優れた科学コミュニケーターになって研究を広めよう
科学とは無縁の友人に、自分の科学研究について話をしてみたことがありますか?どれほど科学的な概念が重要で、動かぬ証拠に基づいているか、そして、いかに多くの人たちに認識されていないかに気づいて驚くことでしょう。COVID-19のパンデミックは、科学が人々の生活に及ぼす効力と影響を過小評価すべきではないとの教訓となりました。自分で科学的発見について理解すると同時に、周囲の人にも理解してもらうことの必要性はますます高まっています。
この記事では、驚くべき科学の謎を理解したいと心から願っている科学とは縁のない人たちに、科学研究を説明することの大切さと、科学コミュニケーターとして科学を説明する際に注意すべきポイントをまとめてみました。
なぜ科学に縁のない人たちに科学を説明する必要があるのか
今日、科学研究の成果は、科学分野の学術雑誌(ジャーナル)を介して世の中に伝えられています。科学分野で評価の高い学術ジャーナルは、専門用語で複雑に書かれているため、その分野の専門家だけしか理解出来ないと言われていますが、科学における発見や発明は、科学研究者だけのものではありません。最終体に、科学研究の成果は、科学者かどうかに関わらず、直接的あるいは間接的にあまねく人に影響を及ぼすものです。
科学および科学的発見を理解することはきわめて重要なので、科学的な研究論文や発見には説明が必要です。さらに、研究目的と広く世界の人に及ぼす影響をより深く理解してもらうためには、研究論文の構成要素の考察と結論という2つが鍵となります。研究成果を科学者以外にも届けるために、科学を万人にも分りやすいように説明する努力が求められています。
科学コミュニケーターとその役割
科学コミュニケーター(もしくはサイエンスコミュニケーター)とは、科学研究に関する知識を持ち、わかりやすく簡潔な方法で科学的知識を広めることを目的とした活動を行う人のことで、科学の普及において重要な役割を担っています。科学コミュニケーターは、科学に関する知識と効果的なコミュニケーションスキルを使い、科学とは縁遠い人たちの科学的理解の溝を埋め、研究成果や発見を理解する手助けをします。
科学をわかりやすく伝えるということは、研究者にとって、非常に優れた演説をしたり、教員を補佐(ティーチングアシスタント)したり、研究論文・学位論文を執筆したり、複数の実験を管理したり、結果を分析したり、革新的な研究成果の結論づけを行ったりするのと同様に、途方もない作業であるかのように思えるかもしれません。しかし、特定のポイントを抑えた説明の仕方をすれば、科学研究を簡潔にし、科学コミュニケーターとして自らの研究業績を世界に広めるのを促すことができます。
出典: 英国王立化学会
科学コミュニケーションによる恩恵
研究者が評価の高い学術ジャーナルに論文を発表すれば、その特定の研究分野の研究者の目には触れるようになりますが、研究が目指す最終ゴールではありません。この研究の重要性や研究全体における持続可能性にどう影響するかを、科学者以外の人にも説明する必要があります。
科学コミュニケーションがどのように研究者に役立つかを書き出してみます。
- より幅広い人々とその研究を共有できる
- 研究者の世界的な存在感を高める
- 研究者が発見したこと(研究成果)への信頼と認識付けとなる
- 研究の評判と影響力を高める
- より多くの資金が得られるように研究の認知度を高める
理解することが難しく、科学者以外にはほとんど意味がないように見える研究成果もありますが、すべての研究は大きな問題提起から始まっているので、科学コミュニケーターは、その問題への答えを示すことを目標としましょう。さらに、研究結果を簡潔にまとめることは、問題に適切な回答をするのに役立ちます。
優れた科学コミュニケーターになるために気をつけるべき8つポイント
1. 本題から述べる
