生物医学分野における研究開発費がアジアで増加

生物 医学分野における研究開発費において、おもしろいニュースが報じられました。2014年、米医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に掲載された研究報告書により、欧州や北米では研究開発費が減少しているのに対し、アジアでは増加傾向にあることが伝えられたのです。
欧州と北米における研究開発費の減少
2007年~2012年までの間、生物医学分野の研究開発に対する欧州での投資額に大きな増減はなかった一方、米国とカナダでは、投資額が年に約2%減少しました。中でも生物医学分野における世界の研究開発費の約半分を占める世界最大の研究国、米国の研究開発費が減少したことは注目に値します。理由のひとつとして、研究計画と研究費に関する活動を停滞させるに至った、米国議会内での政争が挙げられます。ただし、米国政府からの投資額の中で研究費が占める割合は減少しておらず、むしろ年0.8% というわずかな伸び率ではありますが、増加しています。減少したのは民間の研究費です。米国での生物医学関連産業の民間研究費はほぼ同額を推移していますが、米国のほかにも、アジアでますます多くの研究費を使うようになってきています。アジアの人件費は安く、新薬開発への規制はより緩やかなためです。

アジアにおける研究開発費の増加
豪州を含むアジア・オセアニア地域全体で、生物医学分野の研究開発費は増加しています。この地域でもっとも有力な研究国である日本では、2007~2012年の間の研究開発費の年間成長率は約6%でした。オーストラリアとインドも同程度の成長率でしたが、韓国の成長率はこれを上回ります。もっとも伸びているのは中国で、額としては他国より少ないものの、年間成長率はなんと33%を記録しました。もしこの劇的な成長率を中国が9年間維持し続けるとすれば、2012年にはわずか60億ドルだった研究開発費が、2021年には1090億ドルになり、米国を抜いて生物医学分野における世界一の研究開発国になります。もちろん、未来の推定は確実なものではありません。中国が年33%の成長率を無限に維持することはあり得ず、成長は緩やかにはなるでしょう。

研究者にとっての意味
もし現在の流れが続くとすれば、アジアに注目すべきです。最先端の研究はますますアジアで行われ、共同研究の機会がもっとも豊かな地域もアジアになるでしょう。そこまでの道のりは平坦なものではなく、それぞれの地域の政治と世界経済の状況によっては山あり谷ありで、断続的なものとなるかもしれません。しかし、世界の人口の5%を占めるだけの米国が、生物医学分野における研究費の50%を永遠に捻出し続けることも難しいでしょう。その他の地域が、研究の質においても研究費においても、追いつきつつあることは事実です。これは朗報と言えるものです。
ではこの事態について、校正者たちの意見を聞いてみましょう。


研究の質や正確さを維持することが不可欠

米国以外の地域で研究費がさらに成長しているのは、基本的な資本の原理が働いているというだけです。同額以下の費用で、官僚制にそこまで頭を痛めずに、より大規模な研究を行うことができるのに、規制の厳しいところで高い人件費を払うことに意味があるでしょうか?もし同額以下の費用で同じような効果を上げることができれば、経理担当者も株主も喜びます。ではそこに問題点はあるのでしょうか?「目的は手段を正当化する」という合理化が有効なのは、適切な管理と監督が行われている場合のみです。しかし、もしそれらの地域で費用削減のために研究で手が抜かれるようなことがあれば、集められたデータの正確さはすぐに疑われてしまいます。それらの地域で公的な認可を得る前にデータの正確性を問い直し、研究の質や正確さを維持することはできるのでしょうか?

残念ながら、研究開発を短期の費用削減目標と見なす傾向は徐々に広まりつつあるようです。さらに、大規模な研究や基礎研究よりも短期間の応用研究へシフトすればするほど、研究費に関するこのような姿勢が世界的に広まる可能性も高くなります。

博士(経営学)
アメリカにて30年以上の研究・学術論文執筆経験


北米における研究の縮小が及ぼす影響も考慮すべき

生物医学分野の研究開発がアジアで伸びているのは確かによいことですが、それによって北米における研究費の削減傾向が改善されるわけではありません。北米、特に米国は、世界の生物医学研究に対する最大の貢献者としての能力を持ち、この能力をこれまで活かしてきました。生物医学分野への政府支出がわずかしか増えていないことは、米国にとって、特に米国議会にとって恥ずかしいことだと、米国人の研究者として思います。上記の記事が正しく指摘しているように、これは政争の産物です。この政争は、もちろん生物医学分野だけでなく、米国における非常に多くの分野の科学的・文化的な研究活動に影響を与えています。

アジアの発展を嘆く理由はありませんが、北米における研究の縮小が及ぼす影響を無視することもできません。私の眼には、すべての研究はよい研究に見えますし、より多くの研究がなされればさらによい効果をもたらすと思っています。研究の縮小は、確実に、若い科学者たちに大きな影響を与え、革新を起こす可能性のある研究を続ける若い科学者たちの能力に大きな影響を与えます。さらに恐ろしいのは、才能ある若い科学者が、研究費を得られず、生物医学分野から完全に離れてしまうことです。生物医学分野において研究開発がこれまでより行われなくなり、才能のある人も少なくなってしまうとすれば、世界の保健や医療の進歩が損なわれるだけです。特に米国は、国会議員たちにこの問題により真剣に取り組んでもらうべきだと考えます。

