中国の論文検閲-脅かされる学問の自由  

2017年11月1日、大手出版社シュプリンガー・ネイチャーが中国の法律に従い、同社の運営するサイトに公開されていた論文のうち1000本以上を中国で閲覧できなくした、と発表しました。情報公開および市民社会への統制力の強化を図る中国政府の方針に従った策であると述べていますが、特定の論文へのアクセスが遮断されることで学問の自由が脅かされている、との批判の声があがっています。
■ 論文へのアクセス遮断-CUPとシュプリンガー・ネイチャーの事例
中国における特定の用語を含む論文への強制的な処置は、今回が初めてではありません。2017年8月には、イギリスのケンブリッジ大学出版局(CUP)が、同出版局の中国学術ジャーナル「チャイナ・クオータリー」に収録された論文のうち「天安門広場での民主化運動」や「1960年代の文化大革命とチベット」といった用語を含む300本以上を、中国内でアクセスできなくしました(その後、学術界からの激しい批判を受けたCUPは数日でアクセス制限を解除)。
一方、シュプリンガー・ネイチャーは、中国政府への批判と捉えられる可能性がある「台湾」「チベット」「文化大革命」などの言葉を含む1000以上の論文への中国内でのアクセスを、現在も制限しています。同社は、中国政府の規制に従ってアクセス制限を行っているだけであること、中国における制限の対象は全体の1%以下であること、編集への検閲ではないため世界の他の地域(中国外)でのアクセスには影響がないことなどを主張しています。当局の規制に従わなければ、オンライン上のあらゆるコンテンツが遮断される可能性があったとも釈明し、改善への努力の姿勢を示しつつも、当面は中国政府に従う方針のようです。
これら2つの事例から、中国政府は自国の巨大市場に進出した国外企業に対し、経済的優位性を盾に強い態度を取っていることを示していると見られています。習近平主席は、2016年2月からメディアプラットフォームが共産党の意向に沿うものとするための政策を固めてきました。CUPによるアクセス制限が発覚した際には、欧米の複数の大学が中国政府の圧力に屈しない姿勢を示して抗議しましたが、出版事業社であるシュプリンガー・ネイチャーが中国当局の規制に準じた処置を実行したことに対し、今のところ他の出版社による大きな抗議活動は起こっていません。
■ 強まる学問の自由への干渉
中国の学術界は長年、政府による授業のモニタリングやイデオロギー調査など、政治の介入と厳しい監視を受け入れてきました。学問の自由の制限は、市民運動や公開討論を押さえ込もうとする中国の政策を反映しており、中国の研究者が国内で世界の研究成果にアクセスすることをも妨げています。
CUP(大学出版局)から始まった中国当局によるアクセス遮断要請は、シュプリンガー・ネイチャー(出版社)、さらには電子ジャーナルアーカイブ等を提供している JSTOR(非営利団体)にまで広がっており、中国における学問の自由は、着実に狭められてきています。中国政府当局は「Great Firewall」と呼ばれるインターネット検閲システムによって、SNSを含むインターネット通信において、政府が不適切と見なした言葉を検閲しています。これに対し、仮想プライベート・ネットワーク(VPN)を経由してGreat Firewallの抜け道を探る動きもありますが、政府は国内のVPNの取り締まりを強化しており、アップル社は政府の要請に応じて、中国のアップルストアからVPNソフトを削除しました。中国の政策に加担したとの批判されたアップルは、中国で事業を行うには中国の法律に従う必要があるとの見解を示しています。
■ 中国学術界の将来は? 
中国政府が規制を強化する姿勢を示している以上、学術分野においても、すべての情報へのアクセスが可能になることは難しいでしょう。各自が購読料を支払っている学術ジャーナルにおいても、それは同様です。
とはいえ、研究者や学術界からの働きかけにより、中国でのアクセスが一時遮断されたCUPのウェブサイト「チャイナ・クオータリー」は、いまや完全にアクセス可能となりました。大学の基本である、学問の自由の原則に則って論文へのアクセスを再開させたCUPの決断は強く支持され、今後もこれに追随する動きが出てきてもおかしくはありません(国際出版連合(International Publisher’s Association, IPA)は、中国政府に対してCUPへの報復処置を行わないように求めている)。
中国における言論および学問の自由への攻撃が常態化しつつあるとの指摘もある中、学術出版社は、中国政府が学問の発展に貢献すべく、規制対象となるコンテンツを減らしたり、アクセス制限を解除したりすることに理解を示してくれることを期待しています。これは国外の出版社や研究者だけではありません。中国内の研究者が、規制のない状況下で学術研究が進められることを願って、声を上げていることも忘れてはならないでしょう。

参考記事
BBC NEWS JAPAN: 英ケンブリッジ大出版局、中国の検閲対応を中止
YAHOO!JAPANニュース:「学問の自由」を中国に売り渡したケンブリッジ大学の恥ずかしい過去
産経ウエスト:中国で“不都合”論文を遮断した「ネイチャー」擁する出版大手…学問の自由への攻撃という新常態
The New York Times:  Apple Removes Apps From China Store That Help Internet Users Evade Censorship

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