ポスドク の生き残り術、カギは「自主性」

ポスドク (博士研究員)とは、博士号(ドクター)を持ち任期制で学術研究に従事する人たちです。ポスドクはアドバイザーや主任研究員(Principal investigator)と呼ばれる指導教官の指導・監督の下で研究を進めますが、その多くは大学や研究機関などで正規の研究職に就けず、非正規で研究活動を続けている研究者です。数年間の研究プロジェクトに採用されることもありますが、任期付きであることには変わらず、将来の保証はされません。このような苦境の中、研究者として生き残るには、ポスドクの期間に何を意識しておくべきなのでしょうか。

■ ポスドクの時期に自主性を高めておく

勉学に励んだ結果、豊富な知識を持ちながら深刻な雇用問題に直面することが見えているポスドクになることに疑問を持つ人もいるでしょう。ポスドクになることが将来に役立つのかについての議論すらありますが、一旦この道に進むと決めたなら、自分の将来にとって重要な技量を磨くことや、その機会を最大限活かすことに集中すべきでしょう。自分の研究の間口を広げたり、必要とされる技能を修得したりすることも大切です。ポスドクの時期は論文執筆とその発表に時間を集中的に割くべきですし、併せて研究者間の人脈を広げることも大事です。このように、ポスドクの期間中に 自主的 に研究する力を鍛えておくことが大変重要です。

■ 自主性の大切さ

研究者が独創的な自分の研究目標を設定し、主体的に取り組むためにも「自主性」は不可欠な要素です。ポスドクの期間中に自主性を身につけるためには、次の二つが重要です。第一に、指導教官の指導に依拠するばかりではなく、自分で研究を考え、進行させる力をつけること。研究プロジェクトを運用する能力は研究者として職を探す際に求められます。第二に、研究者としての自分の名前を拡散し、評価を得ておくことです。ポスドクの間に研究活動の成果を論文に記し、発表する力があること、研究者として必要なスキルと判断力をもち、研究に従事する準備が十分にあることを示せれば、将来につながる可能性を高めることができるでしょう。

■ 自主性を高めるためにすべきこと

研究者としての自主性を高めるために、ポスドク期間中に次の点に取り組んでおくことをお勧めします。

1. 研究助成金に応募する(資金の獲得)
ポスドクが応募できる研究費としては、主に公的機関や民間が提供する助成金が挙げられます。ポスドクの期間に少なくともひとつはこうした助成金に応募してみるべきでしょう。資金を獲得できれば経済的な助けとなるのに加えて、主体的に研究を進められる研究者であることの証となります。

2. ニッチな研究分野に取り組む
研究者として評価され、大きなプロジェクトに携わることを示すための一つの方法としては、ニッチな研究分野を選択することが挙げられます。そのためには、さまざまな分野に視野を広げてみることです。新たなスキルの習得と知識の幅を拡大に資することはもちろんですが、指導教官から独立して自分の研究成果を発表するチャンスにつながる可能性もあります。

3. 研究成果を発表する
学術雑誌(ジャーナル)などで自分の研究を発表することは、自分がきちんとした研究者であることを示すとともに、自発的に研究を遂行し、研究分野における新たな発想を提案する能力があることを示すことにもなります。発表にあたっては、自分の専門分野のトップ級の学術雑誌に質の高い論文を載せることに注力すべきです。レビュー論文(総説論文)を執筆して、自分の専門分野に関する広い知識を示すことも一案です。また、他の研究者の論文作成に共同執筆者として協力すると、研究者のネットワークを広げることにもつながります。

■ ポスドクに立ちはだかる高い壁

ひとりでも多くのポスドクに研究者として成功して欲しいと願う反面、ポスドクの前に高い壁が立ちはだかっていることも認めざるを得ません。

米国の46の研究機関の7600人のポスドクを対象にした調査によると、自分が従事する研究プロジェクトの研究計画の策定に参加できているのは38%であり、35%は指導教官が主導的にあるいは完全に計画を決定しており、ポスドクが自主的に計画できているのは約25%にとどまります。ポスドクの自主性を育てるには、研究環境の改善も必要とされます。自主的に研究を進めやすい研究室や指導教官を選び、さらに指導教官と話し合うことでより自主性を重んじる研究環境にすることを勧める記事もあります。ポスドクの自由度が比較的高いと想定される米国でもこうした状況です。

伝統的に師弟関係や長幼の序を重んじる日本の学術界では、そうした傾向がさらに強いのではないでしょうか。日本ではポスドクの地位が不安定であると言われている上、キャリアについても安定した研究職に就けない「ポスドク問題」や「高学歴ワーキングプア」が社会問題となっています。文部科学省が2017年に公表した「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査」によると、ポスドクは2008年度の約1万8000人をピークに漸減傾向に転じ、2015年度には1万6000人になっています。うち3割は外国人です。分野としては理学が37%、工学が22%、保健16%、農学9%と理科系が8割を超えています。博士課程修了者が大学など学術分野に就職(ポスドクを含む)するのは5割強ですが、博士号取得者数は中国や米国は急増しているのに対し、日本は2001年以降、同水準から微減傾向にあります。これは日本の科学研究の基盤を揺るがしかねない事態です。日本の科学技術力を維持向上するためにも、ポスドクという人的資源を活用できる場を増やし、待遇の改善が求められるでしょう。収入やその後の就職の確保、研究環境の改善などによりポスドクの魅力を引き上げることが急務です。

ポスドクとして生き残り、研究者への道に進むのは楽なキャリアパスではありません。それでも、自主性を高めることは、研究者として成功するために、あるいは別の道に進む際にも大いに役立つと期待できるのです。

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