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クラリベイトがJournal Citation Reports 2021を発表

2021年6月30日、Clarivate Analytics社(以下、Clarivate)が、学術誌評価分析データベースJournal Citation Reports(JCR)2021年版を発表しました。JCRは世界で最も影響力のある学術雑誌(ジャーナル)を特定するのに役立つ一方、新しい指標などについては議論も生まれています。

Journal Citation Reports(JCR)2021年版

毎年公開されるJCRの指標やデータは、世界の高品質なジャーナルの評価を行うのに有用です。2021年度版には113ヵ国からの20,000を越えるジャーナル、ならびに、自然科学、社会科学、芸術、人文科学からなる254の研究分野の論文が収録されています。これにより、JCRの収録範囲はWeb of Science Core Collectionがカバーする研究分野の全範囲となりました。また、収録ジャーナルのうち、ゴールドオープンアクセス(ゴールドOA)を含むジャーナルが14,000誌、完全なオープンアクセス(OA)は4,600誌以上と、こちらの収録範囲も拡大しています。収録範囲の拡大も含め、2021年版の特徴を紹介します。

新しい引用評価指標(Journal Citation Indicator)の導入

JCRは、ジャーナルの影響度の指標としてジャーナルインパクトファクター(Journal Impact Factor, JIF)をまとめて調査できる唯一のデータベースですが、JIFを巡っては、JIFが論文ごとの平均引用数を報告するものであり、方法論的な欠陥があるとの批判もあります。ジャーナルと論文執筆者を誤って比較してしまうとの指摘があることも踏まえ、Clarivate は2021年版に新たな引用評価指標「Journal Citation Indicator (JCI)」を導入しました。

JIFが過去2年間の引用数を平均化したものであるのに対し、JCIは過去3年間に刊行データからジャーナル毎の引用インパクトを分野別に正規化した数値であり、異なる分野のジャーナルであってもより正確に比較し、容易に解釈することができます。さらに、JIFが算出されていなかったジャーナルも含め、Web of Science Core Collectionに収録されているすべてのジャーナルについての算出が可能となっています。Clarivateによると、JCIは分野ごとに大きく異なる出版率および引用率を示すものです。しかし、この指標に対しても、依然として誤解や誤用を招きかねないとの批判が出ています。

Journal Citation Indictor(JCI)とジャーナルインパクトファクター(JIF)の違い

では、具体的にJCIとJIFはどう違うのでしょうか。JCIは、長年使用されてきた指標であるJIF、および現在学術研究コミュニティで使用されているその他の指標を補完するように設計された新しいユーザーインターフェース(UI)です。JCIとJIFは、先述のように算出ベースとなるデータが異なります。JCIは、3年間の引用データからジャーナル単位の引用インパクトを示す値なので、過去2年間のジャーナルのパフォーマンス評価は示されません。そして対象となるジャーナルはWeb of Science Core Collectionに収録されているすべてのジャーナル(JIFがないジャーナルも含む)にまで拡張されています。これにより、特定のジャーナル毎に、掲載された論文が特定の1年間に平均何回引用されているかを集計する(分母に引用可能数、分子に引用数をカウントする)JIFの欠陥が解消されていると言えます。

JCIは容易に理解できるように作られており、JCIスコア1.0は、平均であることを示しています。仮に、あるジャーナルのJCIスコアが3.5の場合、そのジャーナルの評価は平均の3.5倍であることを意味し、JCIスコアが0.5のジャーナルは平均の半分の評価しか得られなかったことを示しています。

Journal Citation Indicator(JCI)の課題

JCIは、Web of Scienceデータベース上で最初に各ジャーナルに割り当てられた主題に基づいて分類されます。 現在、Clarivateは235の主題分類カテゴリーを使用しています。分野横断的な分類は非常に理にかなっている反面、最初にJCIスコア算出される際には混乱が生じます。複数の分野にまたがる学術ジャーナルのJCIスコアが混乱することを避けるための唯一の論理的解決策は、そのようなジャーナルに複数のJCIスコアを付与することですが、この策はジャーナルごとに単一のJCIスコアを付与するというClarivateの目標と矛盾してしまいます。

この問題の解決に向けてJCIが抱えるもう1つの課題は、ジャーナル編集者または出版社がJCIスコアを検証したいと考えた場合、あらゆる分野のすべてのジャーナルに掲載されている全ての論文と、該当論文が関わるとされる横断的分野のジャーナルに掲載された全ての論文について完全な3年分の引用記録が必要となることです。実際の引用記録には透明性があるにかかわらず、ほとんどのユーザーは基本的にこの指標を再作成するためのデータセットと方法論を入手することはできません。こういった透明性と再現性の問題は、JCIに限らず、SNIP、Eigenfactor、Normalized Eigenfactor、Article Impact Scoreなどの指標に共通するものです。

