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ポスドクのキャリアの傾向が明らかに

博士号を取得した若手研究者のキャリアパスを調査した研究が発表されました。この研究は、アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)の一部門である国立環境健康科学研究所(National Institute of Environmental Health Sciences:NIEHS)のTammy Collins博士のチームが構築した手法に基づいて行われたものです。15年以上にわたって集められた900名近いNIEHSのポスドクのキャリアパスを分類・調査した結果とはどのようなものだったのか、見ていきましょう。
■ キャリアパスを可視化するための分類
まず、この研究では、生物医学関係の職を組織区分(JOB SECTOR)、職業区分(JOB TYPE)、職務内容(JOB SPECIFICS)に分類しています。
・組織区分は、営利組織、学術機関、政府、非営利組織に分類されています。
・職業区分は、テニュアトラック制度(若手研究者を、審査を経て専任教員として終身雇用する制度)における研究職のような一般的なポジションだけでなく、研究専門職から上級管理職、研修生までさまざまな階級に分類されています。
・職務内容は、主として基礎研究、応用研究、学術ライティング・学術コミュニケーション、教職などに分類されています。
下の図を見ると、ひとつの組織区分にさまざまな職業区分が含まれ、さらに職業区分内にどのような職務内容があるのかがわかります。(この画はTammy Collinsの許可を得て掲載しています)
次に、ポスドクのキャリアデータを国籍と就業した国という視点で分類した図を見てみましょう。矢印の起点が国籍で、それぞれ就業国に向けて伸びています。矢印の太さは人数比率を示しています。(この画はTammy Collinsの許可を得て掲載しています)
では、このような職の分類と出身国と就業先の関係を見たことによって、ポスドクのキャリアについての発見はあったのでしょうか。
■ ポスドクの就業先から見える傾向の違い
研究チームが米国と他国のポスドクのキャリアデータを統計的に分析した結果、以下のことがわかってきました。
・米国と他国のポスドクでは、就業する職種が異なる
・国際的なポスドクは、基礎研究を行うテニュアトラックに進む数が多い傾向にあり、その比率は基礎研究以外に進む人数の2倍。しかも、その大半は自国以外で職に就いている
・一方で米国のポスドクは、応用研究を行う民間企業での就職を選択する傾向がある
・全体を見ると、NIEHSのポスドクの半分近くは学術関係の職に就いている
また、世界中に散っているNIEHSのポスドクのキャリアパスにつき地理的分析を行った結果、彼らが国籍と博士号を取得した国に影響を受けていることもわかりました。
・大半のポスドクはNIEHSの所在地である米国ノースカロライナ州で仕事に就いている
・出身国が米国以外のポスドクは、母国に戻って就業する人が多く、その傾向は日本と韓国の出身者に顕著に見られる
・専攻分野によるキャリアパスへの影響も見られる。例えば、生物統計学や伝染病学の学位を取得した場合、他分野に比べて高い割合で終身雇用の職に就いている
・テニュアトラックに進む以外では、コンサルティング、助成金管理、科学政策などの職が選ばれている
これらの分析結果を見る限り、NIEHSのポスドクは自身のバックグラウンドを活かして、さまざまな形で社会に貢献していると言えそうです。
■ 後進のキャリア形成の一助に
このようなデータにもとづく分類と分析は、博士課程に現在いる研究者にとって、今後のキャリアを考える上で参考になるでしょう。また、大学側にとっても研究プログラムの有効性を評価し、学生に対して現実の就業環境に見合ったキャリア選択をサポートできるようになります。こうした研究が世界中のポスドクのキャリア形成に大いに役立ち、彼らが世界で活躍する一助となることが期待されます。
参考記事
NIH Press Release:New tool visualizes employment trends in biomedical science(NIH Press Release)
Nature Biotechnology:Visualizing detailed postdoctoral employment trends using a new career outcome taxonomy

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