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インパクトファクターに影響を与える要素とは

自身の研究論文を投稿するならインパクトファクターの高い学術雑誌(ジャーナル)に――。そう考える研究者がほとんどでしょう。Clarivate AnalyticsおよびSCImagoは、掲載されている論文の引用数に応じて学術雑誌のスコア付けを行っています。このスコア、つまりその学術雑誌に掲載されている論文がどれぐらい読まれ・引用されているかの目安となるのがインパクトファクター(IF)もしくは、ジャーナルインパクトファクター(JIF)とよばれるものです。論文の引用回数が多ければ多いほど、インパクトファクターは高くなり、学術雑誌としての「格」が高いとみなされることになります。

一般的には多く引用される論文ほど価値が高いと考えられ、引用回数は研究の評価を決める重要な尺度と見なされているため、インパクトファクターの高い学術雑誌に自身の論文が掲載されることは研究者としてのキャリアに大きなプラスになります。研究助成金の獲得のチャンスも増えるため、研究者にとって学術雑誌のインパクトファクターは研究論文の投稿先を決めるにあたって、重要な指標と言えます。

では、このインパクトファクターに影響を与える要素にはどのようなものがあるのでしょうか。

■ インパクトファクターに影響する要素

インパクトファクターは、Clarivate Analyticsによって算出され、オンラインの学術データベースWeb Of Science上で公開されています。これは、各学術雑誌において、引用可能な論文が過去2年間にわたり引用された回数を引用可能な論文の合計数で除した値、つまり平均値を算出したものです。別の文献データベースScopusはCiteScore Metricと呼ばれる同様のスコアを算出しており、こちらは過去3年間に出版された文献を算出対象としています。Scopusは毎年このスコアを公表しており、研究者は経年で各学術雑誌のスコアを確認することができます。このようなスコアは機械的に計算されるため、特定の要素がその数値に影響をおよぼします。

インパクトファクターに影響を与える要素を以下に示します。

・論文の種類
研究論文よりもレビュー論文のほうが引用される傾向があります。

・分野
研究成果を得るまでの期間が長い分野の場合、2年もしくは3年という評価期間では引用されにくいため、引用回数は少なくなります。また、分野による研究者の人数(総数)も影響します。例えば、数学よりも医学のほうが研究者の数自体が多いので、相対的な論文の発表数に違いがあり、結果として引用数にも差が生じることになります。

・言語
英語で書かれた論文のほうが、英語以外で書かれた論文よりも引用されます。

・出版時期
インパクトファクターは、カレンダー上の1年間を測定期間と設定しているため、12月に出版されたものは年の前半に出版されたものに比べて引用回数は低くなります。

・掲載論文数
学術雑誌に掲載されている引用可能な論文数から算出するため、仮に同じ引用回数を持つ2誌があった場合、母数となる論文数が多い学術雑誌のほうがインパクトファクターは計算上低くなります。

■ 掲載数が増加している学術雑誌のインパクトファクター

さらにもう一つ影響を与える要素があります。それは、掲載論文数が増えている学術雑誌のインパクトファクターは、低くなっていくということです。なぜなら、急速に掲載論文数が増えると、それらが十分に引用されるには、2年もしくは3年の算出測定期間では短いのです。実際、PLOS ONEに掲載されている論文では、掲載論文数の増加はインパクトファクターに影響を与える可能性がある、とされています。

ただ、一方で、掲載論文数が減少すれば、インパクトファクターが上がる――とも言えません。例えば、1997年にLancetはLettersのセクションをCorrespondenceとResearch Lettersに分割した結果、それぞれのセクションの引用可能な論文数が少なくなったにも関わらず、インパクトファクターは17から12に落ちてしまいました。

このように、インパクトファクターという数値指標は、複数の要素に影響を受けます。さらに、従来の学術雑誌ではなく、オープンアクセスジャーナルへの論文投稿が増えていることも踏まえ、インパクトファクターという指標自体に疑問を呈する声も挙がっています。学術雑誌自体のインパクトファクターはあくまでも掲載論文全体の平均値であることから、それに掲載されている論文すべての価値が高いということにはなりません。インパクトファクターがそれほど高くないオープンアクセスジャーナルに投稿された論文でも、認知度の高いデータベースに登録されれば検索で見つけることができるので、世界中の誰もが、ジャーナルによっては無料で、閲覧することが可能になります。このような状況から、インパクトファクターだけを評価の基準とせず、他の指標も参考にするという認識が広がりつつあります。投稿先を探す際には、インパクトファクターに影響する要素とともに、論文公開に関わる状況なども考慮しながら、比較検討するのがよいかもしれません。

 


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