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米国大学が臨床試験の公表で法令違反

研究不正は研究者でなくとも見逃せない問題です。とくに臨床試験に関する不正は、患者の健康に直接的な影響を及ぼすので注目されますが、医薬品や治療法の評価にも大きく影響します。

臨床試験の結果の公表については、多くの国で議論されていますが、米国では臨床試験の結果は1年以内に公開しなければならないと法で定められています。同様に、欧州委員会もヨーロッパで行われる医薬品開発に関する臨床試験は、終了後12ヶ月以内にEU Clinical Trials Register(EUCTR)に結果を報告するよう義務付けています。臨床試験を実施する研究者は倫理的責任を有するにも関らず、臨床試験の結果が否定的な場合などに結果を公表しない傾向があることに対処するためですが、実際には多くの臨床試験の結果が報告されていないことが指摘されています。そして、今年3月に発表された報告書でも、米国の大学が支援した臨床試験の結果が、政府の定める公表期限を守っていないことが明らかになりました。

法令整備―FDAによる臨床試験の登録義務付けとHHSによる臨床試験情報開示規則

米国食品医薬品局(FDA)は、臨床試験の登録、有害事象や副作用情報、試験結果の登録を促すための法改正(FDAAA Section 801)を行い、臨床試験の登録を義務付けました。この法令に基づき、さらに詳細な規則を米国保健福祉省(HHS)が作成し、2016年9月16日には臨床試験結果の公表範囲を拡大する規則(42CFR Part11)を発行。この新規則は、米国国立衛生研究所(NIH)の運営する臨床試験情報のレジストリClinicalTrials.govに公開する臨床試験情報の公開範囲を拡大するもので、原則として臨床試験の完了から1年以内に結果情報を提供しなければならないとしています。これらの新規則は2017年1月18日から施行され、FDAへの事前登録や結果報告義務を順守しない場合には、最大1万USドルの罰金や研究資金の差し止めなどの罰則が課せられることも明記されています。これにより、以前は任意であった臨床試験の情報登録が義務付けられた上、医薬品の販売承認が得られなかったものも含め、あらゆる結果を登録することが求められることとなりました。公表義務を免れるのは、安全性に関するフェーズ1の臨床試験(少人数の健常者ボランティアを対象とする初期の試験)などで、ごく一部に限られています。

法令違反―公表されなかった試験結果

2019年3月、「米国大学における臨床試験の透明性(原題:Clinical trial transparency at US universities)」と題して臨床試験結果の状況に関する問題を報告したのは、研究の透明性の促進を図っているTranspariMEDUniversities Allied for Essential Medicines(UAEM)の2組織です。この研究結果は、Nature誌にも紹介されました。

調査対象になったのは、米国の臨床試験の大半を行っている40大学が、2017年1月以降に実施した臨床試験450件です。このうち、25校が試験終了から12ヶ月以内にClinicalTrial.govに結果を掲載する義務を怠っていたこと、140件(31%)の臨床試験の結果が未掲載であったことが判明しました。大学により差が見られましたが、法令を順守して期限内に報告していたのは15大学のみ。法令違反の臨床試験のうち約5割を占めるのは、5つの大学によるものです。未報告件数が最多だったのはカリフォルニア大学サンフランシスコ校の17件(同大学が実施した臨床試験全体の37%が未報告との結果)、期限内に報告した割合が最も低かった(2019年2月28日時点)のはコロンビア大学の17%でした。大学側は自らの立場を擁護するための声明を発表し、カリフォルニア大学サンフランシスコ校は、10件は臨床試験の完了が遅れたためであり、残りはデータ解析の遅れや試験完了期日が変更されたことによると述べています。コロンビア大学も、15件の試験が遅延し、うち完了したのは8件だけだったと釈明しています。

世界でも進む情報公開

臨床試験の事前登録や情報の公開については世界各国で制度の導入が進められています。2005年には世界保健機構(WHO)は国際臨床試験登録プラットフォームInternational Clinical Trial Registry Platform(ICTRP)を設置・公開しました。2015年4月にはWHO Statement on Public Disclosure of Clinical Trial Resultsを発表して、臨床試験の公開の方法、期限などに関する具体的な勧告を出していますが、欧米の登録機関はWHOの規定よりも多くの項目を必須とするなど、臨床試験結果の公開を推進する動きが高まってきています。登録情報の公開、情報検索システムの整備が進むにつれ、公開される情報量・範囲が拡大し、結果として臨床試験の透明性の確保が図られるようになってきているのです。

研究への影響

期限内に臨床試験結果を公開することは、研究にとってもメリットがあります。1年を期限としているのは、試験結果を迅速に共有するためです。学術ジャーナルに論文が掲載されるのを待たずに結果を公開することで、医学研究の進歩を早めることができるでしょう。期限が短いことは、研究が「無駄になる」危険性を抑えることにもつながります。公開することで臨床試験の目的を明確にし、結果と比較することにより研究不正の抑制にも役立ちます。また、試験結果の「差し替え」や隠蔽の抑止にもなります。

このように臨床試験の結果を公表することは有益です。しかし、試験結果が適切に公表されない問題は米国以外でも指摘されています。EU Clinical Trials Register(EUCTR) が2018年9月に発表した調査では、EUで実施された臨床試験のうち、約50%が12ヶ月以内の臨床試験結果の公表を定めているガイドラインを順守していないことが示されていました。大学においては、1年以内に試験結果を公表しなかったケースが89%にも達していました。

求められるさらなる対策

確かに、ライフサイエンスに関する情報を発信するSTATが2015年に発表した調査によれば、2008年から2015年に実施された臨床試験のうち完了後1年以内に結果を発表しなかった米国の学術機関は90%でした。これに比較すれば、2017年の追跡調査で過去の臨床試験の512件の結果が公表されていたことは改善です。それでも、777件は依然として公表されないままであることを踏まえれば、更なる対策の強化が必要と言えるでしょう。新しい法令・規則が全面的に施行された2017年1月以降、研究者の意識に変化も見られ、臨床試験の結果発表が改善傾向にあるものの、登録されるべきデータが不完全だと、試験対象とされた医薬品や医療機器などの有効性を的確に判断することが難しくなり、業界全体にも不利益をもたらすとの指摘もあります。

大学を含む研究機関の多くは、臨床試験を事前登録し、結果を公表する取り組みを進めており、法的根拠も整備されてきていますが、まだ十分で無いことは明らかです。さらに厳格な法令を制定し、大学に法令順守をさせていくことが必要ではないでしょうか。

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