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否定的な結果 をもっと公表しよう

科学や医療の世界では「否定的な結果」が公表されない傾向にあることが問題になっています。「否定的な結果(negative results)」とは、研究者たちの仮説をサポートすることに失敗した研究結果のことです。「否定的な知見(negative findings)」ともいいます。
本連載では以前、実施された臨床試験の結果が半分以下しか公表されていないという調査結果を紹介したことがあります。その理由の1つとしては、公表されない結果のなかには「否定的な結果」もあり、研究者やスポンサーがそれらを公表することに積極的になれないことも考えられます。
生物医学のニュースサイト『STAT』は、この問題を次のように評します。

この(「 否定的な結果 」がジャーナルで公表されない傾向にある)ことは 、科学者たちがそのような研究の有効性を見つけることに失敗したということを意味しない。まったく反対である。たとえば、ある医薬品がある感染症に対して効果がないということを発見した研究は、重要であるとともに、すぐに使える情報である。

しかしながら一般的にいえば、「肯定的な知見」のほうが目立つのは事実でしょう。つまり自分たち(またはスポンサー)の仮説をサポートする研究結果のほうが読者にも響くし、メディアにもウケやすいのです。
「しかし、こうした態度は変化しているようだ」と『STAT』は書きます。
たとえば、専門誌『アメリカ消化器病学ジャーナル (AJG: The American Journal of Gastroenterology)』は、11月号全体を使って「否定的な結果」のみを集めた特集を組むといいます。同誌の共同編集長ブライアン・レーシーは「こうした否定的な研究のかなり多くは、肯定的な結果よりも重要なのです」と『STAT』にコメントしています。
同誌は2016年の初め、この特集への論文の投稿を呼びかけ、100本近くの原稿を受け取りました。そのなかには、発表できる場所を見つけられないでいた「とても有名な研究者による重要な研究」もあるといいます。『STAT』によれば、そうした論文のなかには医師たちに診療の方法を変えさせるものもあるだろう、とのことです。
AJGは、このような試みを始めたジャーナルのなかでは最も有名なものではありますが、唯一のものではありません。
たとえば『生物医療における否定的な結果ジャーナル(Journal of Negative Results in BioMedicine)』は、2002年以来、「非確認(non-confirmatory)、否定的、予想外(unexpected)、物議をかもす(controversial)、挑発的(provocative)」なデータに特化して掲載してきました。同誌は次のように説明しています。

ていねいに記述された失敗を掲載することは、一般的に使われている方法や医薬品、抗体のような試薬、あるいは細胞株などの根本的な欠陥や障壁を明らかにし、最終的には、実験デザインや臨床決定の向上につながる。

同様の方針を掲げるジャーナルはほかにもあります。生物学や生態学を対象とする『否定的な結果ジャーナル(Journal of Negative Results)』は2004年に、『薬理学の否定的な結果ジャーナル(Journal of Pharmaceutical Negative Results)』は2010年に創刊されています。
「しかし、こうした重要なジャーナルはあまり引用されない。このことは、科学の強い肯定性バイアス(positivity bias)を物語るものである」と『STAT』は指摘します。「こうしたバイアスの存在には多くの理由がある。大きくて派手な物語がほしいという人間的な欲望から、成功した臨床試験の結果はより多くの別刷り(reprints)を売ることができるという事実まで」。肯定的な結果のほうがいわゆるトップジャーナルに掲載されやすく、その結果、助成金や終身在職権(テニュア)の取得などで有利になるのでしょう。
AJGについていえば、同誌は今後も、毎月最低1本は否定的な結果を掲載する予定であるといいます。
製薬企業の利益や研究者の自己実現ではなく、科学や医学の発展を望むならば、ときには仮説は否定される必要があります。そのためには、否定的な結果が論文として公表され、さらにそれが参照・引用される機会やシステム、動機がいま以上に必要でしょう。

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