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日本のAI医療 これからの課題と最新事例【2021年版】

自動翻訳や検索エンジンの最適化、自動車の自動運転や安全運転システム、お掃除ロボットまで、AI(人工知能)は生活の中に入り込み、その役割を広げつつあります。医学、医療・ヘルスケア分野も例外ではありません。医療業界でAI技術がどのように利用されているのか、日本のAI医療の状況について探ってみました。

医療AIへの期待

機械学習・深層学習技術の発展にともない、ニューラルネットワークによるデータの分析と学習を重ねることでAIは同時の判断基準を構築、分類できるようになりました。医療AIとは、このAIの仕組みを医療現場に取り込んだものです。医療現場では、診断、治療法や薬剤の選択など多くの判断が求められるため、医療AIの導入によって、より正確な判断が下せるようになったり、医療現場における人員不足による業務負担の軽減に役立ったりすることが期待されています。

医療AIの活用が期待されるポイント

  • 医療データの収集と活用
  • 医療現場の(管理)業務の効率化
  • 医療の質の向上
  • 患者の負担軽減と情報提供

通常、我々は病気にならないように「予防」し、それでも調子が悪くなったときに医師に「診断」してもらい、その結果に応じて「治療」を受けます。AIはこれらすべての段階で活用されており、医療従事者の人材不足や経験不足が問題となっている現状では、医療AIは患者・医療従事者の双方にとって非常に大きなメリットをもたらしています。さらに、マイナンバーカードの健康保険証利用が促進されているように、健康保険証医療保険制度や医療提供体制を含む医療社会インフラにおいてもAIの活用が見込まれています。

医療データの収集と活用

マイナンバーカードと国民健康保険の紐付けが実現すれば1億2500万人の国民データを集約することが可能になります。AIは蓄積されたデータ量が増えれば増えるほど正確性が増します。社会的な医療システムが確立していない国では同様の方法でのデータ収集ができないので、幅広く国民の医療データが収集できることは日本の医療戦略において実質的な強みとなるでしょう。

AIは、患者が自宅で診断に必要なデータを収集することも可能にします。例えば、大阪大学と東京大学の研究グループは、被験者が休息状態中の脳波や脳磁図(MEG)の波形信号を読み解くことで神経疾患の判定ができる自動診断システム「MNet」を開発しました。MNetがさまざまな神経疾患の診断を補助し、重症度、予後の判定、治療効果の判定などにも応用できると期待されています。

さまざまな産業・業界が連携し、データの収集や健康情報の提供を行っています。しかし、さまざまな手段で集められたデータがどう利用されるのかは気になるところです。日本は、利用可能なデータを収集するインフラの整備を進めている段階にあります。医療を含むさまざまな分野におけるAI開発はまだまだ始まったばかりで、今後大きく展開していく可能性を秘めています。重要なのは、信頼性の高いデータを大規模に収集し、いかに利用可能とできるかであり、日本各地で収集された臨床データをデータベース化すること、データを適切に匿名化し、研究者が容易に利用できるようにすることが必要です。

医療現場の(管理)業務の効率化

医療現場では人材不足の改善を目的としたAI導入も進んでいます。株式会社アルメックスが開発した「Sma-pa TERMINAL DESKTOP」は、患者の受付、保険証確認、請求処理などの管理業務を管理するAIアシスタントを搭載した次世代型多機能受付機です。顔認証を活用し、患者のモバイルデバイスと同期させることで受付機能から診療費のキャッシュレス決済までを患者自身で処理することができます。このようなアプリやツールを活用による医療現場の効率化が進めば、医師にとっても患者にとっても大きなメリットとなります。

医療の質の向上

日本の臨床医の数は1000人あたり2.4人と他の先進国に比べて低い(OECD平均は3.5人)のですが、超高齢化社会が進むにつれ、さらに多くの医師・医療従事者が必要となるのは明らかです。医師の数、医師の知識や経験にも限度があることから、医療AIの進化が医療の質や精度向上につながることが期待されています。医師は、限られた時間の中で、入手可能な情報を基に迅速な意思決定をしなければならないので、この意思決定プロセスにおいてAIを活用し、医師の負担を軽減する試みが進んでいます。

特に進んでいるのは、医療画像診断です。医療機器・技術の発達で読影が必要な医療画像数は増え続けていますが、その画像を見て診断を下す読影医(放射線科医など)の数はそこまで増えていきません。そこで人間が見落としがちな詳細情報までを一瞬で読み取り・解析できるAIによる画像診断技術が読影を助けることで、医師の負担を軽減することが可能です。さらに、医師の知識と画像診断技術を組み合わせることで、読影精度や効率の向上が期待できます。胸部レントゲンや心電図解析のようにスクリーニング目的の画像診断では、完全にAIに代替される可能性が高いとの見解もあります。

