学術図書の企画書の書き方

学位論文と学術図書

研究者であれば、自分の研究が魅力的で、社会の進展に寄与するものであると信じたいものです。ただ、何年も自分の研究の中に閉じこもってしまっていれば、他人が自分の研究に対して興味を持つかどうか、客観的に判断することが難しくなるかもしれません。しかし例えば、多くの読者を惹きつける学術図書にできると出版社を説得できれば、それは客観的な指標となるでしょう。

著名な作家であっても書籍を出版するのは簡単ではありませんが、研究者が本を出すとなると全く異なる困難が伴います。

例えば、研究者が早い段階で執筆する長めの文章といえば、多くの場合、学位論文ですが、これは方法や結果、結論などのセクションで構成され、学位取得の可否を決定する研究者グループに向かって書かれるもので、書籍とは目的も体裁も別物です。

学位論文は「本」ではないのです。自分の専門分野に関する独自の研究についての情報を書くものですから、それをそのまま学術図書にはできません。

学術書籍のフォーマット、読者、目的

学位論文の場合、研究、執筆、データチェック、結果の分析といった長いプロセスを経て、著者は審査委員会に論文を提出します。審査委員会は、研究の領域や内容をある程度踏まえた上で審査に臨み、さらに学生からの口頭での説明を聞きます。

対照的に学術図書の場合、読み手はその本の中で書かれた情報のみで内容を判断します。

学術図書では多くの読者が気にするのは細かなデータや再現性ではなく、大きな文脈における内容やメッセージです。つまり論文とは違った書き方や文体が必要なのです。

そうしたメッセージ伝達手法を学ぶ上では、多くの本を読み、優れたストーリーテリングに触れることが有効でしょう。どのようにして読み手を引き込むか、著者の語りの戦略に着目し、自分のライティングにも取り入れられるようにしましょう。

また、修得した技法をこまめにアウトプットすることが、ライティング技術習得の近道です。さまざまな媒体でできるだけ頻繁に執筆することがよいでしょう。

ブログなどオンラインで、ある程度のボリュームのある文章を発信し続けることも一つの方法です。継続すれば、文体や表現の幅は広がっていくはずです。

書き始める前に

実際に学術図書としての書籍化を目指して執筆する前に、次のようなことがらを自問しておくとよいでしょう。

  • 自分の熱意。

今後も現在の研究プロジェクトをさらにおし進めていくのか。

  • 書籍化によるメリット。

研究を書籍化することが自分のキャリアにどの影響するか。

  • リソースと経験。

自分にはプロジェクトを完成させるためのリソースや経験があるか。

  • 競合との差別化。

自分の研究・書籍は、同じ分野の研究者の書籍とどう違うか。

  • スキルアップ。

本を確実に出版するため、ライティング・スキルを伸ばす準備ができているか。

学術図書の出版に向けた心構え

良い出版企画書を書くためには、出来上がった原稿か書籍の具体的な全体像がなければなりません。

天文学研究者でサイエンスライターのケイレブ・A・シャーフ(Caleb A. Scharf)は、Scientific American(サイエンティフィック・アメリカン)のブログ記事の中で、本を書く際にすべきことを、自身の出版経験から挙げています。

  • 出版経験者への相談:

同僚や同じ分野の研究者で学術図書を出版したことがある知人・友人がいれば、話を聞くのがよいでしょう。

  • 明瞭な記述:

専門的すぎる記述では、多くの読者に内容が正確に伝わらないかもしれません。

  • 信頼できるエージェントの確保:

アメリカなどでは出版エージェント/出版エージェンシーが著者と出版社の仲立ちをします。書籍の内容によっては、信頼できる出版エージェントを見つけることも重要です。

  • 適切な校正者:

書籍の出版において校正者の存在は不可欠です。特に英語を第二言語とする著者が英語での出版を目指す場合には、情報の正確性や、文法的な正しさ、読みやすさを担保するため適切な校正者を選ぶべきです。

  • 迅速な対応:

企画書などの提出物の締め切りを守ることは言わずもがな、関係者や協力者に対する迅速なレスポンスは不可欠です。

原稿がある程度まとまった段階で、出版社に書籍の概要を示す出版企画書を用意しておくとよいでしょう。出版社は、どのようなポイントを見るのでしょうか。

学術図書に出版社が求めるもの

書籍化のプロセスの中で、企画書は非常に重要です。出版社が、著者や著作について最初に知るツールであるからです。

どのような企画書が求められるかについては、分野やジャンルによって異なるため、出版経験のある同僚や出版エージェントなどに聞くとよいかもしれませんが、一般的に長くて詳細すぎる企画書は敬遠されます。

出版企画書は、例えば次のような構成です。

  • 書籍の概要(1ページ/4段落):

エピソード、主張、自分の研究がもたらしたもの、概要。

  • 目次とその説明

タイトルと各章の簡単な要約。

  • 最終原稿の特徴

単語数、図版の数。

  • ターゲット読者

誰が読むのか?どのように使われるか?

  • 競合

同じ分野の他の書籍。他の出版社が企画している書籍との違い。

  • 未完成原稿の抜粋

完成予定日と必要なリソース。

  • レビュアー

氏名と連絡先

  • 著者略歴

資格、専門知識、過去の出版物。

これはあくまで一般的な例です。出版社自体が企画書のガイドラインを掲示している場合もありますので、チェックしましょう。

ハーバード大学出版局(Harvard University Press)カリフォルニア大学出版局(University of California Press)などの大学出版局のサイトでは細かな指示が示されているため、それに従って作成すればよいでしょう。

なお、日本学術振興会の科学研究費助成事業(科研費)には、研究成果の公開促進を目的とする学術図書の翻訳と出版に対する助成枠があります。日本語書籍を翻訳し海外での出版をお考えの研究者の方は必見です。

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