かでしょう。ガイドラインに従うことで報告の質は向上しますし、査読者はガイドラインと照らし合わせることによって重要な項目が報告されているかの確認ができます。さらに、影響力の高いジャーナルがガイドラインに従って書かれた論文のみを公開すれば、質の確保は一層高まります。よって、ガイドラインを作成し、それに準じた報告を行うことは、研究者と研究の評価を行う査読者ら双方にとって研究の質を向上させる上でメリットがあると言えます。

しかし、実際には研究の透明性と正確性が完全に確保されたとは言えない状況です。ガイドラインによっては意図したほど厳格に守られていないことや、出版論理委員会(COPE)による「論文査読者のための倫理ガイドライン」の指示としては明確なチェックが定められていないことから、編集者や査読者が、投稿論文がガイドラインを順守しているか責任を負いたくないと考えていることも原因です。また、本来ガイドラインは報告のためのチェックリストを提供するものであるため、研究デザインや方法に関する問題に対処したり、不完全なデータを入力しても不完全な答えしか得られないという「ごみからはごみしか出てこない」問題を解決したりするものではありません。これに対しては、医学研究の評議会や関連省庁が研究プロセスのアルゴリズムを作成すべきとの指摘も出ています。さらに、ガイドラインを更新して評価するための方針は明確になっていません。ガイドラインの運用実績に基づいて定期的に評価および更新されることが理想的ですが、そこまでは固まっていないのが現状です。

もうひとつ留意すべきは、出版バイアス(パブリケーション・バイアス)の問題です。ガイドライン適用により発表できない研究が存在していることが指摘されています。高インパクトジャーナルがガイドラインに準拠した論文だけを公開するとしたことで掲載されない論文が出る一方、中あるいは低インパクトのジャーナルではガイドラインに準拠していない論文の出版が可能になるということも起こりかねません。

このようなガイドラインのメリットとデメリットを踏まえた上で、ガイドラインが正しく適用されることが期待されます。学術ジャーナルが独自に規定する執筆ガイドラインとともに、どのガイドラインに従って報告がなされることを求めるか示すべきでしょう。とはいえ、投稿されたすべての論文が各種ガイドラインに準じているかをチェックするとなれば、編集者および査読者には負担となってしまうので、なんらかの策がとられない限り、ガイドラインの順守は実質的には著者に委ねられることになります。論文著者の中には、さまざまな理由からガイドラインの項目の記載を省いてしまう人や、ガイドラインを順守することに消極的な人がいるかもしれません。正確性と透明性の高い報告書を作成するためには、ガイドラインの適切な運用とあわせて他の解決策の検討が必要なのかもしれません。

医学研究における各種報告ガイドラインの意義は、著者が論文に記すべき項目を明確に示すことで、報告の正確性・透明性の向上、および研究結果の妥当性の評価を容易にしたことです。この点での貢献は見られるものの、まだ改善の余地が残されているようです。近年は発表される論文数が年々増加していますが、特に、昨今のコロナウイルスに関連する論文は膨大な数に上りっており、特例的な速さで進められる査読を経ての公開、あるいは査読のないプレプリントサーバーに掲載されて世に出回っています。この混乱が当面は続くと予想される中、前述のようなデータに問題があるとされる論文も報道で取り上げられたり、政策立案の際の参考にされたりすることで、治療や健康維持に影響を与える危険性を孕んでいます。そのためにも、研究および論文の透明性の確保は重視されるべきです。同時に、報道機関を含む読者は、発表されたばかりの論文や新しい見解に対して慎重であることが必要でしょう。

最後に、本記事で紹介したガイドラインのチェックリストへのリンクを下表に示します。

PRISMA Checklist, Flow Diagram
CONSORT CONSORT 2010 publications, CONSORT Extensions,

CONSORT Translations

STROBE Checklists, Translations of STROBE Statement (Japanese PDF)
MOOSE A Proposed Reporting Checklist for Authors, Editors, and Reviewers of Meta-analyses of Observational Studies
STRAD STRAD 2015: An Updated List of Essential Items for Reporting Diagnostic Accuracy Studies (Checklist, flow diagram)
SPIRIT SPRIT2013 – Translations (Japanese Statement)

 


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