フィールドスタディ報告書の書き方: 6つのキーポイント
研究活動の場は、研究室や図書館、職場だけに留まりません。研究の一環として、データを収集するためには、フィールド(研究室や実験室のワークステーションのように普段、研究を行っている場所以外)に出ることが必要になることもあるでしょう。そして、フィールド調査の結果は、フィールドスタディ報告書としてまとめる必要も。この記事では、フィールドスタディ報告書に書き込むべき項目と、報告書を作成する際に気をつけるべきキーポイントについて考察します。
フィールドスタディ報告書とは?
フィールドスタディとは、研究テーマに即した場所を訪れ、直接観察、資料(データ)の収集・採取、あるいは聞き取り調査やアンケート調査を行って、学術的に客観的な成果を得るための調査技法です。調査対象を観察・分析し、問題意識を深め、新しい知見を得ることが目的です。そして、フィールドスタディ報告書とは、特定の現象、行動、理論に基づくプロセスの分析、フィールドでの観察結果を文書化するものです。観察・分析された理論をまとめ、特定の研究における課題の解決を目指します。
フィールドスタディ報告書の重要性
- フィールドスタディ報告書は、学術成果に留まらず、さまざまな運用および技術における調査結果を記録するものとしても重要な文書です。
- データの分析、理論的枠組みとの比較に使われる、観察対象または資料(標本)に関する詳しい情報を提供するものです。
- 標準化された手順(プロトコル)を作る際の解決策を導入するにあたり、課題を特定するのに役立ちます。
- 参考文献の管理に関する情報を把握したり、効果的で的確な解決策のための新たなプロセスを見つけ出したりするのに役立ちます。
フィールドスタディ報告書の書き方
フィールドスタディ報告書には、着想(アイデア)から解決策までを記すので、フィールドでの調査活動や観察を行う際は、計画的にメモ(フィールドノート)を作成し、観察結果を適切に文書化しておく必要があります。フィールドスタディ報告書を書くには、フィールドでの活動、観察の段階での的確な記録が不可欠です。
フィールドワークのやり方によって、観察あるいはインタビュー中に作成するメモも違ってきます。4つ例を挙げてみます。
1. 作業記録
- フィールドで実際に行った作業や調査を記録する。
- 調査対象に近接しつつも、全体が見通せる状況で作成する。
- 記録に基づいて報告書が作成できるような書き方で、簡潔に書く。
2. フィールドノート
- フィールドノートを作成しておけば、調査の完了後にこれを膨らませることで報告書の作成が可能となる。
- 詳細に記載し、最終的なフィールドスタディ報告書に記載する用語にできる限り近い表現にしておく。
3. 方法の記録
- 方法の記録には、フィールドスタディで採用した調査方法や、新たに提案された調査方法、および進捗をモニターする方法を書き残しておく。
- フィールドノートに添付して提出するか、別途提出する。方法記録は、フィールドスタディ報告書の最後に挿入する。
4. 議事録・日誌
- 研究者の生活のあらゆる状況を捉えることで、研究者の生活に関する洞察を示す。
- フィールドスタディに影響を与えるかもしれないバイアスを除外するのに役立つ。
フィールドスタディで記録しておく項目
メモ(フィールドノート)で記録しておくことを大別すると、観察者が設定し、行動し、話した内容の記録と、観察者が観察やインタビューに基づいて考えたこと、アイデア、質問、懸案事項などの記録の2つに分けられます。これを踏まえた記録しておくべき項目は以下になります。
1. 物理的な設定
調査を行う場所の特徴
2. 物体・資材
調査対象の行動に影響を与える物体・資材の有無、位置(席順)、配置
3. 使用言語
(調査に人間が関与する場合)調査参加者(対象者)が使用する言葉
4. 行動パターン
誰が、いつ、どのような状況で、どのような行動をとっているか
5. 参加者/対象者の身体的特徴
