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アメリカの政府閉鎖が学術界に与える深刻な影響

2016年のアメリカ大統領選でトランプ大統領が誕生して以来、学術界にはさまざまな変化がありました。政権の主張に沿わない意見を出す環境保護局や農務省などへのかん口令や、予算の削減、業界団体を参加させるための諮問委員会の再編成などです。また、トランプ大統領は、パリ協定からの離脱やアメリカ国立科学財団(National Science Foundation:NSF)の東京をはじめとする海外事務所の閉鎖も表明し、世界に波紋を広げてきました。

そして、3年目を迎えたトランプ政権は学術界にさらなる厳しいニュースをもたらしました。政府機関の閉鎖です。メキシコ国境との壁の建設費をめぐり、2018年12月22日に始まったトランプ政権下での政府機関の一部封鎖は、クリントン政権下で歴代最長を記録した21日間を大きく超え、35日間に及びました。議会と合意に至り、2019年1月25日に一部解除されましたが、予定していた助成金をいまだ全額受け取っていない研究機関もあり、先行きに不安が募ります。

政府閉鎖の影響範囲

トランプ大統領が不法移民対策としての壁建設費約56億ドルを予算案に盛り込む要求をしたことをきっかけとする暫定予算の一部失効により、政府機関が一部閉鎖される事態となったわけですが、この閉鎖により自宅待機や無給での勤務を強いられる政府職員の数は80万人にのぼりました。官公庁や博物館は閉鎖され、首都であるワシントンDCは閑散とし、市民の生活や経済に大きなダメージを与えました。

アメリカ国内の公的研究機関も例外ではありませんでした。国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)、疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)、エネルギー省(the departments of energy)、国防総省(the departments of defense)は業務を継続していましたが、航空宇宙局(National Aeronautics and Space Administration:NASA)や海洋大気庁(National Oceanic and Atmospheric Administration : NOAA)、標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology : NIST)、地質調査所(U.S. Geological Survey)、農業研究事業団(Agricultural Research Service : ARS)、魚類野生生物局(Fish and Wildlife Service : FWS)、森林局(Forest Service : USFS)などはすべて閉鎖されました。

研究が継続できない政府機関研究者

こうした機関が閉鎖されたことは、研究者にも大きなダメージを与えました。一時解雇されてしまった政府機関の研究者たちは、実験内容の確認や観察、データの収集、検証、結果の共有といった一連の研究活動を継続できなくなったのです。アメリカ地球物理学連合(American Geophysical Union : AGU)のエグゼクティブディレクターであるクリスチャン・マッケンティー(Christine McEntee)は、この閉鎖によって環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA)が期限内に化学物質評価を終えられなかったり、NOAAが商業的な水産物の追跡や絶滅危惧種の保護などを実施できなくなったりするなど、重要なプロジェクトに影響を与えたとコメントしました。

自然史博物館で古脊椎動物学の学芸員を務めるケイ・ベアレンズメイヤー(Kay Behrensmeyer)は、2年がかりのケニアへの研究旅行の中止を余儀なくされました。他にも、気象学会(American Meteorological Society : AMS)がフェニックスで開催した年次総会(1月6日)や天文学会(American Astronomical Society : AAS)がシアトルで開催した「天文学のスーパーボウル」とよばれる世界最大規模の総会(1月6日~10日)などの学会や会合に何百人という政府機関の研究者が参加できない事態となったのです。

なかでも研究者に最も深刻なダメージを与えたのは、国立科学財団(National Science Foundation:NSF)と国立食品・農業研究所(National Institute of Food and Agriculture : NIFA)の閉鎖でしょう。助成金申請の審査が滞り、研究者たちは先の見えない不安の中でただ待つしかありません。生化学・分子生物学会(American Society for Biochemistry and Molecular Biology : ASBMB)の広報ディレクターであるベンジャミン・コーブ(Benjamin Corb)は、政府閉鎖は、合理的な理由もなく研究機関を苦境に陥れるようなものだと意見しています。国際的な非営利団体「憂慮する科学者同盟」(Union of Concerned Scientists)のトップであるケン・キンメル(Ken Kimmell)も、「政府閉鎖によって研究者が研究の機会を失うとすれば、研究機関の科学に基づく研究に多大な影響を与え、結果として研究費として費やされる税金が無駄になりかねない事態となるだろう」と述べています。

揺らぐアメリカ政府への信頼

1月26日以降、今回の政府閉鎖は一部解除されたわけですが、議会で新たな壁の建設費について合意ができなければ再び閉鎖が起きる可能性もあると言われています。研究活動を停滞させる政府閉鎖の余波は、数か月もしくは数年にわたり残っていくでしょう。ひとたび政府閉鎖が起きれば、研究者はただその解除を待つしかありません。研究助成金の提供者として、また、共同研究をしていくパートナーとしてのアメリカ政府への信頼が揺らぎはじめています。

 

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