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ペインテッドマウス事件(サマーリン事件)

科学における不正行為としては、たとえば文部科学省は、存在しないデータや研究結果などを作成する「捏造」、研究資料・機器・過程を変更する操作を行い、データ、研究活動によって得られた結果などを加工する「改竄」、ほかの研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究結果などをその研究者の了解もしくは適切な表示なく流用する「盗用」を主なものとしてあげています。そのほか論文の成立に直接貢献していないのに共同執筆者として名を連ねる「ギフト・オーサーシップ」などがあります。
今回はそうした不正行為でも、実験のデータの捏造で一躍有名になったサマーリン事件についてお話したいと思います。

1973年、ニューヨークのスローン・ケタリング記念がん研究所で勤務するウィリアム・T・サマーリン(William T. Summerlin)博士は、記者相手のセミナーや研究所の理事会で、人間の角膜をウサギの目に移植することに成功したと発表しました。
昨今では小規模な皮膚移植などはあちこちの病院で行われており、ニュースにもなりませんが、1970年代当時では画期的なことで、医療技術の大躍進として注目されました。しかし多くの研究者がこの実験の追試に失敗していました。サマーリンの指導教官で有名な免疫学者のロバート・A・グッド(Robert A. Good)は、当初、サマーリンの業績を強調していましたが、次第に、サマーリンの部下でさえ追試に失敗している事実を公表するべきではないかと考えるようになりました。
1974年、サマーリンは、色の違うネズミ間での皮膚移植は成功したということを、実際に2匹のネズミをグッドに見せて説得しました。ところが、黒いネズミの皮膚が移植されたように見えた白いネズミは、その体の一部を黒色のマーカーペンで塗られたものであることを研究室の助手が発見しました。グッドはその際は気づきませんでしたが、事件の発覚後サマーリンはすぐに研究の現場から外されました。
スローン・ケタリング記念がん研究所はこの不正事件の原因を、サマーリンの「情緒的障害」だと説明しました。同研究所の調査委員会は、グッドにも責任があるとしながらも、多忙などを理由に弁護しました。サマーリンは、グッドから研究成果を早く出すことを強くいわれていて、プレッシャーを感じていた、と釈明しました。
その後、科学実験におけるデータの捏造の象徴として、「サマーリンの塗られたネズミ(Summerlin’s painted mouse)」という言葉が生まれるに至ります。
科学による不正行為は、科学界を揺るがす事件となりえるだけでなく、その内容によっては、一般報道機関を通じて世界中の人々の期待と絶望を招く可能性があります。そのため、データの捏造などの不正が露見すると、研究者は学会での信用を失い研究者としての活躍の場を奪われるだけでなく、社会的にも信用を失い、人生のやり直しもままなくなります。
さらに、その研究者が所属している研究機関や論文を発表したジャーナルの編集部も、管理すべき立場としてその責任を追及されることがあります。
研究不正には「小さな不正」などありません。「大丈夫かな?」と思ったら、必ず所属機関やジャーナルの規定を確認するなど、細心の注意を払いたいものです。

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