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中国で研究成果を劇的に向上させる新規制が登場!?

中国の研究開発が成長を続けているのは、これまで取り上げてきた通りです。中国政府による科学研究を非常に重視する姿勢が、科学分野の研究の目覚ましい進歩を後押ししています。多数の研究論文が国内外問わずに発表されており、この勢いは今後も続くと見られています。

しかし、急成長の裏で問題も生じています。中国政府は、研究データの公開・出版に関する新たな規制を設けて対策に当たっていますが、果たして、この規制は中国発の研究論文の質を向上させられるのでしょうか。

■ 出版物が増えたら、問題も増えた

30年前、中国は科学出版物の数で世界第3位でした。しかし2017年、中国はついにアメリカやEUを抜いて、世界第1位に躍り出たのです。中国政府が科学研究開発を奨励していることに加えて、出版に対する報酬システムが、この結果に大きく貢献しています。中国は、権威ある国際的な学術雑誌(ジャーナル)に論文を掲載した研究者に対し、多額の報酬を与えており、これが研究者へのインセンティブとなって出版数の増加につながっているのです。

とはいえ、よいことばかりではありません。報奨金を狙って、質の悪い研究論文や偽のデータを用いた論文を投稿する研究者が出てきました。質より数の戦略で、より多くの論文を出版しようとしているのです。報酬を得たり自身の名声を高めたりすることに目がくらんだ研究者が、後を絶ちません。

2017年11月、大手学術出版社のシュプリンガー・ネイチャーは、適切な査読を経ていない中国人研究者の論文107本を掲載削除にしました。専門分野によっては、著者が査読者を推薦できる査読プロセスを悪用した不正があるとされていますが、何とか出版数を増やそうとした研究者が、出版のプレッシャーや報奨金への欲に負けて不正行為に走ったとも考えられます。また一方で、論文の量が増えれば、それだけ査読を行う数も増えることになり、品質維持において大きく査読に依存している学術出版界にとっては、査読者の負担が増えることになっているのです。

■ データの質と安全性を向上せよ

このような問題に対処するため、中国政府当局は2018年3月、科学データの扱いに関して新規制を設けるとしました。この規制では、研究者は論文発表前に、国家機関に論文を提出して査読を経る必要があるとしています。この通達により、国務院の科学技術部が全国の科学研究データの集約と適切な使用を先導することが明確になったのです。この規制の目的は、研究によって得られたデータの品質の担保と、適切なデータ管理の推進です。つまり、これまで蓄積されてきた中国人研究者による研究成果を国家的に集約し、後に続く研究者にも有益なリソースとして提供できるようにしよう、というわけです。増加するオープンアクセスとデータ共有に対する布石ともとれます。

■ 中国の科学出版に多大な影響!?

この新規制は概ね歓迎されているようです。多くの研究者が、データの品質に問題があることに気づいていたことと、遅かれ早かれ中国における研究データを統括するデータセンターが必要となることが念頭にあったからでしょう。既に、論文出版に対する報酬金政策が中国の研究成果の出版を増大させることにつながっているので、新規制がデータの品質の保証および向上につながれば、鬼に金棒というわけです。

中国科学技術部の基礎研究司の葉玉江司長は、これまで規制が欠如していたことにより、中国の研究者は、自身の研究に有益なデータの数々を使用する機会を逃していたと述べるとともに、データの適切な管理が進んでいなかったことが、世界的な技術大国を目指す中国の進展を妨げていた、と人民日報に語っています。

しかし、研究者は中国政府の承認がなければ、自身の研究成果を発表することができなくなる、ということも忘れてはなりません。ほとんどの研究者は、自身の研究分野は影響を受けないと見ているようですが、この新規制に対して懐疑的な研究者もいます。論文をタイムリーに発表することができなくなるのではと心配する声があがっており、米国国立科学財団(NSF)のNancy Sung北京事務所長は、新規制により、NSFの資金援助を受けたデータや論文の発表が、遅れたりリジェクトされたりといった影響を受けるのではないかとの懸念を表明しています。この規制をめぐり、論争が生じる可能性がないとは決して言い切れません。

論文投稿数が伸び続ける中、大量の査読不正が検挙された中国において、論文出版に対する厳しい品質管理が必要であることは明白です。一部の研究者による不正が、国家単位での目覚ましい成果・進歩に影を落としかねないからです。今回の規制が期待された成果をあげることができるかは、この先数年の動きを見てみないとわかりませんが、少なくともこれが、科学データの品質を向上させつつ、将来のオープンアクセス化にも備えた重要なステップとなることは間違いないと言えそうです。

 

参考記事
Science: China asserts firm grip on research data
Enago academy: Paid to Publish—the Chinese Cash Cow
Nature: China cracks down on fake data in drug trials
Open Gov: China issues regulations for improving security and management of scientific data

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