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政府閉鎖のダメージから米国の研究機関は立ち直れるのか

2018年末に始まった米国政府の閉鎖は史上最長となる35日間を記録したのち、翌年1月25日にようやく解除されました。ことの発端はメキシコとの国境に壁を建設する費用をめぐる与野党の対立で、トランプ大統領が期限付きの暫定予算案に署名したことで一部の政府機関は再開されました。その後、予算処置の期限となっていた2月15日を目前に控えた2月11日夜に与野党が予算案に合意したことで、政府機関の再閉鎖は回避されることとなりました。しかし、予算案に不満なトランプ大統領が、2月15日に連邦議会の承認なしに軍事予算を壁建設に充てるための国家非常事態宣言を発令したため、野党民主党は権力の甚だしい乱用だとして激しく反発。19日には民主党の司法長官のいる16の州政府が同宣言に対し集団提訴を起こしたほか、26日には米下院、3月14日には上院で大統領による非常事態宣言を無効とする決議案が可決されるなど、政治の混乱は続いています。

かたや、業務が止まっていた公的研究機関などは、 政府閉鎖 の間に行うはずだった35日間分の業務を取り返す必要があります。国立科学財団(NSF)や航空宇宙局(NASA)、森林局(Forest Service)など多くの重要な科学機関はすべて閉鎖されていたのです。この失われた35日間は、科学機関にとってどのような影響を及ぼしたのでしょうか。

政府閉鎖の経済的影響

2018年12月22日に始まった一部閉鎖により、政府職員の一部は一時解雇され、要職についている職員は無給での勤務を余儀なくされました。35日間の閉鎖による経済的な代償は甚大で、議会予算局(CBO)は、アメリカ経済に30億ドル(約3300億円)もの損失を及ぼしたと試算しています。これには、スミソニアン協会(Smithsonian Institution)の来館者からの減収が500万ドルにも達したことも含まれているでしょう。CBOは、経済的損失はいずれ回復すると指摘していますが、公的研究機関および学術界に及んだ損失も回復できるのでしょうか。

後れを取り戻さざるを得ない研究機関

研究機関は政府閉鎖によって生じた後れを取り戻すほかありません。とはいえ、完全に損失を回復することはできないかもしれません。研究資金が支給されずに収入が途絶えたり、研究の進行に支障をきたしたりした研究者もいます。NSFは、政府閉鎖の間に滞っていた研究助成金の手配や、2000件もの助成金申請書の審査を行わなければなりません。NASAの科学局長であるトーマス・ザブーケン(Thomas Zurbuchen)によれば、政府閉鎖後少なくとも60日は、科学機関の主要な研究助成プログラムへの新規申請の検討が遅れるだろうとのことです。

アメリカ海洋大気庁(NOAA)の気候プログラムオフィスは、政府閉鎖が日常作業、会議、会合の進捗を妨げ、プロジェクトを中断させたと述べています。彼らは一時的にウェブポータルClimate.govによる情報提供を中断しなければなりませんでした。このポータルは、降雨や森林火災、食料生産への影響など気候や天候に関する有益な情報源として活用されています。このウェブポータルや、アメリカ地質調査所 (USGS)が無料提供する地質、土壌、水循環などに関するデータのような科学的情報の提供が中断することは、国民生活の安全にも影響する事態です。

さらに、政府閉鎖の影響はアメリカ国内の研究機関・研究者にとどまりません。アメリカの研究者たちが取り戻さなければならない遅れが国外の研究者たちにも波及し、研究全体に遅れが生じると報告されています。NOAA FisheriesのAdvanced Sampling Technologyプログラムのディレクターであるウィリアム・マイケルズ(William Michaels)は、そんなアメリカ人研究者のひとりです。ノルウェーの研究機関と共同で海洋資源の保護のための国際的な取り組みを3ヶ月間行う予定でしたが、政府閉鎖により時期を早めてアメリカに帰国せざるを得なくなりました。

研究機関への長期的な影響は

政府機能が再開した今となっても、多くの研究機関は、長期間に及んだ政府閉鎖の財政的な影響は長期にわたると考えています。研究資金が確保できなかった若手研究者もいれば、配給遅れの不安から院生の受け入れを躊躇した大学職員、研究員の採用を見送った研究機関など、間接的な影響も計り知れません。

アメリカ議会で与野党間での対立が続き、2020年の大統領選に向けて加速する可能性のある状況下では、また政府閉鎖が起こらないとは言えません。多くの研究機関は、政府閉鎖による影響を軽減すべく重要な業務の優先付けを急いでいます。一国の政府の予算編成が世界の研究に影響を及ぼす時代。今回の政府閉鎖による影響は予想以上に深いダメージを残したかもしれません。研究者たちは良い状況が続くことを期待しながらも、最悪の場合に備えておかなければならないのです。

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