突然ですが、お寿司は好きですか?
週末などになると寿司チェーンは大混雑で、本当に日本人はお寿司が好きだなと感心しますが、今回は寿司好きも無視できない気候変動による海の温暖化と漁業への影響を紹介します。
日本近海の平均海面水温は世界平均の2倍のペースで上昇
この数年、夏の暑さとともに日本近海の海水温が非常に高くなっていると耳にすることが増えていると思います。実際、気象庁によると、2025年までの日本近海の平均海面水温(年平均)の上昇率は、100年あたり+1.36℃の割合となっています。水温の変化にはバラツキがありますが、世界全体の平均海面水温の上昇率が100年あたり0.63℃、北太平洋全体で0.66℃であるのと比べると、日本近海の変化は世界平均の2倍以上のペースで上昇していることになります。日本近海の平均海面水温の上昇率は、季節や海域によって異なりますが、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次報告書(2021)によれば、海面水温は排出シナリオに応じた速度で上昇し続けると予測されています。

出典:気象庁「海面水温の長期変化傾向(日本近海)」より
図の青丸は各年の平年差、青の太い実線は5年移動平均値、赤の太い実線は長期変化傾向を表す。
世界的に見ても、2025年の年平均海面水温(全球平均)の平年差は+0.34℃で、統計を開始した1891年以降で3番目に高い値でした。そして海洋は地球上の二酸化炭素排出量の30%を吸収するとともに、温暖化による過剰な熱の約90%を吸収しているため、海面水温の上昇が進むに従い、海水中に蓄積される熱量が増加しています。その結果、海洋生態系に深刻かつ持続的な影響をもたらしうる海面付近の持続的な異常高温現象である「海洋熱波」が20世紀にわたってより頻繁に発生するようになってきていると指摘されています。
海水温の上昇が魚に与える影響
海水温が上昇するとどうなるか。恒温動物である人間にとっては「たかが1℃」でも、変温動物である魚にとっては生存に関わるほどの変化です。まず海水温は魚の代謝や捕食行動、産卵時期や成長速度を左右します。1℃変われば生息地を変える魚もいますし、回遊魚が回遊ルートを変えることもあります。また、水温が高くなると海中の酸素濃度が低くなるので、より酸素濃度の高い場所に移動することもあります。
農林水産省の「令和6年度(2024年度) 水産白書」によると、海水温上昇などの影響により、サンマやスルメイカ、サケなどの日本の主要魚類の不漁が長期化。その結果、2023年の日本の漁獲量は前年比2%減、過去最低の383万トンとなっています。サンマとスルメイカの漁獲量は2003年比で10分の1、サケ類は5分の1に減っているそうです。サンマはかつて「庶民の秋の味覚」と呼ばれていましたが、漁獲量の減少で今やすっかり高級魚となっています。

出典:水産庁「令和6年度 水産白書」より
海面水温や海流の変化は、魚介類の分布(生息域)や資源量に多大な影響を及ぼします。魚はその種に適した水温の海域に移動するので、水温の変化は魚の分布に直接的な影響を与えます。もともと冷水を好む魚が獲れていた海域の水温が上昇すれば、魚はより水温の低い北方へ移動するので不漁となってしまう一方で、温水を好む魚が獲れるようになることもあります。
たとえば、近年、北海道でブリの大漁が続き、2022年の漁獲量(約9600トン)は1990年(約502トン)の約20倍となりました。しかし、北海道ではブリを食べる習慣がなかったので、消費量を拡大する取り組みが必要となりました。獲れる魚種が変わることは、魚の加工、流通の改善など地域にとっての課題を生むことになってしまうのです。
魚種が変わっても獲れればいいのでは?と思われるかもしれないので自給率も見てみましょう。2024年度の食用魚介類の自給率(概算値)は52%(前年比 -2%)となっています。海藻類は61%(前年比 -4%)ですが、こちらも前年と比べると減少しています。水温上昇による温暖化が今以上に進めば、マグロなどの大型回遊魚の回遊ルートは変わり、近海に生息する魚も適温な水域に移動していきます。「レジームシフト」と呼ばれる急激な環境変化が起こり、漁獲量の増減や魚種交代(獲れる魚種が変化する)が生じる可能性が高まることも考えられます。こうした温暖化に起因する変化が進めば、予想以上に早く、現在寿司ネタとして一般的な魚種が食べられなくなるかもしれません。
重量ベースの自給率
年度 | 2022年度確定値 | 2023年度確定値 | 2024年度概算値 | 前年比との増減 |
魚介類(食用) | 56 % | 54 % | 52 % | -2 |
魚介類(全体) | 54 % | 53 % | 52 % | -1 |
海藻類 | 67 % | 65 % | 61 % | -4 |
引用:水産庁「令和6年度の食料自給率(水産物)の概要」

