医学のトップジャーナル、臨床試験データのシェアを提案

もしあなたが教師で、学生が提出したレポートに描かれたグラフに疑問を持ったら、そのもとになった生データの提出を求めるでしょう。生データを見れば、そのグラフの正確さを確認でき、別の解釈の可能性を探ることもできます。ありもしないデータからグラフなどをでっちあげる「捏造」の可能性を確認することもできます。当然ながら学術論文でも同じです。
2016年1月20日、医学ジャーナルの編集者たちのグループ「医学雑誌編集者国際委員会(ICMJE)」は、論文の著者たちに対して、掲載を検討される原稿の必要条件として、臨床データのシェア(共有)を求める新しいルールを提案しました。
新ルールでは、ICMJEに加入している医学ジャーナルで論文を公表することを望む著者たちに対して、表や図、別表や補足素材といった論文の結論を裏付ける「匿名化された個人患者データ(IPD)」を、論文の公表から6カ月以内にシェアすることを求めています。
またICMJEは、研究者たちが臨床試験を行なう際には、データのシェアの方法についても計画するよう提案しています。たとえば、研究者たちがデータを公的な「リポジトリ(データの貯蔵庫)」以外に保管する場合には、その場所や、ほかの研究者がそのデータにアクセスする方法などを明らかにしなければならない、ということです。また、データはリクエストに応じて誰でも自由に利用可能にするか、それとも、申請後に第三者が認可した後でのみにするか、といったことも問題になります。
なおこの提案は、『内科学紀要(Annals of Internal Medicine)』のほか、『米国医学会ジャーナル(JAMA)』や『ニューイングランド医学ジャーナル(NEJM)』、『英国医学ジャーナル(BMJ)』、『ランセット』、『プロスメディスン』など英語圏の雑誌だけでなく、ドイツやオランダ、デンマーク、中国の医学ジャーナル14誌に掲載されました。それらの編集者が著者として名前を連ねています(日本のジャーナル、編集者は含まれていません)。著者たちは「データのシェアは、責任のシェアである」と言及しています。

それぞれのジャーナルの編集者たちは、自分たちのジャーナルでの掲載を検討する原稿の必要条件を変更することによって、データ・シェアリングの育成を手助けすることができる。臨床試験の資金提供機関やスポンサーは、個人患者情報のシェアという義務をサポートし、確固なものとするための立場にいる。

さらに、彼らはデータをシェアすることのメリットを下記のように強調しています。

データをシェアすることは、臨床試験から導かれる結論への信頼性や信用性を高めるだろう。結果を独立した立場で確認すること、つまり科学的なプロセスの基本的な原則を可能とし、新しい仮説の形成やテストを促す。〔略〕研究の被験者に対する道徳的義務を遂行することに役立ち、患者や研究者、スポンサー、そして社会に利益をもたらすだろう、とわれわれは考えている。

ICMJEは、この提案に対する意見を4月まで募集し、それらを検討してから、この新ルールを実効させる、としています。こうした試みは、臨床試験の結果の正確さを確認しやすくさせるだけでなく、同じような臨床試験が不必要に繰り返されることを減らすこともできるでしょう。個人情報の保護など課題もありますが、患者やその予備軍にとっても利益は多いと思われます。


ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

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