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科学を最も蝕んでいるのは「科学的詐欺」ではない!?

国内外で研究不正事件が発覚し続けています。「研究不正(研究活動における不正行為)」にもいろいろあるのですが、よく問題になるのは、存在しないデータをでっち上げる「捏造(Fabrication)」、データを都合よくねじ曲げる「改ざん(Falsification)」、他者のアイディアや文章を不適切に使用する「盗用(Plagiarism)」の3種類です。これらはその頭文字から「FFP」と呼ばれます。「科学的詐欺(scientific fraud)」と呼ばれることもあります。
しかし、研究者たちがFFP=科学的詐欺よりももっと深刻だと考えているのは、むしろ「 お粗末な科学 (Sloppy science)」や「疑わしい研究行為(Questionable research practices: QRPs)」などと呼ばれるものであることが指摘されました。
オランダにあるアムステルダム自由大学の疫学者マックス・エム・ブターらは、「科学知識の妥当性を脅かすとともに、科学者間の信頼に損害を与え、もしメディアで暴露されれば、科学への人々の信頼にも損害を与えるかもしれない」ものとして、「お粗末な科学」やQRPに着目して、研究者たちの意識調査を実施しました。
ブターらの調査対象になったのは、2015年にリオデジャネイロで開催された「第4回国際研究公正会議(the 4th World conference on Research Integrity)」に参加した研究者1353人です。回答者らは、60項目もの研究不正行為それぞれについて、「頻度」、「真実性への影響」、「信頼性への影響」、「予防可能性」という4つの基準で、5段階でのランク付けをするよう求められました。その60項目には、「データを捏造すること」といったFFP=科学的詐欺から「品質管理の基本原則を無視すること」といった「お粗末な科学」まで、かなり幅広い研究不正行為が含まれています。
集計の結果、「真実性への影響」や「信頼性への影響」で、「データを捏造すること(=捏造)」が1位になったことは驚くべきことではありません。しかし、「頻度」では、それはトップ5にも入っていません。「頻度」の1位は「自分自身の知見や確信を強めるために選択的に引用をすること」です。「若い共同研究者への監督や指導が不十分であること」がそれに続きます。
ブターらは、「真実性への影響」、「信頼性への影響」、「予防可能性」のそれぞれを、「頻度」と掛け合わせた値(積)を算出することによって、どの研究不正行為がどのくらい科学に深刻な影響を及ぼすのかを浮き彫りにしました。
その結果、「真実性への影響」と「頻度」を掛け合わせた値では、「若い共同研究者への監督や指導が不十分であること」が1位になりました。「研究の欠点や限界の報告が不十分であること」がそれに続きます。また「信頼性への影響」と「頻度」を掛け合わせた値では、「参照を付けることなく他人の公表されたアイディアや文章を使うこと(=盗用)」が1位でした。2位は同じく「研究の欠点や限界の報告が不十分であること」でした。
ブターらは『研究公正と査読(Research Integrity and Peer Review)』で公表された論文において、「われわれのランキングの結果では、選択的な報告、選択的な引用、品質管理や指導における欠陥が、現在の研究における大きな弊害になっていることを示唆しているようだ」と結論づけています。

(調査結果の)全体像は大規模な詐欺についての懸念を表わしてはいない。多くの科学者が手抜きをして、お粗末な科学に携わっている可能性があるという深刻な懸念を表わしている。おそらくは、影響力の大きい雑誌に掲載されやすく、引用されやすい、より肯定的で、より目を見張るような結果を得たいという願望があるのだ。

そして「われわれの研究で高くランクされた不正行為を積極的に阻止する介入を促進すること」を推奨します。ようするにFFP=科学的詐欺だけでなく、「お粗末な科学」にも適切に対応する必要があるということです。
生物医学のニュースサイト『STAT』(引用記事の著者は、学術情報サイト『リトラクション・ウォッチ』の運営者でもあるアイヴァン・オランスキーとアダム・マーカス)はこの調査結果を受けて、研究不正と「お粗末な科学」の原因はどちらも同じで、それは「できれば影響力の大きいジャーナル(学術雑誌)で論文を公表せねばならない義務」である、と主張しています。大学の人事委員会などが論文の中身ではなく論文の数だけを評価し、そのため研究者たちが「発表せよ、さもなくば消えよ(publish or perish)」と表現されることさえある状況に置かれていることを、同誌は批判しています。
根本的な改革が望まれます。おそらく日本でも。


ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

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