オープンアクセス急拡大中―今後の動きは!?

ほんの十数年前まで、学術研究論文の出版は紙媒体が主で、デジタル化されたコンテンツを読むことなど想像すらできませんでした。しかし、近年のICT(情報通信技術)の急激な進歩により、私たちは世界のどこからでも学術情報を入手することが可能となり、それに伴って、学術論文のオープンアクセス化も急速に進んできました。
■ 16年で世界に波及
オープンアクセス化とは、公開された学術研究論文をインターネット上で誰でも自由に、無料で閲覧できるようにすることです。オープンアクセスに向けた動きは、2001年にハンガリーで本格化しました。社会正義・教育・公衆衛生・メディアの独立を国際的に助成する組織であるオープン・ソサエティ財団(Open Society Foundations: OSF)が、ハンガリーで主催した会議でブダペスト・オープンアクセス・イニシアティヴ(Budapest Open Access Initiative: BOAI)を採択し、翌年にBOAIを文書化して公開したのです。これによりオープンアクセスの定義と方向性が示され、世界各国で拡大することとなりました。
ICT技術の進歩と利用者側の利便性向上とは別に、印刷費・運送費が増加して学術雑誌の価格も高騰するという出版業界側の事情もオープンアクセスの流れを加速させました。
学術界は基本的に、研究成果をオープンアクセス化することを推奨しています。学会や学術誌によってはオープンアクセスを義務化しているケースも見られるほどです。研究者は学会や所属する研究機関、投稿する学術誌の方針に従いつつオープンアクセスを検討し、適切な手段を選択することになります。オープンアクセス化によって情報伝達のスピードが格段に速くなり、世界中で研究成果の公開性が高まり、利便性も確実に向上しているのです。
■ 中南米でも新たな動き
世界中で拡大中と言いつつ、ネット環境に大きく依存するという性質上、発展途上の国におけるオープンアクセスはあまり進んでいないと思われがちです。しかしブラジルではBOAIの前から、研究成果を共有する方法を模索していました。1997年にはScientific Electronic Library Online(SciELO)が学術出版をウェブ上で連携させるプロジェクトを発足させ、学術誌の可視化に力を入れてきました。この動きにチリのNational Commission for Scientific and Technological Research (CONICYT)が追随し、さらに中南米の主要な国々に拡大したのです。
2012年11月には、中南米9か国(アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、エクアドル、エルサルバドル、メキシコ、ペルー、ベネズエラ)がブエノスアイレスに集まり、中南米における学術研究成果のオープンアクセス化をめざすネットワーク組織LA Referenciaを正式に結成することで合意しました。LA Referenciaには今や、140万件以上の記事や学位論文などのデータが収録されています。
さらに、オープンアクセスジャーナルの包括的なデータベースを構築しているDirectory of Open Access Journals(DOAJ)の記事(2017年1月17日付)によれば、2014年3月にDOAJの基準が設定されて以来、中南米およびカリブ海地域から登録された学術誌は916誌。著者責任の明確化や著作権ポリシーに関する課題はあるものの、中南米における国際出版基準に準じたオープンアクセス化の促進と質の向上が進んでいるようです。
 国際機関も動きを推進
中南米のように、国家レベルでオープンアクセスを進めている国々もありますが、公的資金を使った研究成果も幅広く利用できるようにと、国際機関でもオープンアクセス化の動きが広がっています。ユネスコ(国際連合教育科学文化機関、United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization: UNESCO)も2013年にオープンアクセス政策を発表し、その戦略的枠組みの一環として2013年3月、ジャマイカのキングストンで、第1回Regional Latin American and Caribbean Consultation on Open Access to Scientific Information and Researchを開催しました。この大会にはジャマイカ、西インド諸島およびカリブ海の国々を含む中南米諸国が参加しています。さらに同じ年、ユネスコの主要な研究報告書などを掲載したOpen Access Repositoryを公開し、オープンアクセス化を積極的に進めています。
■ よいこと尽くしに見えるが……
オープンアクセス化の推進という新しい流れは、研究者に大きなメリットをもたらしています。世界中の学術論文を含む情報が自由かつ無料で入手可能になることで、研究者の専門分野における研究の発展に貢献します。また、異なる分野の研究成果や興味のある学術情報も簡単に検索・入手できるようになることで、研究の幅を広げ、分野を超えた連携を可能にします。同時に、研究者が論文をオンラインに掲載することで自身の論文の被引用回数を把握できるようになると共に、論文の披検索数が増加することも期待されます。
よいこと尽くしのように見えるオープンアクセス化ですが、問題も発生しています。ICTの発展に伴うオープンアクセス化で利便性が向上する反面、混在する誤情報を含む膨大な情報に振り回されたり、出版倫理に触発する問題が発生したりと、諸刃の剣にもなり得ます。
著作権の扱いも課題の1つです。オープンアクセス化にあたり、出版社や個人が所有する著作権と折り合いをつけなければなりません。オープンアクセスジャーナルにおける著作権はクリエイティブ・コモンズに準拠していることが基本と考えられますが、研究者が他の研究者から使用許可を得るのを支援するツールなどが必要と考えられます。インターネットへのアクセスをいかに確保するかも大きな課題です。特に地方における接続の安定性とスピードの向上は必須です。デジタル環境の構築は、その国がインフラ整備にどれだけ力を入れるかに大きく影響されるため、一筋縄ではいきません。
■ さらなる普及に向けて
オープンアクセスモデルには、明確な方針や資金、インフラ構築、ICTが不可欠です。またコンテンツを充実させるには、査読も必要ですが、それ以前に世界に向けて研究成果を発信していく研究者がいなくては成り立ちません。登録する論文を増やすには、研究者がオープンアクセスのメリット、オープンアクセスリポジトリへの登載方法、SHERPA-RoMEO[1]によるオープンアクセスにおける出版社著作権ポリシーなどを理解する必要があります。そのための教育や支援も必要となるでしょう。
学術研究におけるオープンアクセスの重要性は世界中で認識されており、この流れが止まることはないでしょう。直面する課題にどう対処していくのか、今後の動きに注目です。


注釈[1]  SHERPA/RoMEO:英国のノッティンガム大学を中心に立ち上げられた、オープンアクセスの機関リポジトリプロジェクトSHERPA(Securing a Hybrid Environment for Research Preservation and Access)のうちの一プロジェクト。ジャーナル出版社の著作権ポリシーを集積し、データベース化している。2017年7月時点で2,393出版社が登録され、分析対象となっている。
参考
Enago academy掲載の英文はこちら:Open Access Movement in Latin America

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