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学術界以外での就職先候補

博士号を取得しても、学術界以外での就職を考える人たちは少なくありません。その背景は、研究や教職を一生の仕事にする気になれない、研究職を続けるのは現実的に厳しい、実業界で働きたい、自分の経験とアイデアで起業したいなど多様でしょう。博士号を取得した学生の就職を支援するFindAUniversityが運営するサイト「FindAPhD」に掲載された英国における最近の調査では、博士課程の学生の80%が、研究職を一生の仕事にするのは難しいと考えていると報告されています。とはいえ、学術界以外の就職先を選ぶ場合、どのような就職先を考えるかは大きな問題です。そこで、学術界以外での就職を目指す博士号取得者が 就職先候補 を検討するにあたって、参考になる情報を紹介します。

他でも使える博士課程で身につけたスキル

就職先候補を考えるにあたって、自分のスキル(能力)を振り返って見ましょう。博士号取得までに身に着けたスキルは、他でも十分に活用できます。その例をいくつか挙げてみます。

  • データ分析力:複雑なデータを解析し、解釈する力
  • 問題解決力:実験などの課題に取り組み、その過程で幾多の問題に取り組んできた経験と解決力
  • 発表力:学会などの成果発表で培った能力
  • 執筆力:文章を書き、論文や書籍などの出版物としてまとめる力
  • 遂行能力:最小限の助力で大きな仕事をやり遂げる力
  • 企画・運営力:学会などのイベントを企画・運営する力
  • 協調力:共同研究やチームでの論文執筆などで、国籍や経歴も異なる研究者と協力して仕事をすすめた経験と、それを可能にした協調力

理系学生の就職先候補

上に挙げたような能力・経験を生かせる就職先は数多くあります。特に、理系学生の場合、専攻学問よりも広い視野で職種を考えてみるとよいでしょう。ここでは、候補に成り得る一般的な職種を紹介し、それらの特徴やその職種が求められる業種を例示します。

  1. 研究開発(R&D):学術研究の経験は、産業界での研究開発職にもそのまま生かせます。業種としては医薬品製造業などが挙げられます。
  2. 市場調査・分析:市場調査・分析に博士課程で習得した種々の能力が生かせます。商品製造・販売やサービスの展開などを行う広範な業種で活躍できる職種です。
  3. 医薬情報担当(MR):製薬企業の営業担当。医師など医療関係者に対し、医薬品の情報を提供して医薬品の適正な使用に資するとともに、医療関係者から自社などの医薬品に関するフィードバック情報を収集する職種です。専門家に対して、専門的な知識をもって科学的な情報を提供する能力が求められます。また、医薬品業界は、医療関係者だけでなく患者向けにも正確な医薬品情報を提供できる人材を必要としているので、MR以外にも学術的な知識が生かせる職があるでしょう。
  4. 事業開発管理:分析力や科学的専門知識は、新規事業の開発や、既存事業の管理業務に応用できます。あらゆる業種に求められる職種です。
  5. 経営コンサルタント:問題解決能力は、コンサルタントとしてチームとともに、クライアントの事業戦略を立案するのに役立ちます。経営コンサルティング業界は、社員に対する教育トレーニングが充実している企業が多いと言われているので、博士課程で習得した能力・知識をさらに磨くことができるでしょう。
  6. Competitive Intelligence Analyst(競合情報分析):経営コンサルタントに近い職種ですが、こちらは企業や製品などの市場での競合情報(自社にとっての脅威やチャンス、経営戦略に役立ちそうな情報)を、大量のデータを使って定量的に分析するものです。データ分析能力が求められます。
  7. 製品管理(プロダクトマネージャー):製造業などにおいて、製品の企画・開発から製造・販売、アフターサービスまでのライフサイクルを一貫して管理する職種。博士号取得に至るまでの多面的な経験と能力が応用できるでしょう。
  8. Quantitative Analyst(定量的データ分析):ビッグデータの分析やマーケティングを行う専門家である「データサイエンティスト」の一分類で、特に定量的なデータの分析や統計モデル作成、パターン認識などを行う職種。幅広い社会分析、市場分析などを行う業種で求められる職種。製品・サービスを提供するさまざまな企業をはじめ、金融関係も活躍の場と成り得ます。他の分類に、Quantitative Engineer、Quantitative Researcherがあります。

その他の候補職種

上の例以外にも、さまざまな候補があります。

  1. 起業家:問題を探り出し、調査を行い、研究のための資金を調達し、解決策を導き出し、その結果を論文などにまとめて公開することで広く共有する――こうした経験と一連の作業を実行する能力は起業家に求められる能力に重なります。
  2. 金融アナリスト:金融業界における株式アナリストや定量的データ分析には、分析力が応用できます。特にプログラミングスキルを有していると有利です。
  3. 高校教師:自分の専門分野に関連した学科を高校で教えることも候補の1つです。高度な専門知識と研究経験をもった教師は大歓迎されるでしょう。
  4. ライター:新聞、雑誌などの記事、またはブログなどを書くライター、あるいは製薬会社やバイオテクノロジー企業などで科学的・技術的文書を書くライターも考えられます。
  5. 技術移転職:学内で開発された特許製品・技術の実用化を目指して産学官の連携のもと大学が設置する技術移転機関に職を求めることができるかもしれません。
  6. 特許関係職:専門知識を生かして弁理士にアドバイスすることもできますし、自ら法律を学び、弁理士の資格をとるのも一案です。

日本の博士課程修了者の就職先

2018年に文部科学省が発表している調査結果によると、日本の博士課程修了者の就職先は、2015年時点では、大学等が5割強(52%)ですが、残りはそれ以外で、民間企業(25%)、公的研究機関(9%)、NPO(8%)などとなっていました。博士号取得者の就職先の移動を追跡した調査では、一度民間企業に就職すると、学術に戻ることはなく、NPOなどのその他に移動する比率が高いことも分かりました。また、博士号取得後にポスドクとなった人を対象とした「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査」では、約7割がポスドクを継続する(他機関でのポスドク継続も含む)としていますが、2割は大学職員またはポスドク以外の研究・開発職などへの職種変更を考えているとの結果が示されています。

学術界に残ってポスドクになれたとしても生き残って安定した学研生活を送るのが厳しいことを鑑みれば、博士号取得段階で学術界以外への就職を希望する人が多いのも納得です。せっかく積み重ねた経験とスキルをできるだけ就職先でも生かしたいと思うものの、日本の企業の新卒採用では職種を特定しないで採用する傾向が強いのが現状です。それでも、中途採用や博士号取得者の採用選考では、応募者が身につけている能力や専門知識に重きを置き、特定の職種を想定した選考が進められるケースが増えてきているとも言われます。

上に紹介した候補職種や業種が就職先を検討する参考になれば幸いです。

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