博士(米国史)
アメリカにて5年以上の研究・学術論文執筆経験


生物医学分野の研究において、米国の影響力が弱まっている

ロチェスター大学医療センターと、米国医師会雑誌 「Journal of American Medical Association」が、生物医学分野の研究において米国が力を失いつつあるという内容の論文を発表しました。これらの内容は、米国人の将来の生活水準に影響を与える可能性があります。現在、米国は、新たな医薬品・医療機器・臨床技術の分野では世界一の供給者となっています。新薬の供給がなければ、薬剤耐性を持ったウィルスの増加に対抗しきれなくなってしまうかもしれません。もしそれらの「戦い」に敗れれば、米国中の病院に大きな影響を与え、治療法もなく死んでいく患者が生まれる可能性があります。また、エボラ出血熱のような感染症が次に発生すれば、そうしたウィルスと戦うことは難しくなるでしょう。

各国には、米国とは異なる医療上の課題と優先順位があります。たとえば、高齢化が進む日本にとっての優先課題は、アルツハイマー病の進行を止め、状態を改善するのに役立つ新薬の開発であり、新しい抗生物質ではありません。このように、他国から供給される新薬・医療機器・臨床技術は、多くの米国人が望むものではない場合があり、彼らが望むものを米国自身が直接研究開発できなくなってしまうと、米国人の生活水準にも直接影響を与える可能性が出てきます。

修士(理学)
日本で11年以上の英日翻訳経験


パラダイムシフトが、世界の研究開発費をより均質なものにする可能性も

現在の日本と中国における生物医学分野の研究成果は、上記の記事が示唆するように、活況を呈してきており、より自立した研究が増加していることを示しています。米国経済の回復力と卓越性は、強力な医薬品・技術産業から生じており、これらの産業についてはアジアに脅かされない水準を維持しています。したがって、生物医学分野におけるアジアの努力がどんなに巧みで勢いがあろうと、米国はこれらの産業における自らの優位性を守ろうとするでしょう。その一例として、長年使われている薬に対してほんの少し理論的に優れているだけの新薬や、効果のない新薬を他国に販売するといった米国企業による対応策が挙げられます。このブログは、具体的企業名を挙げるのにふさわしい場所ではありませんが、米国の製薬会社による攻撃的な販売戦略と世論への介入はよく知られており、経済的に正当化されてもいます。

アジアの企業は西洋からの命令にはおおむね従順かもしれませんが、健康と医療に関する世論は、古くからの伝統医療の強い影響を受けています。多くの場合、これらの伝統医療は、西洋的な厳しい検証を経ておらず、有効成分・再現性・濃度依存性といった概念は、濁った一服の煎じ薬にすぐに溶け込んでしまいます。それゆえ、緑茶や酢や生姜等々の成分を突き止めるために多くの研究が行われ、これらの成分の純粋な抽出物や伝統的な摂取法が健康と疾病に与える臨床上の研究が行われていても、驚くべきことではありません。ここに、アジアにおける生物医学研究の大きな特徴があり、そのような特徴が結局は、西洋の製薬会社の大きな利益を減少させるのかもしれません。多くの伝統医療には、その効果を示すしっかりした証拠はまだありませんが、すでに数千年前から知られている日本人と中国人の長寿は、その証拠の非常に優れた一部をなすように私には思われます。これは、どんな新薬にも不可能な、羨むべき証拠です。クーンの言うパラダイムシフトが、今後数十年の間に、世界経済の発展とともに起こるかもしれません。これは、よりよい医療に寄与し、生物医学分野における世界の研究開発費をより均質なものにする可能性があります。

博士(腫瘍学)
オーストラリアでの科学分野・医療分野に関する執筆歴12年以上


生物医学分野において、米国は世界の研究開発費の約半分を支出する、最大の研究国であり続けています。しかし、世界の人口の5%が、生物医学分野における世界の研究費の50%を永遠に捻出し続けられるとは考えられません。そうなった時のためにも、将来米国以外の地域が、研究の質においても研究費の面においても、追いつく必要があります。世界中の地域間の競争条件が徐々に平等になりつつあるというのは朗報です。最先端の研究が、アジアでも行われはじめています。一般に、すべての研究は質の高い研究であり、より多くの研究が行われれば、さらによい結果につながるでしょう。
米国政府の研究費支出が最近減少し、それに続いて応用研究のほうが重視されるようになったことで、基礎研究に対する理解や支援がさらに減少するかどうかは、興味深いところです。研究開発予算全体は減少していますが、短期的費用の減少にまでは至っていません。その理由が長期的な基礎研究の維持にあるのかどうか、これからの動向に注目が集まります。

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