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日本の 論文発表数 減少の実情と研究者にできること

研究者にとって、インパクトの高い学術雑誌(ジャーナル)に研究論文を発表することは、研究者としての実績およびキャリア形成において重要です。ところが、近年、日本の論文発表数が減少していることが指摘されています。

■ 日本の論文発表数は世界6位に低下

2018年1月、各国の科学技術力の分析にあたる全米科学財団(National Science Foundation, NSF)が発表した報告書Science and Engineering Indicators 2018で、中国の科学技術の 論文発表数 が初めてアメリカを抜いて世界首位となったことが、学術界に衝撃を与えました。この報告書はNSFが2年ごとに発表しているもので、2018年の発表は2016年の論文発表実績をまとめたもの。論文数ランキング10位までは、1.中国 、2.アメリカ、3.インド、4.ドイツ、5.イギリス、6.日本、7.フランス、8.イタリア、9.韓国、10.ロシアの順となっていました。

中国を筆頭に新興国の躍進が著しい中、日本は論文総数が13%減。減少傾向にある国は日本だけという事態です。さらに言えば、前回の報告書Science and Engineering Indicators 2016での日本の順位は3位だったので、今回の報告書(2018)ではドイツ、イギリス、インドに抜かれて6位に転落したということになり、科学技術立国としての日本の研究力の低下が、大いに憂慮される事態となっています。


■ 日本政府の認識は?

文部科学省は2018年6月12日、科学技術の振興について講じた施策を報告する「平成29年度科学技術の振興に関する年次報告」の2018年版(平成30年度版)「科学技術白書」を閣議決定しました。この白書には、研究の質を示す被引用件数の多い学術論文数の国別順位で、日本は10年前の4位から9位に下がっていること、イノベーションを生み出す基盤的な力が急激に弱まっていることなどが指摘されています。論文の量・質の低下、大学発ベンチャーの成長、博士課程進学者・若手研究者の減少、新たな研究領域への挑戦の不足、研究開発費総額の伸びの停滞などの、諸々の日本の学術界の問題についても記載されており、国際的な研究成果を出し続けるには危機感を持って改革に取り組むことが不可欠だと記しています。

白書では、日本の論文数の動向を、(1)総論、(2)部門別の論文生産数、(3)分野別の論文生産数の3つの観点から見ています。それぞれ簡単に概説を書き出します。

(1) 総論
世界の論文の動向としては、Web of Scienceに収録される論文数は一貫して増加傾向にあり、中でも複数国の研究機関による共著論文(国際共著論文)数が著しく増加している。にもかかわらず、日本の論文数は減少傾向にあり、全分野における世界の国・地域別論文数ランキングで大きく順位を下げている。2003~2005年と2013~2015年の比較では、論文数で2位から4位に、Top10%補正論文数で4位から9位に下降。世界から注目される質の高い論文の割合はわずかに高まっているが、主要国の割合は日本以上に増加。結果として、日本の論文数の減少が目立っている。

(2) 部門別の論文生産
大学等部門および公的機関部門における論文生産割合は増加しているが、民間(企業)部門における割合は低下している。白書には、Science and Engineering Indicators 2018によれば、アメリカでも同様に大学部門の論文生産割合が微増なのに対し、企業部門の割合は低下傾向にあることが示されているとして、これが日本だけの傾向ではないことが見て取れると記されている。

(3) 分野別の論文生産数
増加している分野はあるものの、ほとんどの分野で直近10年間の論文数および注目度の高い論文数 (補正論文数)で日本の順位は低下。世界各国で論文数が増加していることから、日本の相対的地位の低下が懸念されている。

なお、この白書は日本の科学技術力の現状分析として、論文数だけでなく研究開発投資、人材力などの比較も行っているので興味深い内容となっています。

■ 研究者が発表論文を増やすためにできること

Science and Engineering Indicators 2018などを含め、さまざまな報告書や世界的ジャーナルによる分析で日本の論文発表数の減少が指摘される状況下において、当の研究者が論文発表数を増やす、特に、Cell、Science、Natureといった注目度の高い学術雑誌への論文発表数を増やすためには何ができるでしょうか。第一に、よい研究を行わなければなりませんが、その結果をまとめ、アクセプトされる論文に仕上げる必要もあります。ここでは、論文を書くために抑えておくべきポイント20を以下に挙げますので、参考にしてみてはいかがでしょうか。

・研究にマッチする研究室と適切な研究指導者(指導教員)を見つける。・研究資金があり、活発に研究が進んでいる分野を確認しておく。
・注目度の高い(インパクトのある)研究テーマを見つけ出す。
・強力な仮説を組み立てる。
・地域/世界と協力して研究を行う。
・確固たる研究デザインに基づいて研究を実行する。
・印象的なカバーレターを書く。
・研究の新規性と品質を重視しつつ、重要なメッセージを一つ入れ込む。
・研究テーマにマッチする学術雑誌を選択する。
・学術雑誌の投稿規定を順守する。
・言いたいことをはっきりと、わかりやすく書く。
・インパクトのあるタイトルと簡潔な要旨(アブストラクト)を書く。
・研究によって発見されたことを要旨に効果的に示す。
・明解かつ生き生きとしたタイトルにするため動作動詞を使う。
・結果を過大評価しない。
・“One the…,” “Study of…,” “Investigation of…”のような総称表現(梵語)は避ける。
・要旨では、専門用語、頭字語(先頭の文字や音節を表す文字をつづり合わせて作った語、略語の一種)、句読点の多用、あるいは図表への言及は避ける。
・要旨は、結論、または研究における疑問に対する回答で締めくくる。
・査読者のコメントに対して適切に対応する。


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