JCRから除外された10のジャーナル

Clarivateは、JCR2021年版においてジャーナルの選択を巡る客観性ならびに報告書の整合性を裏付けることを目的として、JCRから10のジャーナルを除外しました。これは、掲載されたジャーナルの0.05%に相当します。Clarivateは、過度の自己引用や相互スタッキングの証拠が認められる場合など、不自然な引用が行われているとされるジャーナルを監視し、除外しています。JCR指標に対する自己引用の影響に関する方法論およびパラメーターは、2020年に更新されました。結果として、分野の基準の向上をもたらしています。なお、JCRからのジャーナルの除外は、Web of Science Core Collectionリストからの削除を意味するものではありません。

さらに、11のジャーナルに対しては編集上の懸念が表明(Editorial Expression of Concern)されました。これら11のジャーナルには、JIF算出式の分子(被引用数)に不自然に貢献し、ジャーナルの引用パターンがJIFの分子に偏って集中していると見られる1本以上の論文が含まれていました。Clarivateは、こういったタイプのコンテンツの調査を引き続き行い、JIFの歪みに対する追加スクリーニングの方法を開発すると述べています。

除外されたジャーナルの主張

当然のことながら除外されたジャーナルの出版社および編集委員からは、Clarivateの決定に対して見解が出されています。

「私たちは編集委員と連携し、高品質な研究論文を出版することに責任を持っています。現在のところ、該当ジャーナルに対して表明された懸念を精査している段階であるため、詳細は述べられませんが、今後、すべての懸念に適切に対処できるようにして参ります。」と、除外されたジャーナルの1誌と、懸念が表明された4誌の出版元であるSpringer Natureのチーフ・ジャーナル・オフィサーAlison Mitchell氏は述べています。

さらに、Arteriosclerosis, Thrombosis and Vascular Biology (ATVB) の編集者であるAlan Daugherty氏は、同誌が2年連続で懸念を表明されたことを受け、次のように述べています。

「米国心臓協会は、Arteriosclerosis, Thrombosis and Vascular Biology (ATVB) の出版元として、過去1年間Clarivateと協力し、引用に関するデータについて更なる知見を収集するために努力を続けて参りました。ATVBは、1981年のArteriosclerosis発行に端を発する専門誌であり、血栓症および血管生物学といった、成長を続ける分野を網羅するために、その範疇を徐々に拡大してきました。このように、特定的でありながら関連する研究分野における精緻な研究が行われてきたことを鑑みれば、ATVBおよび同誌に掲載されている論文が、通常よりも高い自己引用率となることは驚くべきことではありません。査読済み研究論文は非常に限られている一方で、懸念表明で求められている高度に技術的な基礎科学研究に注目することは重要です。我々は、自己引用を監視するClarivateの取り組みに敬意を表すとともに、引用に対する慎重な評価を含め、常に変化し続けている査読プロセスに確信を持っております。」

Clarivateの反論

「JCRにおける慎重に選出され構造化されたデータによって、研究コミュニティは、透明性を持ち、かつ出版社に中立なジャーナルの情報を備えた、より良い情報に基づく、より確信の持てる意思決定を行うことができるのです。私たちは2021年に、満を持して新しいコンテンツ、新しいユーザーインターフェース(UI)、そしてJournal Citation Indicatorを導入しました。Journal Citation Indicatorは、ジャーナル評価において元来から長い間用いられていた測定基準であるJIF、ならびに、現在研究コミュニティで使用されているその他の指標を補完するように設計されています。JIFに、こうした最新の要素を追加し改良を加えることは、研究コミュニティへのさらなるサポートと、研究者による意思決定に必要な情報を提供し、イノベーションのペースを加速させることができるような、信頼できる知見を提供することとなります。」と、Clarivateのサイエンス部門プロダクトグループの上級副社長Keith Collier氏は話しています。

ジャーナルは除外されるべきか?

ジャーナルを除外するかどうかは、以前より議論されていました。公平性および正確性を確保するため、一部のジャーナルを除外することは必要だとの意見もあります。
新しい指標JCIの公開に伴い、Clarivateは過去3年間のデータから、ジャーナル単位の引用インパクトを算出しています。ただ、依然としてジャーナルのJCIスコアを作成することは課題として残されています。すべてのジャーナルのすべての論文について、3年間の引用記録を完成させることも大きな懸念事項です。
Clarivateの新しい手法は、出版プロセスにおける倫理的慣行を確保するものとなるかもしれません。終わりの見えないコロナ禍に世界が巻き込まれている状況で、すべての研究者および関係コミュニティが、公開された科学に信頼を寄せられることが重要です。Clarivateは、ジャーナルの除外について透明性のある抗議プロセスを設けることが必要でしょう。なぜそのような高い自己引用率が生じたかをジャーナル側が説明するための公正な機会を提供すべきです。ジャーナルをいきなり除外するのではなく、情報提供をしたうえで判断を下すことも必要でしょう。

除外されたジャーナルがより良い反駁の機会を得るために、Clarivateはどういったアプローチをとるべきか。除外されたジャーナル側は、どのように対処すべきか。Clarivateが新しくリリースしたJournal Citation Indicatorとジャーナルの評価については議論が続きそうです。

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