強固な仮説を立てる

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優れた研究論文を生み出すためのスタート地点は優れた研究課題、リサーチ・クエスチョンの設定です。そしてそれは、優れた仮説を立てることから始まります。ですから、強固な仮説を立てることは、論文を書く上で最も重要なステップの一つなのです。

仮説とは何か

仮説とは複数の変数の関係を仮定するもの、研究の結果、何が起こるかを予測するものです。仮説は検証可能でなければなりません。検証できないものは、研究とはなりません。例えば「森林火災が天候に影響を与えるか」というリサーチ・クエスチョンに対応する仮説として、「森林火災が竜巻を生む」という仮説を立てることができるでしょう。
仮説を強固なものにするには、いくつかの基準を満たす必要があります。
 

この記事では、弱い仮説と強い仮説の違いについて解説します。また、強い仮説や優れた論文を書くために、リサーチ・クエスチョンをどう表現するか、変数をどう設定するかについても考えていきます。

仮説とは何か

前述のとおり、仮説とは複数の変数の間の関係を仮定するものです。上の仮説の例では,変数は森林火災と竜巻で,両者に因果関係があると仮定されています(森林火災が竜巻を引き起こす)。この仮説があることで、研究で調査しようとしているのが、森林火災と竜巻の関係であることは明らかです。

強固な仮説とは、以下の条件を満たすものです。:

  • 明確であること
  • 複数の変数間の関係を仮定するものであること
  • 検証可能であること

仮説は当て推量ではなく、先行する理論や知識の上に成り立つものでなければなりません。森林火災がある程度の規模になると近くで竜巻が観測されることが多いことや、そうした地域の多くで平常時に竜巻は観測されないといった既存の知識の上に、仮説が立てられるのです。

論文のテーマによっては、複数の仮説が必要になる場合もあります。重要なのは、データ分析や観察、実験、その他の方法により仮説が検証できることです。

仮説の立て方

さて、仮説とは何かについて見たところで、強固な仮説を立てる方法について触れましょう。まず必要なのはリサーチ・クエスチョンです。リサーチ・クエスチョンは、範囲の絞られたもので、答えが求められるものでなければなりません。それを設定した上で、仮説を立てていきます。まずは、仮説に関わる変数を明確にします。

仮説を立てる上で最も良い方法の一つが、「if...then」の構文の文、つまり「どうすれば、どうなる」という文を考えることです。これは変数を決め、仮説文を洗練させる上でも役立ちます。いくつかの例を挙げてみましょう。

10代の若者が包括的な性教育を受ければ、10代の妊娠は減る

この例では、独立変数は10代の若者が十分な性教育を受けているかどうか(原因)で、従属変数は10代の妊娠数(効果)となっています。

植物性の餌のみを与えられた猫は死ぬ

ここでは、独立変数を猫の食事(原因)とし、従属変数を猫の健康(原因によって影響を受けるもの)としています。

毎日8オンスの牛乳を飲む子供は、牛乳を飲まない子供よりも身長が伸びる

この仮説の場合は、牛乳を飲むことが独立変数、成長することが従属変数です。牛乳を飲むと子供の身長が伸びるとの推測です。

仮説を洗練する

仮説は、改良を重ねて策定していきます。強固な仮説は、明確で、検証可能で、予測を伴うものです。検証可能とは、立証あるいは反証ができるという意味ですが、理論的に検証が可能という意味だけではなく、倫理基準に反しないで必要な実験ができるという意味でもあります。植物性の餌だけを与えて猫に危害が及ぶかもしれないという倫理的問題点を考慮すると、この仮説は放棄すべきかもしれません。しかし、猫の食事と健康との関係性を探る研究が本当に重要だと考えるなら、仮説を次のように改変するのが良いという場合もあるでしょう。:

猫の餌の50%を植物性にすると、猫の栄養ニーズを満たせない

強固な仮説のもう一つの特徴は、すでにあるリソースで簡単に検証できることです。例えば、子どもの成長を一生涯測定するのは難しいですが、1年間であれば可能でしょう。それを考慮すれば、上で挙げた仮説は次のように改めるとより良いものになるかもしれません。:

8歳の子供が1年間、1日8オンスの牛乳を飲めば、牛乳を全く飲まない子供に比べて、その1年間でより身長が伸びる

研究の範囲を現実的なものとするために仮説を絞り込み、改良する中で、本当に研究が可能なのかという不安や疑問が頭をもたげることもあるでしょう。そんな時は臆することなく指導教官などに相談しましょう。

