文科省は3度目のノーベル物理学賞を狙えるか

文部科学省(以下、文科省)が 科学研究 に大きな予算を投じ、基礎研究のテコ入れを狙っているようです。その中には、「あの」有名大型研究施設の建設に関する調査費用も……。

■ 基礎研究への概算要求予算は増額したが……

文科省は2018年8月30日、2019年度の概算要求を発表しました。このうち「科学技術予算」は1兆1,680億円(2,054億円増)となっており、前年比で21%増。この要求予算には、最先端大型研究施設の整備、世界最速のスーパーコンピュータ開発、X線宇宙観測の設備、巨大素粒子観測施設の新設推進に向けた予算などが含まれています。しかし、これに先立つ7月に、政府が概算要求に関する基本的な方針を発表し、裁量的経費の10%削減を掲げていることを鑑みれば、内閣府が全体予算を「総合科学技術・イノベーション会議」(総合的・基本的な科学技術・イノベーション政策の企画立案および総合調整を行う場)で削減してしまう可能性は残されています。
1990年代前半から日本政府は、経済成長が低迷する中でも、経済効果が期待できる科学技術には投資を続けてきました。しかしここ10年は、その額も頭打ち状態に。2019年度予算は増額要求となりましたが、文科省が目指すほどの予算を確保できるかは不透明と言わざるを得ません。

■ 科学技術予算のポイント

科学技術予算は大枠で以下の4つに分類されており、その中でさらに細分化した項目ごとに予算が振り分けられています。

・Society 5.0を実現し未来を切り拓くイノベーション創出と、それを支える基盤の強化
・我が国の抜本的な研究力向上と優秀な人材の育成
・国家的・社会的重要課題の解決に貢献する研究開発の推進
・国家戦略上重要な技術の研究開発の実施

注目ポイントを見てみましょう。
研究者にとって影響の大きい科学研究費助成事業(科研費)は2,469億円と、前年度比8%増。さらに、iPS細胞などによる先端医療への活用に代表される、経済効果のあるバイオ関連研究を推進するため「先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業」として24億円を新規に計上しているので、このまま予算が確保されれば、研究者にとっては一安心となるかもしれません。

ハードへの要求予算増にも大きなものがありました。その一つが、スーパーコンピュータ「京」の後継機(ポスト「京」)開発。150億円増の206億円を要求しています。2021年頃の本格稼働を目指してポスト「京」プロジェクトが進められており、理化学研究所と富士通がCPU開発に携わっています。
スーパーコンピュータの開発については、計算速度の世界ランクは半年ごとに発表されるほど、その進化のスピードには目を見張るものがあります。「京」が世界一になったのは2011年と2012年。2018年6月25日に発表された世界ランク「TOP500」では、米国の「サミット」が、2013年6月以降トップを守ってきた中国を退けて首位に返り咲きました。日本勢の最高位は、産業技術総合研究所の「AI橋渡しクラウド」で5位。なんと「京」は16位まで順位を下げており、日本政府が巨額な予算を付けても巻き返しを図りたいと考えるのも納得です。

宇宙・航空分野の研究開発に関する取り組みにも大きな予算が振り分けられています。要求額は1,990億円と、前年の1,545億円から28%増。そこには、次世代航空科学技術の開発や2020年の打ち上げを目指すX線天文衛星ASTRO-H「ひとみ」の後継機の設計・製造計画、H3ロケットの開発・打ち上げ、火星衛星探査計画(MMX)のフロントローディングなどへの予算要求が含まれています。

また、要求予算の中には、共同利用・共同研究体制の機能強化による研究基盤の整備への予算も含まれており、日本が参加する国際研究プロジェクトへの支援や、個々の大学では実施が困難な大型プロジェクトの推進などに割り振られます。その一例は、2度のノーベル物理学賞につながる成果を出した「カミオカンデ」「スーパーカミオカンデ」に続く、次世代ニュートリノ観測施設「ハイパーカミオカンデ」の建設プロジェクトの検討です。
ハイパーカミオカンデは、東京大宇宙線研究所などが計画する素粒子ニュートリノの次世代観測装置で、素粒子物理学・原子核物理学・宇宙物理学・天文学の研究推進に貢献すると期待されています。検出器は地下に設置される直径74m、深さ60mの円筒形のタンクに超純水を満たしたものです。タンクの体積は26万トン、有効体積は19万トンでスーパーカミオカンデの約10倍の規模となり、その建設費は675億円におよぶとも言われています。文科省はこの建設費の削減に向けた調査費を概算要求に盛り込みました。2020年に着工、早ければ2026年に観測が開始される予定ですが、建設費の減額見通しが立たない場合には、スケジュールに影響する可能性も捨てきれません。素粒子のニュートリノを観測し宇宙誕生の謎に迫る大型施設が完成すれば、3度目のノーベル賞につながる可能性もあるものなので、順調に進むことが期待されます。

■ 概算要求から予算成立まで

ここに記した文科省以外の省からも、科学技術関連の予算は要求されています。2019年度予算の科学技術分野の概算要求額は、18年度当初予算比で13.3%増の4兆3510億円におよぶと報道されています。すべての省庁から出された概算要求予算は、財務省による検討・調整を経て閣議決定された後に、国会で審議され、予算成立となります。新たな予算の執行は2019年4月。審議の行く末を見守りましょう。

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