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査読レポート の公開に肯定的な声は多数

研究者は論文を公表したいとき、自分の研究結果を原稿にまとめ、ジャーナル(学術雑誌)に投稿します。ジャーナルの編集部はその原稿を、近い分野の専門家に送って、掲載する価値があるかどうか、「査読」を依頼します。査読を引き受けた専門家=査読者は、その原稿を読み、データの不足など問題点をチェックし、文書にまとめて編集部に送り返します。編集者はその文書を著者に送り、修正などを求めます(査読者は通常、匿名です)。その文書のことを「査読レポート」または「査読者レポート」といいます。著者は、査読レポートに書かれた査読者の指摘をクリアし、原稿をまとめ直すことができたら、その新しい原稿は論文としてそのジャーナルに掲載されることになります。
いま学術界では、論文を公表するときにその査読レポートも同時に公開する、という実験的な試みが始まっています。たとえば最近、ノッティンガム大学のケヴィン・シンクレアたちが、有名なクローンヒツジ「ドリー」と同じ方法で誕生したクローンヒツジたちの健康状態を観察し続けた結果を『ネイチャー・コミュニケーションズ』で発表したのですが、同時に同誌編集部はその査読レポートを公開しました。
同誌は、2016年に同誌で論文を公表した著者の約60%がその 査読レポート を公開することに同意したこと、それゆえ科学者たちに査読レポートの公開をオプションとして提供し続けること、しかし義務にはしないこと、などを明らかにしています。著者の意識は専門分野によって違いがあり、生態学や進化論では70%以上の著者が同意した一方、原子核物理学や理論物理学では50%を切りました。


また、『ネイチャー』によれば、欧州委員会(EC)が実施した調査では、回答者3062人のうち半数以上が、査読レポートの公開は査読をよりよくする、と答えています。その一方で、査読者の身元を明らかにすることについては査読を悪化させる、と答えています。
学術出版大手のエルゼビア社は過去2年、『農業・森林気象学(Agricultural and Forest Meteorology)』など5誌で、査読レポートの公開を試みてきました。同社は、査読レポートを公開することについて査読者たちはどのように考えているのか、次のような数字をまとめています。

・95%は、査読レポートの公開は(著者たちに対する)助言に影響を与えていないと答え
 た。
・76%は、自分たちの査読レポートが一般に公開されるという事実によって言葉遣いが変わ
 ることはなかったと答えた。
・45%は、自分たちの名前を明らかにすることに同意した。
・匿名のままにしたいと思った者の36%は、次回にこのジャーナルで査読をするときには名
 前を明らかにすると答えた。
・98%は、このジャーナルの査読の依頼をまた引き受けると答えた。

また同社によれば、編集者の70%は、こうした試みが「深くて建設的な」レポートにつながった、と述べています。著者については、25〜50%が、今後も査読レポートが公開されるジャーナルに論文を投稿する意向があると述べており、そのようなジャーナルには投稿したくないとする著者はごくわずかだったといいます。
なお査読レポートの公開は、『ピアーJ』、『英国医師会雑誌(BMJ)』、『F1000リサーチ』などでも実施されています。また、「Publons.com」というウェブサイトでは、研究者から投稿された査読レポートが公開されています。
もちろん査読レポートの公開について問題点を指摘する研究者もいます。『ネイチャー』は、査読レポートが公開されることを前提とするならば、専門用語を減らすなどの負担が増え、「私の査読は必然的に減るだろう」と言う研究者の声を紹介しています。
本誌では以前、査読者を匿名化せずに行う「オープン査読」が、従来から行われてきた匿名査読よりも劣るわけではない、という調査結果を紹介したことがあります。しかし前述のECの調査では、査読者の名前を公表することについては、否定的な意見が多いようです。
いずれにせよ、査読プロセスの透明化は今後もっと進むでしょう。研究者はその変化に応じて意識を変革していく必要がありそうです。


ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

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