弱い仮説とは

強固な仮説は、明確で、複数の変数の関係を予測し、検証可能であると述べました。一方、一般的すぎたり具体的すぎたりする仮説は、強固ではありません。強い仮説の基準を満たす例をいくつか挙げましたが、今度は、弱い、または良くない仮説の例を挙げ、その違いを見ていきましょう。

良くない仮説1:糖尿病は魔術が原因である

これは、明確な根拠、データ分析、実験などで検証、証明することができません。この仮説は、検証可能であるという要件を満たしていません。

良くない仮説2:食事の量を変えれば、エネルギーレベルが変わる

あまりにも漠然としています。食事量を増やすのか減らすのか?エネルギーレベルに何が起こると予想しているのか、そしてその理由は?そもそもエネルギーレベルとはいったいどう定義されるのか?この仮説は、明確であるという要件を満たしていません。

良くない仮説3:日本人は観光客が嫌いだから日本食は不味い

この仮説では、変数間の関係が不明瞭です。仮定しているのが、日本食のおいしさと観光客の来訪意欲の関係なのか、日本食のおいしさと観光客好きの日本人の割合の関係なのか。さらに言えば、日本食が 「不味い」という評価は、主観的です。問題だらけです。

帰無仮説と対立仮説

帰無仮説とは

仮説とは、複数の変数間に関係性の仮定ですが、帰無仮説とは,簡単に言えば変数の間には何の関係もないという仮説です。「差がゼロ」、「相関がゼロ」という意味でH0と表示されます。対立仮説は反対に、変数の間に何らかの関係があるとの仮定です。対立仮説は,HaまたはH1.と表記されます。

冒頭で紹介した仮説の例に対応する帰無仮説を見てみましょう。

Ha: 10代の若者が包括的な性教育を受ければ、10代の妊娠は減る

H0: 10代の若者が包括的な性教育を受けても、10代の妊娠数に変化はない

帰無仮説では、十分な性教育が10代の若者の妊娠数に影響を与えないと仮定されます。帰無仮説は、必ずしも対立仮説の逆の仮説ではありません。例えば以下の2つの文を見てみましょう。:

10代の若者が包括的な性教育を受ければ、10代の妊娠は減る

10代の若者が包括的な性教育を受ければ、10代の妊娠は増える

両者は、十分な性教育が10代の妊娠数を増加させる、あるいは減少させるという、変数間の逆の関係を想定する対立的な記述です。これらはいずれも対立仮説です。なぜなら、どちらも変数の間に関係があることを仮定しているからです。どちらの仮説も、性教育と10代の妊娠率との間に相関関係があると述べているのです。「対立仮説」という言葉だけを取ると、研究者の予測とは逆の仮説と思われがちですが、研究者が予測した結果を述べる仮説の多くがそもそも対立仮説です。次のように考えると良いでしょう。相関関係のない帰無仮説がデフォルトであり、なんらかの相関関係があるという仮説が、デフォルトに対する代替案、デフォルトに対立する仮説なのです。

仮説の作成手順

ここまで、強固な仮説とは何か、仮説の作成方法、仮説の改良、帰無仮説について説明してきましたが、それをいくつかの例でまとめてみます。下の表は、リサーチ・クエスチョン、変数の特定、帰無仮説の作成、そして強固な対立仮説を作成する方法の手順です。

リサーチ・クエスチョン

変数

仮説(対立仮説)

帰無仮説

公立学校での性教育の質は、10代の妊娠率に影響するか
  1. 公立学校での性教育の質
  2. 10代の妊娠率
公立学校での包括的な性教育が10代の妊娠率を下げる公立学校での性教育の質は、10代の妊娠率に影響しない
2週間以上燃え続ける森林火災は、地域の気象に影響を与えるか
  1. 森林火災
  2. 地域の気象
2週間以上燃え続ける森林火災は、その熱で風のパターンに影響を与え竜巻を発生させる森林火災は地域の気象に影響を与えない
植物性の餌でも猫は健康を保てるか
  1. 猫の健康
  2. 動物性の餌の有無
猫は肉食動物のため、植物性の餌だけでは健康を損なう餌に何を食べるかは猫の健康には影響しない
1日30分のウォーキングは人の健康に影響を与えるか
  1. 1日30分のウォーキング
  2. 人の健康
1日30分のウォーキングは、人の心血管の健康と脳の機能を向上させる1日30分のウォーキングは、人の健康を改善することも損なうこともない

しっかりとしたリサーチ・クエスチョンを立て、強固な仮説を立てたところで、いよいよ論文の執筆を始めます。優れた論文を書くためのヒントや、論文の校正・校閲サービスに関する情報についてはぜひ、このサイトをご活用ください。

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