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査読レポートを書いているのは誰だ?

査読は科学研究の正確性や質を確保するプロセスです。優れた学術雑誌(ジャーナル)の多くには査読が付いており、投稿された論文が出版にふさわしいかどうかを判断しています。査読は、当該分野の知識を豊富に持つと学術界に認識されている研究者によって行われるべきです。査読者は投稿論文の正確性、明瞭さ、完成度をチェックし、その結果を査読レポートにまとめ、編集部に提出します。これは論文出版に向けた重要なステップです。査読レポートは、学術ジャーナル、論文執筆者の双方に対して偏りがないものでなければなりません。著者は、編集部から査読レポートを受け取り、指摘された箇所・内容への修正を行います。査読レポートに書かれた修正依頼に応じて原稿を書き直すことで、ジャーナルへの掲載が可能となります。最近では、この査読レポートを(著者以外も見られるように)公開する試みが行われており、話題となっています。

投稿論文が出版に値するかどうかを評価する方法として広く定着している査読ですが、そのプロセスの問題も指摘されています。そこにさらなる問題提起として、査読レポートを若手研究者が書いているという研究報告が出てきたのです。

若手研究員が査読レポートの執筆を?

2019年4月、ライフサイエンス分野のプレプリントリポジトリであるbioRxivに「Co-reviewing and ghostwriting by early career researchers in the peer review of manuscripts」と題する研究報告が掲載されました。これは、名前の出ない若手研究者が査読レポートの執筆に関わっている実態を、恐らくは初めて明らかにした報告です。この研究では欧米とアジアの約500名の若手研究者に、査読レポートの作成に関わった経験の有無を問うと共に、そうした行為をどう考えるか意見を集めました。ここで「若手研究者」とは、研究グループのリーダーを務めたことがない研究者で、大学院生(PhD)やポスドク、研究助手、助教などが含まれます。調査対象者は各国にまたがっていますが、74%が北米の研究機関の研究者で、回答が多かった分野はライフサイエンスの65%となっていました。

この調査で、回答者の約半分がゴーストライターの経験があり、その中の約80%はそれが倫理に反すると答えています。にもかかわらず、回答者の73%は、少なくとも一回は査読レポートを共同執筆したことがあるとしており、複数回関与したことがあるとの答えも少なくありませんでした。これは、若手研究者が査読レポートの執筆に関わることが常態化していることを示唆しています。ポスドクの79%、大学院生の57%はPIではないにもかかわらず査読レポートへの提案もしくは執筆に関わったことがあると述べています。しかも、回答者の95%は査読の経験をすることは有益であると考えており、73%はPIが自分の傘下にいる若手を査読レポートの執筆に関与させることは倫理的に問題がないと考えていることが示されています。

査読レポート執筆における倫理問題

本来、学術雑誌(ジャーナル)から査読を依頼されて、その結果を査読レポートとしてまとめるのは研究責任者(PI)であり、若手研究者が、査読レポートのゴーストライターあるいは共同執筆者となっても名前は出ません。調査でも回答者の46%は、査読レポートに自分の名前が掲載されないことは承知していたと報告されています。回答者の82%が、自分の名前が記載されたらキャリア形成において大変すばらしいと思ってはいても、実現は難しいのが現状です。自分が査読レポートの作成に関わったことを自分の成果にはできないのです。

とはいえ、若手研究者は自分の研究室のPIからのゴーストライターの依頼を断りづらいことでしょう。まして、査読に関わる経験が有意義だと考えていれば、なおさらです。しかし、実際は査読レポートに名前を載せることはできず、査読者として認知されることにもつながらないのです。当然、学術ジャーナルの編集部は、査読報告書が見識のあるPIによって書かれたものと信じているわけですから、倫理的な問題となります。実際の執筆者の知識・力量が不十分で、査読レポートに示された結論が適切でない場合は最悪です。論文執筆者に対する公正性を欠くだけでなく、出版される論文の質に影響を与える恐れすらあります。こうなると、研究不正のひとつと言える重大な倫理問題です。

査読レポート作成に関わる他の問題

査読レポートの執筆者が関係者の名前を表記しないだけでなく、学術ジャーナルが査読報告書の共同執筆者の有無の明示を求めていないことも問題だと指摘されています。このことが、査読レポートの執筆に関与した研究者の名前が提示されない傾向を助長している可能性があるというのです。

査読レポートの作成に関与したことがある若手研究者が、自分の名前を掲載しないPIにその理由を問うことも稀なようです。回答者の73%が、査読レポート作成に貢献をしたにも関わらず共同査読者として自分の名前が掲載されないことにつきPIと話しをしていませんでした。PIと話したと答えた27%は、概ね、ジャーナルの査読方針に準じたためといった理由を説明されたとしています。PIの回答には次のようなものがありました。

  • 忘れた
  • 急いでいたので、学術ジャーナルの通達を確認していなかった
  • (若手研究者の名前を掲載しないのは)普通のことだ
  • これも君の仕事だ
  • 査読報告の書き方の勉強だ

一方、論文執筆者の大部分は、学術ジャーナルから査読を依頼された人(PI)が査読レポートを書くべきだと考えています。こうした論文執筆者の認識と査読にPI以外が関与するのが常態化している実態には大きなギャップがあります。

問題解決の方向は?

bioRxivnに掲載された研究報告は注目を集め、Science誌に定期掲載されるBery Lieff Bendel女史のコラムやNature誌の記事でも紹介されています。この両誌の論調では、問題解決の方向性としてbioRxivn論文の提案に共感を示しています。

学術ジャーナルは通常、査読過程を内密に行うため、査読を依頼する研究者にも守秘義務を課しています。しかし、査読を受託したPIによる若手研究者を含む別の研究者への作成依頼が常態化しているのを現実として受け止めるべきでしょう。そして、査読サポート作成に関する手続きにおいては、執筆に関与した研究者の名前を明記するように仕組みを変えていく必要があります。また、近年関心が高まっている査読レポートの公表に踏み切ることも、問題の解決に向けた動きの側面支援になるでしょう。

一方、若手研究者とPIの間では、査読レポートに誰の名前を記して提出するかを事前に話し合う習慣をひろげていくことも必要です。bioRxivnの研究報告では、査読レポートも研究論文などの他の学術著作物と同じように取り扱うべきだと提案しています。この提案を受け入れ、すべての執筆者および関与した研究者の名前が査読レポートにも掲載されるのであれば、査読レポートのオーサーシップに関する問題を解決させ、かつ査読プロセスに対する信頼の向上にも役立つのではないでしょうか。


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