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少子化が台湾の大学を脅かす

少子化が問題になっているのは日本だけではありません。驚くことに、アジアの近隣国では日本より深刻な状況に陥っています。2015年の合計特殊出生率ランキングでは、日本は189位(合計特殊出生率1.43、204カ国中)、韓国は196位(同1.29)、台湾は最下位の204位(同1.12)でした。この影響は当然、各国の大学および学術機関にも押し寄せています。その中でも今日は台湾の状況を取り上げます。
■ 2023年までに52校が閉鎖?
台湾は長い年月をかけて高等教育機関を拡充し、総合大学126校、単科大学19校、短期大学13校がひしめき合うまでになりました(2016年報道より)。しかし今となっては、学生の獲得に頭を悩ませている学校も少なくありません。台湾教育省(MOE)は、大学生の人数が2016年から減少傾向にあり、国内の公立・私立大学の入学者数は2013年から2023年の10年間に31万人も減少するだろうと推定しています。2015-2016年の新入生の数は、前年の27万人から25万人に減少(対前年比で7.4%減)しましたが、この傾向は大きくなり、2019年の新入生の数は前年比で3万人減少すると推測されています。その結果、公立・私立に関わらず国内の大学の52校が閉鎖もしくは合併されるとの見方もあり、少子化が高等教育機関に大きな影響を及ぼすようになっているのです。台湾の人口を維持するには合計特殊出生率2.1が必要とされる中、増加が見通せず、学校運営の見直しを迫られる大学が出てきています。
この状態に危機感を覚えた政府当局は、大学での研究活動を盛り立てるべく5年間でNT$500億(ニュー台湾ドル、US$160億相当)の支援を行いましたが、この支出に見合う効果が得られるかは疑問視されています。学生が集まらないだけでなく、台湾の大学の国際的評価が下がるなど、学術環境を維持するための方針も危ぶまれるという事態に陥ってしまっているのです。
■ 研究マネジメント支援ツールは大学を救えるか
一部の私立大学はU9リーグ(台北市と新北市の9つの私立大学が加盟するコンソーシアム)を形成し、カリキュラムの共有化を図るといった対策を進めています。また、学生を確保して評価を高めるためにSciVal(サイバル)やScopus(スコーパス)のような新たなツールを採用し、研究成果の発表の機会増や、強みを生かした研究の強化を推進する大学も出てきています。
SciValは、エルゼビアが提供する研究マネジメント支援ツールで、世界中の研究機関の研究パフォーマンスに関するデータを取得し、分析することができます。このSciValがデータソースとしているのが、同じくエルゼビアが提供する世界最大級の抄録・引用文献データベースのScopusです。科学・技術・医学・社会科学・人文科学分野の学術ジャーナルを幅広く収録しており、文献検索から評価分析、教育ツールとして、さまざまな用途で活用されています。
台湾の大学がこれらのツールを活用すれば、学術出版データの分析を行い、研究における自校の強みや弱みを把握することで戦略を立てることができると共に、自校のランク(位置づけ)を把握することで競争力を養うことができるようにもなります。少子化の中、学術環境の維持に苦しむ大学がSciValやScopusを使って研究パフォーマンスの分析を行い、結果に応じて学部を統合したり強化分野を絞ったりすることは、大学の評価を向上させるのに役立つと考えられます。
■ 大学の評価低迷は日本にも・・・
Scopusは、2015年から英国のタイムズ・ハイヤー・エデュケーション(The Times Higher Education; THE)が発表する世界大学ランキングでも採用されているため、ランクを上げたい大学にとっては、Scopusに掲載される論文を増やすことは重要です。世界大学ランキングは、各国の大学を教育・論文引用・研究・国際・産学連携などの指標に基づいて評価し、順位を決めるものですが、2017年の世界ランキングトップ50を見ると欧米の大学が大半を占める傾向にあり、アジア圏からはシンガポール(24位)、中国(29, 35位)、日本(39位)、香港(43, 49位)が入るのみです。台湾の大学で最高位なのは国立台湾大学(National Taiwan University; NTU)の195位。年々順位を落としていることからも、台湾の大学の苦悩が伺えます。ちなみに日本の大学で最高位は東京大学で39位。2位は京都大学で91位、3位以降は200位以下となってしまい、こちらもうかうかしてはいられない状況です。
台湾の少子化は深刻です。これによる学生数の減少が今後も続くことを前提とすれば、大学間の学生および研究者の取り合いは今以上に加速すると考えられます。各大学が志願者数を維持・増加させるためには、学術環境の向上、研究力の強化は喫緊の課題となるでしょう。加えて、非英語圏の大学は「言語」の壁も超えて、国際評価を上げていかなければなりません。日本にとっても決して他人事ではありません。早急な対策が求められています。
参考
Enago academy掲載の英文はこちら:Shifting Population Affects Taiwanese Universities

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