参加者/対象者の個人的な特徴
6. 身体の動き(しぐさ)
身体の姿勢や顔の表情など、それらの動きがコミュニケーション時に使用される言語に即しているか、あるいは矛盾するかの評価
データ収集法(サンプリング技法)
フィールドスタディにおいてデータを収集し、選定した調査対象の母集団からデータを抜き出すことをサンプリングと呼びます。研究課題への回答を導き出すために可能な限り豊富な情報を入手するためには、理想的なサンプリング技法の選定が不可欠です。
サンプリング技法の種類
アドリブサンプリング(Ad Libitumサンプリング)
観察者が研究に関連すると思われるすべてのものに注意を払い、面白いと思うもの、興味深いと思うものをすべて書き留める。対象者(物)や観察する時間を制限せずに行われる記録法。体系的なシステムには従わないサンプリング。
行動サンプリング
対象者グループ全体を観察し、どの個人が関与しているかを参照しつつ、関心対象とする特定の行動が生じるたびに記録を取る。
連続記録
行動が生じる都度、その頻度、持続時間、待機時間を連続的かつ体系的なパターンで記録する。
フォーカル(追跡)サンプリング
観察対象を指定し、一定の時間観察し、その間の行動を全て記録する(特定の個人/対象者を追跡する手法)。
瞬間サンプリング
あらかじめ設定しておいた観察時間を短い間隔(サンプル間隔)に分割し、その瞬間に対象の行動を観察、記録する。
1-0(ワンゼロ)サンプリング
瞬間サンプリングに似ているが、あらかじめ定めた瞬間に観察を行うのではなく、一定のサンプル間隔の間に関心対象の行動が生じた場合を1、生じなかった場合を0(ゼロ)として記録する。
スキャン(走査)サンプリング
複数の対象、グループ全体を一定間隔で見ながら、その瞬間の各個の行動を記録する。
フィールドスタディ報告書の構成とスタイル
フィールドスタディ報告書に標準のフォーマットはありませんが、以下の要素を踏まえて構成とスタイルを決めます。
1.研究課題の性質
2.分析を促す理論的展望
3.研究者による観察結果
4.教授/指導教官が設定した具体的なガイドライン
フィールドスタディ報告書の主要な構成は、次の6つです。
1. 序論
序論セクションでは、フィールド調査の裏付けとなる客観的で重要な理論または概念について説明します。大学や所属機関・団体の特徴、または観察調査を行っている状況の説明も必要です。実施した観察の種類、調査研究の焦点、観察対象、データ収集の方法など、さらに関連文献のレビューを含めることが大切です。
2. 活動の説明
フィールド調査で生じたことについて、読者に情報を提供することが重要です。そのため、フィールド調査中に生じたすべての出来事に関する詳細を記載します。
説明のセクションでは、次の5つの「WH」への回答を記します。
• 何を:フィールドスタディで見聞きしたこと
• どこで:調査環境の背景情報がどこで観察、報告されているか
• なぜ:
フィールドスタディを行う理由
特定の物事が生じている理由
特定の情報を含めたり除外したりした理由
• 誰が:
性別、年齢、民族、およびその他の関連する変数(変動要素)の観点から見たとき、誰が対象者となるか
• いつ:調査が行われる時期(行動が観察・記録された日または時間)
3. 分析と解釈
フィールドスタディを行うと、複数のことが観察される可能性は十分にあります。ただし、そのうちどの観察結果を取り上げて報告書に記録するかを決める必要があります。観察結果を示し、情報に基づいて出来事を解釈してことを読者に示します。このとき、理論的枠組みが判断に役立ちます。フィールドで観察した結果の分析と解釈は、序論で説明した理論よりも大きなボリュームを占めることになるでしょう。
以下に幾つかの質問を挙げておきますので、観察結果の分析を行う際に自問自答してみてください。
1. 観察結果は何を意味しているか
2. 観察結果が生じた理由は
3. 観察された事象や行動は、どの程度典型的または広範囲に及ぶものか