科学コミュニケーターが、最初から全部説明しようとすれば、聞こうとする人はいなくなります。研究者は、常に基本から始めるという習慣をたたき込まれています。しかし、ほとんどの場合に必要なのは、問題を提起し、解決策を述べることだけです。そこで聞き手が興味を持てば、より詳しいことを尋ねてくれるでしょう。
2. 例を挙げる
概念を説明するときに例があると理解しやすくなります。例を示すことで、科学的な概念が、より関連付けて理解できるのです。例えば、心臓の機能を実際に見せるのは困難ですが、自分の脈拍数を測るよう聞き手に伝え、そこから血圧についての説明に話を広げることができます。
3. 比喩を使う
もうひとつは、比喩を使うことです。比喩は、例と同じく、伝える相手が概念と関連付け、説明を理解するのに役立ちます。例えば、ATP合成酵素の機能に関する複雑な分子生物学な概念は、ダムを流れる水の運動エネルギーを利用する水力発電所のタービンに関連付けて説明することができるでしょう。
4. 専門用語は避ける
専門用語を使うと、聞き手の注意が議論の主題からそれてしまいます。科学者でなければ説明内容が理解できず、不満を感じることにもなります。さらに、聞き手はその概念を理解することへの興味をなくし、以後理解しようとすることもなくなってしまうかもしれません。科学は理解するものであり、専門用語の知識をひけらかすためのものではないと知っていることが肝要です。
5. よく知られているキーワードを使う
聞き手が主題を速やかに理解するには、よく知られている適切なキーワードが役立ちます。聞き手は、よく耳にする言葉に親近感を持つことで概念をよりよく理解することができます。例えば、科学コミュニケーターが環境問題や持続可能性について説明する際には、地球温暖化、森林破壊、生物多様性、氷河の喪失、生物多様性への影響、といった言葉を使います。
6. 伝える相手に向けて概念を視覚化する
科学について説明する際、最も聞き手の興味を掴む確固たる方法は、伝える相手に向けて科学的概念を視覚化して見せることです。科学コミュニケーターは、インフォグラフィック、画像、動画、アニメーション、パワーポイントによるプレゼンテーションなどを使って、説明をより相互作用的(インタラクティブ)にすることができます。概念の視覚化は、聞き手がメッセージをつかむのに役立ちます。例えば、科学の教科書は、生物地球化学的循環(地球上の物質循環)の を説明するのに常にインフォグラフィックを使用しています。
7. 図解・画像を使う
図解や画像のほうが、文章よりも伝わります。図解や画像を使うことにより、複雑な概念を簡潔に説明できます。科学コミュニケーターにとっても、プレゼンテーションの流れを複雑にすることなく、概念を的確に説明するのに役立ちます。
8. ソーシャルメディアを使う
ソーシャルメディアは、幅広い世代に浸透しており、政策立案者やメディアにとっても重要なプラットフォームであり、他の研究者とつながるための重要な場でもあります。ソーシャルメディアは開かれたプラットフォームであり、異なる意見が出てくるところなので (研究成果に対して好意的な意見ばかりではありません)、ソーシャルメディアの利用に積極的ではない研究者もいます。しかし、これだけソーシャルメディアが普及している以上、自らの研究を伝えるにはソーシャルメディアというプラットフォームを活用すべきでしょう。
自分が研究者として何をしているかを説明することは、敷居が高いかもしれませんが、研究者だからこそできることとも言えます。だからこそ、若手研究者の皆さんは、セミナーやシンポジウムに参加して、自分の研究成果を伝える方法を理解するようにしてください。
まとめ
実験室で素晴らしい研究を行い、再現性ある実験を完成させようと、たくさんの研究論文を読破し、自分自身の進捗を見続けてきたことでしょう。論文がジャーナルに掲載されたことでそれまでの苦労が報われますか?今こそ、科学研究が認知されるときです。著名な研究者の間だけでなく、科学者ではない人にも同じように科学研究が認知されるべきです。そのために科学コミュニケーターとなって研究成果を広めてみませんか。