出典:水産庁「令和6年度水産の動向」より
温暖化は世界中の海で起きています。国際連合食料農業機関(FAO)がまとめている世界の海洋水産資源の状況によれば、持続可能なレベルで漁獲されている状態の資源の割合は漸減傾向にあります。しかも世界の人口増加などを背景に水産物の需要量が年々増加し、供給不足が進んでいるので、資源管理を行わなければ品不足と価格の上昇が起こることは容易に想像できます。一例をあげれば、2025年9月、国際海洋探査評議会(ICES)は、北大西洋での2026年のサバの漁獲量を77%削減するように推奨しており、この勧告に従わなければ、資源の回復の可能性が低くなると警告しています。漁獲制限など持続可能性に重点を置いた国際的な取り組みが行われてはいるものの、加速的に変化している気候変動に適応しきれていないことが問題視されています。日本近海でも温暖化の影響を踏まえ、科学的根拠に基づく資源管理を行うことが不可欠です。
また、水産白書では海のゆりかごである藻場も、高水温や食害などによって衰退していると指摘しています。藻場の衰退は、藻場を生息場あるいは餌場としているイセエビやアワビなどの水産生物の漁獲量の減少にもつながります。藻場は気候変動の緩和策のひとつであるブルーカーボン生態系として注目されており、藻場保全および藻場再生の取り組みが行われています。しかし全国の藻場面積を見ると、1990年の約33万haから2022年には16~17万haと約半分に減少しています。この減少は主に高水温化やエルニーニョ現象、黒潮の変動などの環境要因や、データ取得手法の違いによる影響などが考えられていますが、面積の減少に伴い二酸化炭素(CO2)吸収量も1990年の約52万t/CO2/年から2022年の約35万t/CO2/年と、約33%減少しています。2026年4月に環境省が発表した「2024年度の日本の温室効果ガス排出量及び吸収量」によれば、2024年度のブルーカーボンの吸収量は前年度とほぼ同量の約32万トンとなっており、2014年からの10年間ほぼ横ばいで推移していることが示されています。藻場の衰退は、海藻類の収穫ができなくなる上に稚魚の生息域がなくなることによる漁獲量の減少にもつながる重要な変化です。
海水温はプランクトンの動きも変える
海水温が高くなると、水は軽くなるので海面付近の水と深層の水は混ざりにくくなります。そうなると深層からの栄養分が海面に届かなくなり、魚のエサとなるプランクトンが減少し、魚の分布あるいは成長にも影響することになります。そして、海中の栄養分(窒素やリンといった栄養塩類)の移動は、それらを吸収して成長している海藻であるノリ(海苔)の収穫量にも影響を及ぼします。お寿司には不可欠な海苔ですが、近年はノリの不作や色落ち(色が薄くなる)現象を耳にすることが増えています。主原因は栄養塩類の不足と海水温の上昇です。海水温の上昇により、ノリの生育期間が短縮。赤潮が発生しやすくなっているとの問題の上に、海藻を食べる草食性の魚による食害も増加しています。かつては水温が低くなって魚の活動が鈍くなる時期にノリが成長していましたが、温暖化で魚が活動している時期が長くなり、ノリを食べてしまうのです。ノリ養殖は深刻な打撃を受けて生産量が減少しており、海苔製品の海外への輸出が増加する一方で、国内の需要を埋めるために韓国・中国からの輸入量も増加傾向にあります。
魚を食べ続けられる未来に向けて
温暖化は、海水温の上昇という直接的な影響だけでなく、海洋生態系の変化を引き起こします。植物プランクトンのブルームが変わることで動物プランクトンに影響が生じ、食物連鎖を通しての魚介類にも多大な影響を及ぼすことになります。海には十年から数十年単位の変動があるので、特定の魚種の漁獲量の変化がすべて温暖化の影響とは言い切れない場合があるとしても、少なくとも海水温の上昇の影響を受けない魚はいません。魚への温暖化の影響を正しく評価していくことが必要です。
10年後、20年後にも美味しいお寿司が食べたいと思われた方は、温暖化の影響を考えてみてください。温暖化が進むと、魚売り場に今まで見たこともないような魚が並んでいるかもしれせん。温暖化を抑制しなければ、好物の寿司ネタが食べられなくなってしまうかもしれません。
今後も魚が食べられるかどうかは、我々の行動にかかっているのです。
海の温暖化・魚への影響に関連する研究紹介
- 東北大学・海洋研究開発機構 変動海洋エコシステム高等研究所
2023年以降、三陸沖での水温上昇は世界で過去最大~黒潮続流の異常進路が示す未来~
https://wpi-aimec.jp/achievements/highlights_06.html - 東北大学・広島大学
日本周辺の魚類体重変動の主原因は餌をめぐる競争―75%は餌をめぐる競争、50%は環境悪化―
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2025/11/press20251104-01-fish.html
https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/93662 - 東北大学
地球温暖化が海洋プランクトンに及ぼす深刻な影響 過去100年間のデータベースの解析で判明
大学PR https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2024/11/press20241114-02-ocean.html - 東京大学大気海洋研究所
日本周辺の魚類の小型化 ――温暖化により顕著になった餌をめぐる競合――
https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2024/20240228.html
https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2024/files/20240228_summary.pdf - 高知大学 農林海洋科学部
温暖化で海はどう変わる?― 温帯性から熱帯性へ、海の変化を追う!
https://www.kochi-u.ac.jp/agrimar/japan/research/research2019/2019_2.html - 農林水産省による大学紹介
宮崎大学の循環型養殖サクラマス
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2112/univ01.html
参考サイト
- 寿司予報(運営:リージョナルフィッシュ株式会社)
https://regional.fish/ - PR:地球温暖化で未来の寿司が変わる!?海水温上昇による魚や寿司への影響を考える特集「寿司予報」をリージョナルフィッシュが公開
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000035.000060432.html - 漁食普及推進センター
地球温暖化による水産物・魚介類への影響
https://osakana.suisankai.or.jp/s-eco/8121 - 全国漁業協同組合連合会(以降JF全漁連)と東京大学大気海洋研究所
海洋環境変化対応プロジェクト
https://www.nippon-foundation.or.jp/what/projects/ocean-monitoring
