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続報 日本学術会議の戦いは続く

国会議論のコロナ対策答弁の中で管首相が「専門家の意見を聞いて」と言い続けていたのとは相反する政権の姿勢を揶揄する声もありますが、2021年も日本学術会議をめぐる論争は続いています。

管首相は、脱炭素化やデジタル社会の実現などに向けた研究開発を後押しすることを所信表明で掲げています。この方向に向けた動きのひとつとして、1月19日に政府の統合イノベーション戦略推進会議(議長・加藤勝信官房長官)が開催され、日本の新たな科学技術・イノベーション基本計画となる「第6期科学技術・イノベーション基本計画」の答申の素案が決定されました。ここには、研究開発への投資をこれから2025年度までの5年間で総額30兆円、官民合わせて120兆円とする目標が掲げられています。この計画の実現に向け、大学の研究や若手研究者の育成支援を行うことを目的とした10兆円規模の「大学ファンド(基金)」の創設も盛り込まれています。

管首相への抗議は続く

日本政府として日本の研究力の低迷を何とかしなければと対策を打ち出した形です。しかし、日本の学術界と政府との間のわだかまりが解決されたとは言えない状況が続いています。昨年9月末に、日本学術会議の会員任命を管首相が見送って以降、この問題はいまだに解決に至っていません。2021年1月28日、日本学術会議は管首相による会員候補6人の任命拒否問題を速やかに解決するよう求める声明を発出しました。現在も6名が欠員のままであるため、日本学術会議法の求める会員数を満たしていない状態が続いています。梶田隆章会長は同会議の今後のあり方改革の方針を議論する4月の総会までには定数の会員(210人)がいる状態にしたいと述べています。いまだに正式な回答や説明が行われていないと主張する学術会議側に対し、加藤勝信官房長官は翌29日の記者会見で、「任命権者として最終判断したものであり、一連の手続きは終了している」として学術会議の再任命の要望に応じない考えを示しました。

2月5日時点で日本学術会議会員任命拒否への抗議声明・要請書を発表した学会・団体は、学協会関係だけでも900を超えています(学者の会調べ、随時更新)が、海外の学術関係者もこの事態を憂慮しています。世界の科学者を代表する組織である国際学術会議(ISC: International Science Council)の代表であるDaya Reddy博士から2020年11月17日付けで梶田会長宛てに発出された書簡には、管首相の判断における透明性の欠如と、これが日本の科学的自由に及ぼす影響を非常に懸念すると記されていました。

日本学術会議が直面する2つの問題

1月7日付けのScienceの記事には、日本学術会議は2つの問題に直面していると指摘しています。1つは、同会議の会員の任命を首相が拒否するという前例のない事態。もう1つは、管政権が現在政府機関に属する日本学術会議を、国から独立した法人格に移すことを検討しているということです。

2つ目は、科学の独立性と政治的中立性を組織として担保する必要があるとの理由から、内閣府の「特別の機関」という現在の位置づけを見直し、政府から独立した組織とすべきとの見解に基づく議論です。自民党は、日本学術会議の在り方を検討するグループを作成し、12月9日に学術会議が独立することなどを求める「日本学術会議の改革に向けた提言」をまとめました。政府は日本学術会議に供与する予算を大幅に削減したいと考えており、資金を得たいのであれば政府の指示に従うことを要求しています。日本学術会議は年間約10億円(約970万ドル)の政府支援を受けており、日本政府はこの予算を多額だとして削減しようとしていますが、他国の国立学術団体と比較してみると、例えば米国国立科学・工学・医学アカデミーが2018年に政府機関から受け取った助成金などは総額で2億8000万ドルと桁が違います。自民党グループの提案に準じて本当に組織の在り方を変更するのであれば、日本学術会議法の改正にも及ぶことにもなるとみられており、日本学術会議にとってこの改革提言を全面的に受け入れることは難しいことでしょう。

さらに、この中には学術会議の会員構成の比率の見直しを検討する要請も含まれています。実態は分野毎の比率を指定し、人文・社会科学系の会員数を減らすことを求めたものですが、学術会議は総数だけを見て会員比率の見直しが議論されることに対して慎重な姿勢を示しています。4月から施行される「科学技術・イノベーション基本法」の改正では、これまで科学技術振興の対象から外れていた人文・社会科学が組み込まれることになっています。にもかかわらず人文・社会科学系の軽視と取られかねない要請をするのは、政府の進める科学・技術政策の方向性と矛盾するのではとの指摘は否めません。

提言に対する学術会議の反論

日本学術会議は12月16日に、「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて(中間報告)」報告書を井上大臣に手交しました。この報告書は改革のための提案を述べつつ、現在の学術会議は日本の科学界を代表しており、公的資金によって安定的に支持されながらも政府から独立して活動できることに留意したものです。これに対し、井上大臣は、日本学術会議が国立的な学術団体の役割を果たすために独立した新しい組織となる可能性を引き続き検討し、速やかに改革案を最終化するよう求めました。政府は、国から独立するか否かの検討と併せて、会員比率についても、今年4月に結論を報告するよう学術会議に求めていますが、学術会議は4月に結論を出すのは難しいとしています。

政府の意図は?

ここまでの政府の進め方から、政府の意向に従順ではない人を減らしたいという意図があるのではと見る人もいます。日本学術会議と政府の間には、2017年に同会議が軍事研究への関与に反対した声明を発端に長年にわたる緊張関係があり、それが今表面化してきていると考える人は少なくありません。このときの声明が、軍事と民事(平和目的利用)の両方に使える軍民両用用途の「デュアルユース問題」に大学研究者が参加するのを妨げたと言うのです。日本学術会議が、研究者に軍事研究から距離を置くように促してきたことを疑問視しているということなのでしょう。そして任命を拒否された6名の学者は、いずれも人文・社会系で、過去に安全保障法制や共謀罪審議の際に自民党の政策を批判したことがある点がScienceの記事でも指摘されています。国内のみならず国外でも、政府・自民党内ではこうした「従順ではない」人文・社会系の研究者であることや、政府の政策に異を唱えたことが否認の裏事情ではないのかと推測されていることが伺えます。

多くの日本の弁護士は、管首相の任命拒否は明らかな違法行為と指摘しています。日本学術会議の会員でもある京都大学の刑法学の高山佳奈子教授も「任命拒否は違法な学問支配」と述べていますが、日本学術会議自体が内閣総理大臣の所轄の下にある「特別の機関」であるため、法的に首相の決定を覆すよう求めることはできません。

そして、本来日本政府が目指すように科学技術を発展させ、社会の中で活用していくには法的、社会倫理的な議論が不可欠であることを鑑みれば、人文・社会系の軽視は日本の学術界全体の能力の低下にもつながりかねません。

日本学術会議は4月の総会で学術会議のあり方改革の方針を議論することになります。政府は、学術会議が作成する報告を踏まえて結論を出すとみられていますが、それで事態は収収拾できるのでしょうか。日本学術会議や学会、大学関係者らが、首相による任命拒否の理由が明らかにされないことに抗議し、同会議が適正な選考手続を経て推薦した委員を速やかに任命することを求めているのに対し、政府自民党からは日本学術会議の在り方および活動に問題があると指摘した上で提言を提出している状態で、論点がかみ合っているようには見えません。少なくとも現在までに管政権からの歩み寄りはなく、このままの状態が続けば研究者が行政審査を求める可能性も捨てきれないとの声も出ているようです。議論はまだ続くことになりそうです。


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