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ゲノム編集食品は安全?

猛暑や豪雨などの天候不順の影響で、野菜や穀物の供給が不安定になるなど、食品の安定供給が危ぶまれる中、ゲノム編集食品が静かに市場に入り込んできそうです。これは外国の話ではなく、日本の話です。

ゲノム編集食品が食卓に?

今年3月、Scienceに掲載された記事で、日本政府が安全審査や表示義務もないゲノム編集食品を市場に出すための準備を進めていることが報じられました。そもそもゲノム編集とは、遺伝子を切ったりつないだりして新たな形質を人工的に生み出す技術で、短期間での品種改良を可能にします。該当記事は、日本でゲノム編集食品の流通が容認されることで、食品として消費される植物および動物のゲノムを、ゲノム編集技術CRISPRによって作り替えることに門戸を開くことになると懸念したものでした。

ゲノム編集食品の登場まで

2013年1月、厚生労働省は薬事・食品衛生審議会 食品衛生分科会新開発食品調査部会の下に遺伝子組換え食品等調査会を設置。2018年9月の会合からゲノム編集技術を利用して作られた食品等の取り扱いについて審議を本格化させ、同年12月5日には方針を固めました。その結論は、ゲノム編集技術のうち、目的の遺伝子だけを編集する手法は、安全審査の対象外とするもの。ゲノム食品は、食品衛生法上で遺伝子組み換え食品とは異なる扱いとすることを妥当とし、その情報の届出は法的に義務化されないとしたのです。遺伝子組み換えが、一般的に他の生物から特定の遺伝子を他の生物に入れ込むのに対し、ゲノム編集は、CRISPRのような新しい技術を使って対象とする動植物の遺伝子を機能しなくする、あるいは改変することです。日本だけでなく、世界中で新技術を活用した品種改良が広がっています。そしていよいよ、厚生労働省は10月1日から開発者の届け出に先立つ相談受け付けを開始しました。ゲノム編集食品の解禁です。

ゲノム編集された食品は安全なのか?

食生活に大きな影響を及ぼす可能性を持っているゲノム編集食品。厚生労働省の新開発食品調査部会は、専門家による調査会での審議を踏まえ、2019年3月27日に、外部の(該当する生物以外からの)遺伝子を組み込まない手法でゲノム編集された食品は、食品衛生法に基づく安全性審査がいらないとする報告書を提出しました。これは任意の届けでのみでゲノム編集食品の販売を可能にするものです。表示が義務となっていないので「ゲノム編集食品は不安なので食べたくない」と思っても、消費者にはどれがゲノム編集食品なのかわかりません。厚労省側の主張としては、対象生物のゲノムを編集することは、自然に生じる突然変異や従来の品種改良などと同様であるため、表示を義務化するのは難しい――との見解です。消費者庁は任意での表示方法について考え方を示すとしていますが、ゲノム編集食品が区別できなければ消費者の不安が収まるとは思えません。

しかも、ゲノム編集の中には外部からのゲノム挿入を伴うものもあり、ゲノム編集食品と遺伝子組み換え食品の境は曖昧になり得るのです。ゲノム編集技術によって該当動植物以外の遺伝子を挿入し、外部の遺伝子がゲノム編集食品に残る場合には、遺伝子組み換え食品と同様の安全性審査や表示義務が課せられるとはいえ、消費者がこの2つの技術を分けて理解できるか、区別できたとしても不安が解消されるか――疑問です。

米国では遺伝子組み換え食品の規制緩和が進む

世界的に食糧難が問題視される時代において、食品の収穫量を増やしたり、気候変動による環境変化に適合できる作物を作り出したりするためには、ゲノム編集は有用な技術でもあります。しかし、その安全性に不安を感じる消費者は多く、ゲノム編集食品の扱いは国によって異なります。米国は、遺伝子組み換え食品の規制を緩和し、市場拡大を後押しする姿勢を打ち出しました。トランプ大統領は6月11日に、ゲノム編集食品を含む遺伝子組み換え食品の開発を推進するために、規制緩和の見直しを関係省庁(農務長官、EPA長官、食品医薬品局)に命令する大統領令に署名しました。ゲノム編集食品を有機食品として認める可能性にも言及しているため、健康な食を求めて有機食品を購入している消費者からの反発が予想されます。このように米国が規制緩和を進める一方、欧州は2018年7月にゲノム編集食品を従来の遺伝子組み換え食品と同等であるとし、規制する方向で安全審査を義務付けています。

米大統領令は、遺伝子組み換え食品の輸出するための戦略を確立するようにも指示しています。まさに9月21日からワシントンで日米貿易交渉が行われ、その中には牛肉などの食品に関する議論も含まれていました。日本が米国の農産物の大口輸入国であることも鑑みれば、トランプ政権による遺伝子組み換え食品の規制緩和方針は日本の食品安全行政にも影響を与えること、さらには日本にも同様の規制緩和を求める可能性も懸念されます。しかも、この米国の規制緩和とほぼ同じ時期に、日本政府はゲノム編集食品の安全性審査や表示義務の見送りを決めているのです。

ゲノム編集を推進する背景

日本国内でも大学や研究機関がゲノム編集食品の研究開発に取り組んできました。既に、栄養価を高めたトマト(筑波大など)、収穫量の多いイネ(農研機構)、筋肉量の多いマダイ(近大など)などが実現しており、今年中に販売開始を予定しているものもあります。その背景には、政府が6月15日に閣議決定した「統合イノベーション戦略」の中で、ゲノム編集技術のような革新的な技術を国策として推進する姿勢を示したことがあります。ゲノム編集技術は従来の遺伝子組み換え技術よりも、速くかつ低コストでゲノムの書き換えが行えることで、世界中で注目され、次々に新しいゲノム編集作物が作られています。日本の消費者が気づかないうちに、ゲノム編集食品が静かに食卓に浸透してきているのです。

厚生労働省では、届出の前に事前相談のシステムを設定しており、企業からの事前相談を受けたところで専門家が、安全性審査は必要ないのか、あるいは品種改良に比べてリスクが上がっていないのかをチェックするとしています。しかし、どのような手続きを経たとしても流通上の表示が曖昧であれば不安はぬぐえません。表示がなければ消費者は「食べない」という選択することすらできないのです。最先端の科学が食卓に上る日は近いのです。実際の販売が開始されるまでにきちんとした議論が行われ、消費者に必要な情報が届くようになることが重要でしょう。


【参考】
・厚生労働省:政策についてより「ゲノム編集技術応用食品等」(リンク
・薬事・食品衛生審議会 食品衛生分科会 新開発食品調査部会 遺伝子組換え食品等調査会資料(平成30年12月5日開催)(リンク

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