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研究ノートについて(1):重要性

2014年に大問題になった「STAP細胞」の研究不正においては、当の研究者がきちんとした「研究ノート」をつけていなかったこと、共同研究者たちが実験結果だけを見て「研究ノート」に書かれているはずのデータを確認しなかったことなども問題になりました。本ブログでは、今回と次回、「研究ノート」のあり方について考えてみたいと思います。
研究を始めて間もない人たちのなかには、研究ノートのことを、論文や報告書を書くときに使うメモ帳だと勘違いしている人がいるのではないでしょうか? それは大きな勘違いであると同時に、研究の円滑な進行の妨げるミスの元にもなりかねます。研究ノートは、ある意味では論文より大切なものです。その用途と価値を正しく理解し、永久に保存する心積もりで作成しましょう。
実験結果を書きとめていく研究ノートが、論文や報告書を書く上でなくてはならない資料だということは周知の事実です。しかしノートを取るときは、次回詳しく書くように、その時点で計画されている研究事項やテーマに固執することなく、一見関連がなさそうに思える細かなこともくまなく記録するよう注意してください。そうしておけば、仮にまったく予期していなかった結果が出て、研究対象ではなかった要素を比較しなくてはいけなくなっても、無駄な時間と費用を費やして同じ実験をやり直すようなことを避けられるかもしれません。また、実験の成果が認められ、その後何年にも渡って関連する実験が行われるようになった場合、2年後、3年後に、それまでは考えてもいなかった要素に注目が集まるかもしれません。そのような場合でも、あらゆる詳細な情報が記録されていれば、過去のデータをもとに予測を立てたり比較をしたりするなど、さまざまな使い方ができるというものです。


また、どんなに当たりと思われる手順や手続きも、研究ノートにはきちんと明記しておきましょう。実際に実験が行われてから研究論文を執筆するまで、 どんなに急いでも時間がかかります。その間に、ラボの基本的なプロトコルが変わる可能性もあります。「毎日することだから」とか「全部のサンプルに共通して行われることだから」などと思って軽視しないよう気をつけてください。
当たり前と思われる点までも研究ノートに書く理由は、将来自分が忘れないようにするためだけではありません。とくに大きな共同研究プロジェクトに参加している場合には、実験の途中でその作業を他の人に引継がなければならない場合が多々あります。そのようなとき、どんなに気をつけても、短時間で作業の詳細をすべて引き継ぐのは不可能です。明解で詳細に書かれた研究ノートがあれば、あなたの仕事を引き継いだ人も、そのノートを辿ることで、今までどのような研究がいつ、どのように行われてきたのかをはっきり把握することができるでしょう。また、移転の可能性のない人でも、家族の都合で急に数日休みを取らなくてはいけなくなることなどは誰にでも起こりうることです。そのような場合でも、当たり前のことがきちんと書かれたノートさえあればこそ、誰かにサポートを依頼することも可能になるのです。
最後になりましたが、研究ノートは、自分がどのような作業をし、そのプロジェクトにどのようにかかわったかを証明する資料ともなりえます。とくに共同研究の場合は、論文を出版する時点になって、誰の名前を先に記載するかでもめるケースが少なくありません。そのようなとき、あわてて自分が何をしたのか書き出そうとしても、案外と思いつかないものです。しかし、より詳細に書き取られた研究ノートがあれば、自分の貢献度を明確かつ客観的に訴える証拠として提出することができるでしょう。
つまり、しっかりとつくられた研究ノートは、現時点で行われている実験に必要なだけでなく、将来の研究や人間関係にも欠かせない道具なのです。“研究のためのメモ帳”といった間違った概念を捨てて、よりよい研究ノートを取るよう日ごろから心がけてください。また英語論文を書くつもりであれば、初めから英語で研究ノートをとってみてもいいかもしれません。英語圏の共同研究者とのコラボレーションで役に立つ可能性などもあります。

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