「再現性の危機」解決への新アプローチ

科学研究において「再現性」は、基本中の基本です。誰がその研究を試みても同様の結果を導くことができなければ、成果を信頼してもらうことは難しいでしょう。2014年に話題になったSTAP細胞。「STAP細胞はあります」との発言が記憶に新しいですが、他の研究者が論文に書かれた通りの方法で実験を行っても、STAP細胞の存在を確かめることはできず、最終的にnatureに投稿された論文も撤回された――。このように、再現性がない研究は認められないのです。

実は、別の研究者あるいは論文の著作者本人が、論文に書いてある通りの方法で実験をしても同じ結果が出ないことは、しばしば問題となり、この「再現性の危機」が、科学界の信頼性を脅かしています。

研究者自身が失敗を認めた 

研究にとって重要な再現性を担保するためには、研究計画や方法の透明性、データの収集・分析・保存が不可欠です。当然、研究者は細心の注意を払って実験計画を作り、方法を熟考し、データを処理します。それでも再現できない場合があるとは、どういうことなのでしょう? 

学術雑誌(ジャーナル)Natureのある調査が、驚きの結果を示しました。53の主要な癌(がん)研究のうち、再現可能であったものは6に過ぎなかったのです。要因の一つとして、情報共有の不足が考えられます。どの論文の著者も、自身の研究計画や方法、データ処理・分析の仕方であれば熟知していますが、それらの詳細情報が他の研究者や学会と共有されていない限り、他者が研究成果の価値を客観的に評価し、あるいはそれをうまく再現することは困難です。研究者が自ら好んで再現研究に関わることは稀なので、結果として再現できないという事態が生じてしまうのでしょう。

もし、自身の論文に対して誰かが疑問を呈したら、どうすべきでしょうか。自己弁護をする、というのが一般的な回答かもしれませんが、中には意外な反応を示す研究者もいます。

2010年、わざと自信があるような姿勢(パワーポーズ)をとることでなぜか自信がわくという心理現象の研究が行われました。不安な時でも自信のあるパワーポーズを2分間とるだけで、勇気を捻出するホルモン「テストステロン」が増加する、という彼女たちの研究。論文著者であるAmy Cuddy博士が、この研究の心理テクニックを『〈パワーポーズ〉が最高の自分を創る』という書籍としても出版したので話題となりましたが、2015年の追試では、同じ現象がほとんど再現されなかったため、パワーポーズの効果が疑問視されるようになりました。Cuddy博士は反論しましたが、2016年、オリジナル論文の共同研究者であったDana Carney博士が、自分たちの研究結果に対して自信が持てないことを表明。パワーポーズの信頼性は地に落ちたのです。

Loss of Confidence Project(自信喪失プロジェクト)

Carney博士が勇気を出して自身の研究の不完全さを公表したことは、学術界に衝撃を与えたと同時に、新たな示唆を投げかけました。誤りや再現性のなさを隠すのではなく、公にすることが、逆に研究の透明性を確保することになるのではないか、と。

Carney博士による表明をきっかけにして、Loss of Confidence Projectと呼ばれる新しい取り組みが始まりました。このプロジェクトは、失敗や再現性のなさをあえて公表しようというもので、著者らが自身の研究に再現性がないこと、あるいは失敗に終わった研究を学術界に共有する、という取り組みです。他の研究者が失敗の内容を踏まえて新たな研究を推進したり、研究内容の透明性を確保したりすることを狙いとした、これまでにないアプローチです。

とはいえ、自身の研究に誤りがあった、または再現ができない、といったことをすすんで公表したい研究者など、ほとんどいません。Carney博士は、実験の統計処理に問題があったことを指摘していますが、実験内容を冷静に分析し、問題を探るのは容易なことではありません。さらに、失敗や再現性への疑問を表明することは、自らの研究の信頼性を低め、自身のキャリアに傷をつけかねない行為です。誰も率先してやりたいとは思わないでしょう。実際のところ、こうした取り組みが学術界に根付くかは不透明と言わざるを得ません。

しかし、こうした取り組みが、学術界の発展に貢献しようとする志の上に成り立っていることは評価されるべきでしょう。研究の透明性の確保・向上に一石を投じる可能性は十分にあります。

STAP細胞をはじめ、科学論文の透明性や再現性の低さが話題に上がることが増えている昨今。学術界は、再現性の危機への対策を迫られています。その一貫として、すべての実験データをオープンにするなどの「オープンサイエンス」に向けた新しい取り組みも進んでいますが、再現性の危機の解決に向けた学術出版社、研究者らの奔走は続きそうです。

 

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