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中国の臨床試験 80%に不正か規定違反あり

本シリーズでたびたび取り上げている中国学術界の不正問題。新薬申請の臨床試験に対する取り締まりも強化されています。
国家食品薬品監督管理総局(China Food and Drug Administration,CFDA)が2016年9月に公表した調査結果によると、2015年に調査を行った1622件の新薬申請のうち80%以上(1308件)の臨床試験において、試験自体が終了できていないか、追跡できない、あるいはその両方の理由で結果が出ていない状況にあり、またデータに不正があるため、臨床申請を取り下げるべきであると判断されたのです。実験結果の捏造や不正確なデータの使用など、臨床試験における不正行為には、臨床試験指令の責任者、製薬会社、医療関係者などが複合的に関わっていたものと見られています。
■ 違反者には極刑も辞さず
80%という数字に驚いた方は少なくないかもしれませんが、中国の創薬業界では「想定内」との声が聞かれます。中国国営新華社系の経済新聞「Economic Information Daily(経済参考報)」は、臨床試験の結果が、実際の医学研究が行われる前に執筆されることや、既に市場に出回っている薬と併用するような試験が行われることすらある、と報じています。
この事態を重く見た中国政府は、臨床検査の実施方法についての新しいルールを作成しました。2017年4月、CFDAは、健康に関わる臨床試験に不正データが使われた場合、不正を行った製薬会社からの新薬の許認可申請を、同様のカテゴリーの場合は3年間、他のカテゴリーからの場合も1年間受け付けないと表明したのです。このルールの対象は、臨床試験用に不正なデータを提供した機関にも及び、新規の臨床試験の実施や進行中の臨床試験への参画も禁止されます。さらに、該当機関が作成したデータを使った他の新薬申請も却下されることになります。
中国政府の対策はこれに留まりません。CFDAの発表の当日、臨床試験に不正データを使用した場合、刑法で裁かれる可能性もあるとの通達が、最高裁判所より出されました。不正データを使って臨床試験を行った製薬会社などに対し、3年以内の懲役と罰金が課せられるのです。それだけでなく、不正データが公衆衛生上、重篤な被害をもたらした場合には、死刑もあり得るとしています。過失により誤ったデータを提出した場合には刑を逃れるとしつつも、中国政府の本気度が垣間見える厳しい政策です。
■ 問題の根源は……
臨床試験の不正となると中国がやり玉に挙げられがちですが、日本でも、スイス製薬大手のノバルティスファーマ(日本法人)による高血圧症治療薬の臨床データ操作事件が、ニュースで大きく報道されました。この件では、同社が薬の効果を高く見せるようデータを改ざんしたとして薬事法違反に問われました(他にも、慢性骨髄性白血病治療薬を用いた臨床研究の不正でも世間を騒がせました)。残念ながら、臨床検査の実施を製薬会社に依存する「製薬会社主導」の構造が、この問題に拍車をかけているのが実態です。
製薬会社による臨床試験での不正は、試験自体や医薬品に関する学術論文の信頼性を損なうものです。それを防止するための法律や倫理指針は存在するものの、研究者や製薬会社が意識しなければ、臨床試験における不正を根絶することは難しいと言わざるをえません。規制によってそれの改革を促す中国の取り組みが、果たして功を奏するのか。注意深く見守る必要がありそうです。


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