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論文レイサマリー(要約)の書き方のポイント

毎年、何百万本もの学術論文が発表されており、毎日のように飛躍的な発見も生まれています。科学研究が現代の生活にすっかり溶け込んでいるにもかかわらず、一般の人にとって研究内容を理解することは容易でなく、まして最新の研究動向を把握するのはことさら難しいことです。たいていの場合、科学的な論文には専門用語が多く、一般的には分かりにくい書き方となっていることも一因です。しかし、研究者にとっては研究資金提供者やメディアの関心を集めると同時に、多くの人に成果を知ってもらうことが重要です。そのためにできることのひとつは、一般の人にも分かりやすい要約「レイサマリー(lay summary)」を書くことです。ここでは、レイサマリーの書き方と注意すべきポイントをみていきましょう。

レイサマリー(要約)とは

「レイサマリー」とは、誰でも理解できる簡易な言葉で研究の内容を説明するものです。研究論文の冒頭の「要旨(アブストラクト)」が研究者などを対象として研究概要を書くものであるのに対し、レイサマリーは専門知識を持たない人でも研究の内容を理解できるように書くものです。多くの学術雑誌(ジャーナル)がレイサマリーをウェブサイトのトップページに掲載することで、たくさんの人が科学論文に接することができるように配慮しています。例えば、Elsevierの学術ジャーナル「Epilepsy and Behavior Case Report」や「Journal of Hepatology」がレイサマリーを掲載しています。また、欧州連合における臨床試験制度であるEuropean Union Clinical Trials Regulationのように、レイサマリーの提出を求めている機関もあります。レイサマリーは、一般の人だけでなく、ジャーナリストや研究資金提供者など、該当分野の専門家ではない人にも研究内容を理解してもらうのに役立ちます。研究成果を一般にも広く知らしめ注目されることは、研究者としての影響力を高め、研究資金を確保することにもつながるので、非常に重要なことです。レイサマリーは、これらを可能にする手段のひとつと言えるでしょう。

レイサマリーの書き方のポイント

研究者にとってレイサマリーを上手に書くことは難しいものです。どのような情報を入れるべきなのか、どうすれば誰にでも分かる簡易な文章を書くことができるのか―ポイントを見てみましょう。

書くべき内容

レイサマリーは一段落程度の長さに収めましょう。論文の主要なポイントを要約して記述します。必要な情報を簡潔に網羅するためには、英語の6つの基本的な疑問詞への回答を書く方法と5つの項目についてまとめる方法があります。

●5W1Hに答える

英語の5W1H(When, Where, Who, What, Why+How)、つまり「いつ」「どこで」「だれが」「なにを」「なぜ」「どのように」に従って記述します。

●5項目についてまとめる
①「問題提起」解決に取り組んだ問題は何か
②「必要性」なぜその問題が重要なのか、なぜ取り組む必要があったのか
③「方法」どのようにして解決を図ったか
④「結論」どのような結果が得られたか
⑤「便益」成果が誰に/どのように役立つのか
についてまとめます。

ここに挙げた質問または項目の情報をすべて盛り込めれば、まずは合格です。とはいえ、端的に質問への回答を並べるだけでなく、読みやすくかつ論理的な順番で文章を作成するようにします。

分かりやすい表現を目指す

もうひとつレイサマリーを書くときに重要なことは、平易で日常的な表現で書くことです。学術的な文章に使われる表現は、日常的に使われるものと違います。慣れ親しんでいる学術的な表現を使わずに、一般の読者にも分かりやすい表現で書くことを目指しましょう。まず、学術文書を書くにあたって「客観性」を重視するように指導されてきたと思いますが、レイサマリーを書くときには客観的すぎるのは好ましくありません。文例を挙げてみるので比較してみてください。

学術論文スタイル:There is significant uncertainty in the literature surrounding this topic.[このテーマに関する文献には著しい不確実性がみられる。]
レイサマリー・スタイル:We still don’t know a lot about this topic. [このテーマに関してはまだ分かっていないことが多々あります。]

学術論文スタイル:Data was analyzed using SPSS and multilevel regression analysis.[SPSS(統計解析ソフトウェア)とマルチレベルの回帰分析を用いてデータの解析を行った。]
レイサマリー・スタイル:I analyzed data using quantitative methods. [データを計量的な手法で解析しました。]

これらの例文のように、受動態ではなく能動態で書かれていると分かりやすくなります。そして、専門用語をできるだけ避け、どうしても必要な場合には説明をつけるようにします。例えば、科学者であれば「タンパク質」が高分子化合物であることを把握していますが、一般の人にとっては肉やナッツ類に含まれる栄養素の一種と捉えるでしょう。他にも、科学的な表現を簡単に書き記すための解説などがあるので、参照してみてください。

やってはいけないこと

●大げさすぎる表題
注目を集めたいのは理解できますが、研究者は週刊誌記者ではありません。大げさすぎる表現は避けましょう。

●一般的あるいは具体性に欠ける表現
「気候変動は全人類にとっての脅威」や「膝痛は多くの人が抱える深刻な健康問題」と書くのではなく、話の内容をより限定し、具体的な問題に着目した書き方をすべきです。例えば前例はそれぞれ「オーストラリアにおける気候変動の影響に関する最近の研究によると―」や「膝痛は膝関節の負傷が原因で生じるものもあり、米国では四人に一人が痛みを訴えています。」などとすることができます。

●レイサマリーの確認方法
レイサマリーが、専門知識のない一般読者向けにも分かりやすく、適切に書かれているかを確認するのに最良の方法は、他の人に読んでもらうことです。友人や家族に読んでもらい、フィードバックを頼んでみてください。自分の研究を、まったく別の分野の人に説明してみることも一案です。話を聞いた相手から寄せられる質問で、どの部分を、もっと明確に説明すべきか、観客に伝わらなかった専門用語はどれかなどを把握することができるでしょう。

以上に述べたように、レイサマリーは、研究資金の提供者、ジャーナリスト、一般の人たちに研究成果を知ってもらいやすくするのに効果的です。専門家と非専門家の両方に研究成果を伝え、自分の研究成果の可視性を高め、価値を知らしめすことができます。そして、素晴らしいレイサマリーは、科学研究のパブリックエンゲージメントを高めるとともに、次の研究資金獲得につながり、研究者および資金提供者にとってメリットをもたらすことにもなるのです。

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