論文英語の組み立て-自動詞と他動詞

I. 概要

一般的な言語学現象として、 動詞 は、表す動作や状態において異なった立場にある複数の参加者が存在するかどうかによって二種類に分かれます[1] 。動作・状態の主体である参加者のみ存在する場合に使われる動詞は「自動詞」(intransitive verb)と言い、対象(客体)も存在する場合は「他動詞」(transitive verb)と言います[2] 。他動詞はさらに「単一他動詞」(monotransitive verb)と「二重他動詞」(ditransitive verb)という二種類に区別されます [3]。統語論的には、示される動作・状態における参加者を表す項が、前者では2つ(主語と1つの目的語)、後者では3つ(主語と2つの目的語)あります。英語では、単一他動詞は1つの直接目的語をとり、二重他動詞は直接目的語に加えて間接目的語、あるいは間接目的語と同様の役割を果たす前置詞の目的語をとります[4] 。(ここでは、間接目的語と同様に機能する前置詞句の目的語を「意味的間接目的語」と呼ぶことにします。)

例文を見てみましょう。

[正] (1) The cat is sleeping. (自動詞)
[正] (2) I ate a big apple. (単一他動詞)
[正] (3) My daughter gave the dog a kiss. (二重他動詞)
[正] (4) I put the book into my backpack. (二重他動詞)

(1)では、動詞「is sleeping」の項は主語である「cat」のみです。(2)の動詞「ate」は主語と直接目的語をとり、それぞれ「I」と「apple」になっています。(3)と(4)には、主語(「daughter」、「I」)と直接目的語(「kiss」、「book」)の他に、間接目的語(「dog」)と意味的間接目的語(「backpack」)もあります。

II. 誤用例

日本人学者が書いた学術論文では、自動詞と他動詞が混同されている誤用を頻繁に目にします。ここで典型的な誤用を示します。

以下の誤用例では本来他動詞になるべき動詞が誤って自動詞として用いられています。

[誤] (5) In the next section, we discuss about the first case.
[正] (5’) In the next section, we discuss the first case.
[誤] (6) We now explain about the method used in this study.
[正] (6’) We now explain the method used in this study.
[誤] (7) However, our conclusion contradicts with that of Jones.
[正] (7’) However, our conclusion contradicts that of Jones.
[誤] (8) The upper layer gradually approaches to the lower layer.
[正] (8’) The upper layer gradually approaches the lower layer.

次に、逆の誤りを見てみましょう。以下の誤用例では本来自動詞になるべき動詞が誤って他動詞になっています。

[誤] (9) The energy surface changes its shape.
[正] (9’) The shape of the energy surface changes.
[正] (9’’) The energy surface changes shape.[5]
[誤] (10) We compensate this underestimate by increasing the group size.
[正] (10’) We compensate for this underestimate by increasing the group size.
[誤] (11) Our results lead a deeper understanding.
[正] (11’) Our results lead to a deeper understanding.
[誤] (12) However, these modifications do not account the discrepancy.
[正] (12’) However, these modifications do not account for the discrepancy.


【脚注】
1. この区別が明確でない場合もあり、一般に「完全に自動的」と「完全に他動的」という分け方が不十分だということが指摘されています。(参照例:Paul J. Hopper and Sandra A. Thompson, Transitivity in Grammar and Discourse, Language 56, 251-299 (1980))確かに、この曖昧さは英語を母語としない人を悩ますものであり、誤りの原因となります。
2. 言語学では、動作・状態の主体と客体を意味する用語は著者によってまちまちですが、動作・状態の種類により主体を「動作主」(agent)または「経験者」(experiencer)、そして、直接客体を「被動者」(patient)または「主題」(theme)、間接客体を「受取手」(recipient)と呼ぶのが最も標準的かもしれません。
3. 単一他動詞と二重他動詞はそれぞれ「単他動詞」と「複他動詞」とも呼ばれます。
4. 間接目的語をとる他動詞のみが「二重他動詞」だと主張する言語学者もいますが、ここではこの文法的な基準ではなく、より意味論的な基準を用いて上述のように他動詞の二種類を区別することにします。
5. ここで「changes shape」は、意味的には動詞+目的語ではなく、合わさって動詞として機能する一つの意味的単位になっています。


glenn

グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。

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