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日米和親条約の誤訳が歴史を動かした?

よくある話ですが……。アメリカに初めて行ったとき、税関で“alien”と書かれた列に並ばされて、「私は本当にこの列にいていいのだろうか?」とたいへん不安に思った経験があります。英語もあまり話せず、しかも生まれて初めての海外旅行でした。その後、税関の“alien (外国人/宇宙人)”の冗談話を何度も聞かされ、困惑したのは私だけではなかったのだと知って、少しホッとしたのを覚えています。
それから数年後、日本へ入国するための税関に向かって歩いていたら、同じ飛行機に乗っていたらしい見知らぬ白人女性から、「私は宇宙人です。ここでいいですか?」と日本語で聞かれ、思わず絶句してしまいました。手に持っている電子辞書を見て、ようやくその人が“変なおばさん”なのではなく、アメリカの税関で当たり前に使われるalienという単語を、電子辞書で日本語に直訳したための誤訳なのだと気づき、「Yes! Yes! Yes!」と連呼したのを覚えています。
誤訳には、このように笑えるものが山ほどあります。とくに日本人がよくする誤訳を、アメリカでは“Japanglish”と呼び、日本に興味のない人の間でもかなりの人気(?)を集めており、インターネットへの投稿が後を絶ちません。最初は「バカにされている!」といらだっていた私ですが、今では自分のミスを笑える寛大さを育成するよい機会だと思っております(苦笑)。
ところが、誤訳には論文の真否を問うことになりかねない重大なものや、歴史を動かしかねない運命的なものも存在します。
笑えない誤訳として有名なのは、やはり日米和親条約での“誤訳”でしょう。1854年に結ばれたこの条約は、最初にオランダ語で書かれたものが第一草案として和訳され、それが漢文に翻訳され、その漢文を元に和訳の最終版が作成されるという、翻訳者泣かせの過程を経て作成されました。しかし、和訳の第一草案から漢文に翻訳される間に、オランダ語の原稿にあった「18ヵ月後、どちらかが必要と見なせば領事館を設置できる」といった内容の文面が、「やむない事情が発生し、日米両国が必要と認めた際、領事館を設置する」という内容に“誤訳”されたため、江戸幕府は「アメリカは領事館を開設できない」という認識で条約に署名。それに対してアメリカ政府は「1年半後には必ず日本に領事館を開く」という認識で条約に署名したと言われています。
しかもこの“誤訳”、日米の力の差を知り尽くしていた当時の知識人である翻訳者が、自分たちの力を過信している江戸幕府に条約を結ばせるための苦肉の策略、つまり嘘だったという説も……。つまり、翻訳者が“誤訳”をしていなければ、日本は兵力で開国をむりやり迫られるまで鎖国を続けていたかもしれないのです。
意図的かどうかは別にして、誤訳が引き起こした政治的経済的混乱や会社同士の契約の破綻などは、21世紀の現在でも後を絶ちません。

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