また、AIは腫瘍学などの分野の疾患分類でも利用されています。既に、コンピューター支援診断(CAD)システムが短時間で大量の読影を読み込み、マンモグラフィから乳がんを検出するのに利用されています。実際の生体サンプルを採取したり転送したりすることなく、画像から腫瘍の形態学的違いを比較し、疾患の分類が可能となれば、地域格差なく高い品質の医療を提供できる可能性が広がります。病理におけるAI利用の拡大は、医療の質および将来に備えた予防の向上につながるでしょう。

東京大学、島津製作所は、患者データから癌の存在を予測するAIを開発し、「人工知能により患者データから肝がんの存在を予測」と題した論文を英学術誌「Scientific Reports」に発表しています。患者情報の電子化により症例集積が加速すれば、このシステムのような精度をさらに向上させることも可能です。

医療AIスタートアップの早期成功例とも言える株式会社アルム(Allm Inc.)が開発した医療関係者間のコミュニケーションアプリ「Join」は、緊急時における脳卒中の診断及び治療方法の決定を支援するための遠隔コミュニケーションツールとして利用されています。ブラジルの大学病院では、Join実装後に患者が病院に到着してから治療が開始するまでの時間が大幅に短縮されたとの評価結果が示されました(米学会誌Strokeに掲載された論文)。現在、このアプリは新型コロナウイルス(COVID-19)感染対策を支援しています。また、同社は救急搬送トリアージアプリの「JoinTriage」も提供しています。これは、急性虚血性脳卒中のような急性疾患の患者が必要な治療をできるだけ早く受けられるようにするものです。地域の医療機関がどのような疾患に対してどのような治療ができるかを評価し、データベース化しているので、救急隊員が迅速なトリアージを行い、最適な搬送先医療機関に患者を搬送できるようになります。

新しいモデルやアルゴリズム、ツールはテスト・検証が行われた後に、その実利用が承認されなければなりません。日本の医療現場でAIをCDS(臨床医師決定支援)ツールとして利用するためには、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に基づく承認が必要です。政府は、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の中に、診断や治療にAIを活用する「AIホスピタル」を含めており、この実現に向けた研究開発計画を促進しています。AIを活用することで医療現場の効率化を図り、医療従事者の抜本的な負担軽減を実現することを目指し、官民でAIによる画像診断や治療方針の提案などを提供するシステム構築を推進しようとしています。

すでにAIの活用は診断の域を超えて発展しています。世界シェア7割を占める手術支援ロボット「ダヴィンチ」の基本特許の多くが2019年に期限切れとなったことから、手術支援ロボットの開発競争が激化しており、国内外で多くの企業が開発を進めています。さらに、ダヴィンチは医師が遠隔操作で手術を行う「支援ロボット」ですが、2016年には「STAR(Smart Tissue Autonomous Robot)」と呼ばれる自律型「手術ロボット」による豚の腸の縫合手術が成功したことが報じられました。将来、手術中に患者の内臓に触れるのは、医師の指ではなく金属になる可能性が高まっています。

患者の負担軽減と情報提供

AIの導入や活用が進めば、患者がスムーズに受診できるようにすることや、院内業務の効率化を図ることによる患者の待ち時間削減、適切な情報提供などが可能になります。多くの医療機関がAIの導入により、管理業務の改善による患者の負担軽減を目指しています。

インターネットを通じて情報が配信・更新されるようになれば、患者が適切な情報にアクセスし、自ら病状等を把握することに役立ちます。最近では、LINEなどのソーシャルネットワーク企業も医療分野に参入し、健康管理に役立つ情報提供を行っています。「LINEヘルスケア」は、2019年1月にLINE株式会社と医師向けのプラットフォームを運営しているベンチャー企業のエムスリー株式会社が設立した会社で、LINE上で医師に健康相談ができる遠隔健康医療相談サービスを提供しています。内科・小児科・整形外科・皮膚科・産婦人科・耳鼻咽喉科の医師に、身体の不調や急病の際に医師に相談できます。このようなシステムが整うことは、医療機関や医師と患者の双方の助けとなるはずです。

日本のAI医療の未来は

日本が独自の社会・技術インフラの下で人口減少地域の増加や高齢化社会の問題に取り組む中、AI医療の研究開発、議論が活発化しています。政府もゲノム医療や画像診断支援、医薬品開発等に積極的に取り組み始めていますし、大学や研究機関、民間企業もAI医療への参画を進めているので、実活用される技術は益々増えていくことでしょう。AI医療がさらに進化し、SF映画に出てくるような治療をしてくれる日は近いかもしれません。

参考情報:

「日本メディカルAI学会」が6月11-12日に学術集会の開催を予定しています。詳細は案内情報をご確認下さい。

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