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BREXITでEUの研究開発費削減か

十分な資金なくしては、革新的な研究は生まれない。これは研究に関わる人たちにとって確固たる事実でしょう。EUでは「Horizon 2020」とよばれる研究および技術革新を促進するためのプログラムを通して、巨額の公的資金を研究開発に投入しています。さらに、EUの立法機関である欧州議会は、今後7年間のEU予算における研究支援費の増額を検討していました。ところが、状況は経済大国イギリスのEU脱退、いわゆるBREXITにより一変しました。研究費申請の増加とBREXITによる深刻な財政問題の間で、EUが今、揺れています。
■ 高まる研究開発費の需要
Horizon 2020とは、2014年から2020年までの7年間にわたるEUでの革新的な研究および開発を促進するためのフレームワークプログラムで、770億ユーロ(約10.5兆円)の公的資金が投入されています。このプログラム内で行われる研究プロジェクトには、EU以外の国からも参加することができ、その応募は多数に上ります。中でもヘルスケアや宇宙に関する研究への助成金申請が今後も増加すると考えられ、現状の予算では十分ではないとの認識が持たれています。
そのため、欧州議会は後継プログラムである「フレームワーク9(2021年~2028年)」において、計1200億ユーロの投入を計画しました。このフレームワーク9では、環境に配慮したエネルギー利用、ナノテクノロジー、食の安全性といった分野にも注力することが支持されています。同時に欧州議会は、科学・技術分野におけるEU加盟国間の人材交流計画の一部であるエラスムス計画(The European Community Action Scheme for the Mobility of University Students : ERASMUS)の留学金助成予算を、現状の170億ユーロから3倍程度に増額するほか、貧困地域への資金援助や農家への農業政策補助金の交付も、併せて計画していました。
■ 巨額の拠出を担ってきたイギリスの脱退
ところが2016年6月、状況は一変します。イギリス国内での国民投票の結果、同国のEU脱退が決まったのです。イギリスは、EU加盟国の中でも研究開発への拠出金が多い国であり、年間120億ユーロもの拠出をしていたため、もしこの国が2019年3月に予定通り脱退すれば、大きな財源難を招きます。予算計画は暗礁に乗り上げてしまいました。
この事態を受け、欧州議会への発議権を持つ欧州委員会は、研究開発の重要性に関する大量の証言を収集し、研究開発およびエラスムス計画への予算は削減対象とすべきではない、という意見を全会一致で採択しました。また閣僚級会議でも、研究開発は最重要項目であり、十分な予算が割り当てられるべきであると承認されています。ただし、ここでは十分な予算がどの程度なのか、どの分野にどう割り当てられるのかなど、具体策までは言及されませんでした。
では財源はどうするのか?欧州委員会は、現状1%である各加盟国の拠出金を1.1%から1.2%程度に引き上げる案を欧州議会に提出しましたが、欧州議会は、1.3%まで引き上げる必要があると考えています。これに対し、西欧諸国は今以上の拠出負担に異議を表明、東欧諸国は受け取る支援金の削減に反発しており、EU内で折り合いのつかない状況が続いています。
2017年11月に2018年EU予算が発表され、Horizon2020には112億ユーロが割り当てられました。今後、欧州委員会は、2018年5月にHorizon 2020後の2021年から2028年におけるフレームワーク9の財政案をまとめる必要があります。研究開発の重要性が民間企業にも浸透してきており、主にヘルスケアやICT(情報通信技術)、自動車分野の研究への投資が増えてきていますが、商業利用に制限されない研究を継続するには、やはり政府による幅広い分野への支援は欠かせません。また、研究費を捻出できない財政の厳しい国にとって、Horizon2020のような公的な研究支援は不可欠です。BREXITの実現後、学術研究およびEUの経済発展の支えともなる研究開発に、どれだけの予算を確保できるのか……。動向が注目されます。
参考記事
Hrizon 2020とは(日欧産業協力センター)
Commissioners unanimously agree to protect research from cuts in 2021 – 27 budget
EU Parliament wants a substantially bigger research budget

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