4. 観察結果に何らかの関連性やパターンは見られるか
5. 観察結果は何を示唆しているか
6. 観察結果は調査目的と一致しているか
7. 観察結果のメリットは何か
8. 記録された観察結果の長所と短所は何か
9. 調査から判明したことと関連文献の調査から分ったこととの間に何らかの関連はあるか
10. 観察結果は研究の理論のより大きな文脈に当てはまっているか
4. 結論と提言
フィールドスタディ報告書の結論は、報告書をまとめ、観察結果の重要性を強調するものでなければなりません。フィールドスタディに関連する内容に絞り、新しい情報は書き込まないようにします。また、同様の調査を行う場合に読者が考慮すべきと思われる事項について強調しておくことも大切です。さらに、想定外の問題が起きた場合にはそれについて説明し、調査の限界についても触れておきましょう。結論は、2から3パラグラフでまとめます。
5. 参考文献
参考文献セクションには、フィールドスタディ報告書を執筆する際に参照または引用した全ての参考文献情報を記載しておかなければなりません。参考文献の書き方(書式)は大学や所属機関ごとに異なるので、担当教授や指導教官に相談してみてください。書式を理解し、それに準じた書き方をしましょう。
6. 添付書類・付録
このセクションには、フィールドスタディの結果を説明するのに必須ではないけれど、分析を裏付けるような情報を記しておきます。結論の正当性を裏付け、関連するポイントを文脈に当てはめて説明するものです。こうした情報を付けておくことで、読者がフィールドスタディ報告書の全体を把握するのに役立つでしょう。
フィールドスタディ報告書を書く際に考慮すべき6つのキーポイント
フィールドスタディ報告書は、事例や症例に関する事実や観察結果に焦点をあてるものです。理論が実際のシナリオにどのように適用されるのか、読者が理解するのに役立つものであるべきです。そのためには、観察・照合した生データから最終的な結果を導き出すための状況と要因が網羅されている必要があります。
以下は、フィールドスタディ報告書を書く際に考慮すべきキーポイントです。
1.目的を定義する
- フィールドスタディ報告書の目的を明確に記載する。
- 調査の焦点を特定し、関連情報を提供する。
- 観察のための設定、データ収集の方法を定義する。
2. 理論的枠組みを構築する
- 理論的枠組みを構築することは、統計、ニュース、および関連文献に基づいて情報を収集し、理解を深めるために役立つ。
- 理論的枠組みは、分析と、有用な情報を入手するための比較基準を設けるために必要なデータを特定する際の指標となる。
3. 観察と分析結果を記録する
- 定義された作業範囲(Scope of work, SOW)に基づき、観察結果を記録する。
- 目的を達成するための詳細な計画を実行し、記録する。
4. 観察対象の証拠写真を含める
- 写真や動画などのデータを証拠として検証する。
- 証拠となるデータを含めることで、報告書とそこから導き出される結論の信頼性が向上する。
5. 総合的な評価と提言を記録する
- 集めた分析結果や観察結果に基づいて、フィールドスタディで観察されたあらゆる側面を文書化する。
- 観察結果を明確に説明し、調査を実施した際に直面した課題や限界について考察する。
6. 署名をもって観察結果の正当性を立証する
- 調査と文書化を終えたら、報告するデータの責任者を明確にしておく。
- 報告書の最後にデジタル署名を付与することで、フィールドスタディ報告書の調査結果の正当性を証明する。
フィールドスタディを行うことで、さまざまな情報を得ることができます。ネット社会となっても、フィールド(現地)に赴き、特定の調査対象についてその対象者(物)を観察し、聞き取り調査やアンケート調査を行い、資料の採取・データの収集を行い、客観的な成果を得ることのできるフィールドスタディの重要性は変わりません。フィールドスタディ報告書の書き方を学び、正確な報告書を作成してください。